日体大・野球部~大学野球の頂上決戦・明治神宮野球大会で日本一を目指す
大学野球の一年を締めくくる「明治神宮野球大会」が始まる。
11月20日から始まる全国大会「明治神宮野球大会」には高校の部と大学の部があり、高校の部は3年生が引退したあとの新チームで挑むのに対し、大学の部は多くのチームが4年生引退前の最後の大会となる。
首都大学野球連盟の秋季リーグ戦で優勝した日体大は、関東五連盟の上位3チーム、計15チームが明治神宮野球大会の切符2枚をかけて戦う「横浜市長杯争奪 第20回関東地区大学野球選手権大会 兼 第55回明治神宮野球大会出場決定戦」に出場し、準優勝。2年連続14回目の出場権を獲得した。
昨秋にリーグ戦3連覇を達成し、今春は4連覇がかかっていた日体大だったが、まさかの5位。そこからもう一度チームを立て直し、秋は再び優勝、全国大会出場までたどり着いた。この勢いで、昨秋の全国ベスト4という成績を超えられるか。
「悔しくないのか」気持ちを入れ替えて臨んだ秋
今年の春、新チームで迎えた首都大学野球春季リーグ戦。開幕カードは、2部から昇格してきた帝京大との2連戦だった。その帝京大に2連敗し勝ち点を落としたあと、さらに東海大、桜美林大に連敗した日体大は、優勝どころか最下位に一番近いチームとなっていた。
個々の力はあるチームだが、正直、このときの日体大はまとまりに欠けていた。負けた試合のあと、大学のグラウンドで自主練習をしている選手たちの中に、いなければならない上級生の主力選手数人がいなかった。「連敗したあとのミーティングで『悔しい人は手を挙げろ』と言ったときには手を挙げていた4年生が、練習しているメンバーの中にいなかったんです。そういう心構えだとこの先も勝てない。その4年生たちを一度二軍に落としました」と、古城隆利監督は当時のことを振り返る。
バッティング練習では、明らかに二軍の選手とは思えない打球を飛ばす。一軍どころか、レギュラークラスの選手たちなのだから当たり前だ。それでも、気持ちの面で一軍に戻してもいいと思えるまで、古城監督はその選手たちを戻さなかった。
その後、城西大と筑波大になんとか連勝した日体大は、最下位を回避。5位で春季リーグ戦を終えた。
夏の帯広キャンプ、オープン戦ともう一度チームを作り直し挑んだ秋季リーグ戦は、1点差ゲームも多く楽な道のりではなかったが、1勝1勝を積み重ね優勝に近づいていった。そして、勝ち点を取った方が優勝という最終カードの城西大1回戦、ついに打線が爆発した。15安打10得点、10-3で快勝。2回戦では、先発の柱として投げ続けた篠原颯斗投手(3年・池田)が初完投、初完封を成し遂げ、秋から新主将となっていた黒川怜遠外野手(3年・星稜)の2点本塁打で優勝を決めた。
日本一に向けて乗り越えなければならない関東大会
今年の関東地区大学選手権は第20回の記念大会ということで、例年より5チーム多い15チームが出場した。5日間のトーナメント戦の日程が組まれ、準決勝2試合と決勝が同じ日に行われるというのも例年とは違う部分だった。
日体大の初戦は大会2日目の第3試合で、相手は関東学院大。この試合に勝てば中1日空けて準々決勝、その翌日の準決勝、決勝と戦っていくことになる。初戦の先発は、ドラフト会議でオリックスから2位指名を受けた寺西成騎投手(4年・星稜)だった。古城監督は「篠原の方が連投がきくので、寺西が初戦を投げて次(準々決勝で)篠原が投げれば、寺西は中2日空けることができます」と、その理由を話した。
寺西は5回1失点と試合を作り、打線も初回から先頭の小林聖周外野手(1年・浦和学院)が二塁打で出塁し、二番の門馬功内野手(3年・東海大相模)の適時二塁打で先制と寺西を助けた。酒井成真外野手(2年・東海大菅生)の1点本塁打などでさらに得点を重ねた日体大は、6-2で初戦突破。
試合後、寺西は「調子は悪かったですが、力まないように投げました。フォアボールも出さなかったですし、打たせて捕るように投げて、うしろもしっかり守ってくれたので良かったです」と穏やかな表情を見せた。
準々決勝の共栄大戦では、1回裏に先頭の小林が本塁打を放ち、初戦に続き先制。3回裏にも小林が二塁打で出塁、門馬の四球でチャンスを作ると、南大輔内野手(4年・花咲徳栄)、酒井、黒川の適時打で一挙4点を奪った。
この試合の先発投手は古城監督の宣言通り、秋季リーグ戦で防御率0.40、最優秀投手となった篠原。2回表に2失点し一度は逆転を許したが、4回から7回には9個の三振を奪う圧巻の投球を見せた。初回から3回まではゴロが多かったのに対し、4回から三振ばかりになった理由を尋ねると「相手のバッターがベルトの高さのボールに対して合っていたので、高めか低めどちらかに投げ切らないとこのまま(また失点する可能性もある)だと感じました。リーグ戦のときは全部低めの意識で投げていたのですが、まっすぐは少し高くなってもいいので強く投げようと意識しました」と教えてくれた。
5-4で共栄大に勝利し、準決勝進出を決めた日体大。準決勝で白鷗大に勝てば、明治神宮大会出場が決まる。
白鷗大戦でも1回裏に先頭の小林が内野安打で出塁。鈴木斗偉内野手(2年・山梨学院)の適時打で先制した。先発した寺西は大学公式戦最長の8回を投げ2失点。3-2で迎えた9回表はこの秋初めてクローザーに挑戦する篠原が登板したが、バッテリーミスなどもあり同点に追いつかれて延長戦に突入した。タイブレークで無死一、二塁から始まった10回表、相手のバッターは犠打を試みたがスリーバント失敗で1死一、二塁に。後続を抑えた日体大は、その裏に小林が犠打を決めると相手のバッテリーミスでサヨナラ勝ち、明治神宮大会出場を決めた。
古城監督は、この試合の勝因、また明治神宮大会の出場権を獲得できた理由をこう話した。
「やるべきことをしっかりやるというテーマでやってきたので、相手のバントを成功させない、こっちはどういう状況でもバントを決めるという練習をしていたのが、最後タイブレークでできたのかなという感じです。ピッチャーを中心にしっかり守る堅い守備も目指してきました。ホームでアウトにしたり、ダブルプレーを取ったりとしっかりやってくれたから(関東五連盟)代表を勝ち取れたのだと思います」
準決勝のあとにダブルヘッダーで決勝が行われたが、日体大は6-9で創価大に負けて準優勝となった。明治神宮大会には関東五連盟第二代表として出場し、初戦は九州三連盟代表の福岡大と戦う。
ただ、この創価大戦では野手のスタメンを半分入れ替え、リーグ戦で登板機会の少なかった投手の継投で戦った。古城監督も「リーグ戦で試せていない、この大会でも試せていなかった選手の中で、今後の試合に使える選手を見極めることができたので、それが次の戦いに生きてくれればいいかなと思います」と、手ごたえを感じていた。
明治神宮大会でも活躍が期待できる選手たち
一部を除いて多くの大学は、明治神宮大会が終わったあとに新しいチーム作りをはじめ、一年かけて育てていく。再び明治神宮大会を迎えるころに成熟したチームになっていれば理想的だが、日体大は間違いなく良くなってきている。
昨秋のリーグ戦で首位打者になり最高殊勲選手にも輝いた門馬が今秋のリーグ戦では調子が上がらず、過去に四番を打つこともあった酒井もあまり結果が出ていなかった。打線の爆発を期待するには、このふたりの復活が必須だった。
門馬は、打撃不振に真正面から向き合った。「今までは感覚でやってきた部分があったんですけど、今回のリーグ戦では結果が出ずに悔しい思いをしたので、感覚だけではこの先どうにもならないということを自分の中で理解して、試合の映像を確認しながら体の動きなどを一個一個、一から変えることを意識しました」。関東地区大学選手権が始まる前には「いい感覚になった」と確信できたことで、自信を持って打席に立つことができた。
門馬と酒井がこの大会で復活できたことで、打線はつながり得点力が格段に上がった。さらに、四番・指名打者の南がしっかりと役割を果たしたことも大きかった。中でも、準決勝の白鷗大戦で放った特大の本塁打はお見事だった。きれいな軌道のバットに乗ったボールが、そのままきれいな放物線を描いてレフトスタンド上段に達した。
南はそのときのことについて「寺西が頑張って投げていたので、1点でも多く取りたいという気持ちがホームランにつながったのかなと思います。インコースまっすぐを待っていたので、きた! という感じでした。打った瞬間に、これはいったなと思いました」と振り返った。
さらに、リードオフマンとして活躍したのが小林だ。小林は身長162センチと小柄な選手であるため、打球を遠くへ飛ばすことよりも内野と外野の間に落とす意識を持って打撃練習をしているという。調子の波を作らず維持し続けることを課題として、オープン戦から1試合に1本打つ意識でやってきたそうで「リーグ戦やこの大会でもその意識を継続できたのは良かったです」と振り返った。
「自分が一番びっくりした」という本塁打を打った準々決勝のあとには「わたくしごとなんですけど、明日は誕生日なんです。先輩方のおかげで自分の誕生日まで戦えていることに感謝して、神宮に行けるように自分のやることをやっていきます。優勝して終わりたいです」と笑顔を見せた。準決勝、決勝でも活躍し、15打数7安打4打点、打率.477で敢闘選手賞を受賞したが、準優勝という結果になったことには「こういう賞をもらったことはすごく嬉しいですし、今大会を通して少し自分の自信にはなったかなと思いますけど、やっぱり優勝できなかったのは少し心残りです」と納得していない様子で「しっかりいい準備をして、神宮大会で優勝できるように頑張りたいと思います」と決意を新たにした。
投手陣の先発の柱は秋季リーグ戦と変わらず寺西、篠原だったが、リリーフは秋季リーグ戦で最高殊勲選手となった伊藤大稀投手(3年・智辯和歌山)を欠いての戦いとなった。層が厚い日体大投手陣とはいえ、どんな場面でも頼れる伊藤がいないことに少し不安があった中で、春から故障や不調で思うような結果が出ていなかった箱山優投手(4年・日体大柏)が復調したことは大きかった。2試合でリリーフ登板、ピンチの場面もありながら投げ切った。ベンチでは大きな声を出してチームメイトを鼓舞。この一年は苦しいことの方が多かったとは思うが、箱山の言葉に励まされてきたと話す投手もおり、チームへの貢献は大きいと想像される。
宮下大地投手(4年・日体大荏原)も、2試合でリリーフ登板、2回1/3を投げて無失点と好投。明治神宮大会でも、箱山とともにブルペンを支えることになるだろう。今大会で先発、抑えとどちらも経験した篠原は、明治神宮大会もフル回転の覚悟だ。
「先発のときは、一発勝負ということで相手のバッターもリーグ戦より一層なんとかしようというのが感じられたのに、自分がリーグ戦と同じように試合に入ったことでポンポンと連打されて点を取られてしまいました。相手のそういう気持ちに負けないようにと切り替えて投げたら良くなったので、神宮大会や来年のリーグ戦でも必要な意識だと感じています。抑えに関しては、最後の1イニングで3つのアウトを取ることの大変さを感じました。神宮大会に行くと連戦になりリリーフもあると思うので、この経験はとてもいいものになったと思います」
篠原は、明治神宮大会で対戦してみたい大学として環太平洋大を挙げ、特に同じ徳島県出身で交流のある左腕、楽天2位指名の徳山一翔投手(4年・鳴門渦潮)と投げ合うのを楽しみにしているという。トーナメント表を見ると、環太平洋大と戦うためには決勝まで勝ち上がらなければならない。
主将の黒川は「全国から強豪が集まると思いますが、自分たちの野球をしっかり貫いて、目標である日本一になれるように全員で頑張ります」と力強く話した。
2017年以来の日本一へ、日体大ナインの戦いが始まる。
(取材・文・写真)山本祐香