保育士で構成される“型破りな”女子バレーボールチーム「ビオーレ名古屋」 設立の背景と描く未来

女子バレーボールチームの概念を覆す、型破りなチームが発足される。愛知県名古屋市を本拠地とする、「ビオーレ名古屋」。最大の特徴は、保育士だけで構成されている点だ。2022年4月の始動に向け、現在準備を進めている。

ビオーレ名古屋は、従来の考え方に捉われずに活動し、保育業界・スポーツ業界に新たな価値を生み出そうと考えている。チーム設立の背景や具体的な取り組み、描いている未来について、ゼネラルマネージャーを務める新友宏(あたらしともひろ)さんに聞いた。

チーム設立のきっかけは、自園での面接

ビオーレ名古屋の母体となっているのは、名古屋市内で8つの保育施設を運営している「学校法人正雲寺学園・栄寿福祉会グループ」だ。法人の理事長・寿台順章(じゅだいじゅんしょう)さんが、ビオーレ名古屋の代表を務める。

設立に向けた動きが始まったのは、2021年の6月だった。背景にあるのは、運営している保育施設での面接において、「ある望み」を持っている人が多かったことだ。

「面接のときに、『本当は、アスリートにもなりたい。でも保育士として働きたいから、アスリートの夢は諦める』という人が結構いたんですよ。そこで理事長が、保育士とアスリートを何とか両立させられないか考え、保育士のスポーツチームを作ろうという話になったんです」

栄寿福祉会グループの保育施設

新さんは、かつてVリーグでプレーし、引退後は指導者を経験している。大学教員時代にはバレーボールチームを立ち上げ、スカウト兼監督として、チームを大学リーグの一部に昇格させた実績もある。
※国内バレーボールの最高峰リーグ。男子はV1~V3、女子はV1~V2で構成される

しかし、バレーボールに再び携わることに嬉しさとやりがいを感じる一方で、懸念も抱いていた。

保育士は、現場における日々の積み重ねが、キャリア形成のために欠かせない仕事である。ただでさえ、近年は保育士不足が叫ばれており、アスリートとの両立は簡単なことではない。そもそも選手は集まるのだろうか。

「保育士とアスリートの両立が難しいことは、自分の経験から分かっていました。それに、『現場を大切にしたほうが良いのでは』『バレーボール選手との両立は無理だ』など、世間から懸念の声も上がると思ったんです。だから正直、最初はチームの設立に反対していました」

「でも理事長は、『保育業界を何とか明るくしたいから、とにかくやりましょう』と。たしかに、保育士の現状を変えるには、リスクを背負ってでも始めるしかない。と前を見続ける理事長の思いに納得し、チーム作りをスタートさせました」

チームの設立が決まると、大急ぎでトライアウト(入団テストを行うこと)を募集するチラシを作り、新卒生をターゲットに全国の大学へ送った。「1年目は応募が少ないだろう」と見込んでいたが、不安を吹き飛ばすように、なんと30名以上の問い合わせがあったという。「保育士×アスリート」を望む学生は、想像以上に多かったのだ。

ビオーレ名古屋の代表を務める、正雲寺学園・栄寿福祉会グループの寿台理事長(右)

目指すは3つの新たな価値の形成

ビオーレ名古屋は、チーム設立の背景とも関係する3つの価値形成を、理念の軸としている。

1つ目が「アスリートの価値形成」。選手を長い目で見たときに、バレーボールと仕事を両立させてこそ、人生が豊かになると考えている。

「引退したら自分が何をすべきか分からなくなったり、心にぽっかり穴が空いたり。私は、そのようなアスリートを何人も見てきました。バレーボールを辞めても、保育士としてのキャリアを活かして今後の人生を歩む。引退後の豊かな人生が担保されてこそ、アスリートの価値なのではないかと思うんです」

2つ目は「保育業界の価値向上」である。これは、保育業界が抱える課題への提言だ。

「保育士って、子どもたちの命を預かっている、本当にすごい仕事なんです。一方で、今は多くの施設で保育士が足りていない。一人あたりの負担が大きくなることで、ブラック園と言われる園も増えていて、悪循環が生まれているんですよ。Twitterで検索してみてください。『保育士やめたい』というハッシュタグがたくさん出てきます」

「だから、私たちの挑戦によって保育業界を盛り上げて、日々頑張っている保育士たちを笑顔にします。もちろん保育士だけでなく、子どもや保護者もです」

そして3つ目が、「スポーツチームの価値創造」である。ビオーレ名古屋では、スポーツチームの存在意義は「勝利」だけではないと考えている。

「スポーツチームは、お金を生むことも価値の1つだと思うんです。もちろん、勝利は大切だし、どこに価値を置くかはチームごとに違います。ただ、お金がないことには、スポーツって盛り上がらないんですよ。『お金=汚い』という印象を持つ人もいるかもしれないけど、お金はそのチームの価値を図る重要な指標です」

「スポーツチームの収益化による自主自立は、最終的には勝利に直結すると、研究でも明らかにされています。『勝利』だけに目を向けると、価値は持続しないと思うんです」

すべての選手がフルタイム勤務、活動は選手主体で

ビオーレ名古屋の選手は、管轄するいずれかの保育施設に配属され、他の保育士と同様にフルタイムで働く。練習を行うのは、仕事終わりや休日だけだ。保育士としてのキャリアを積むために、一般の保育士との間に特別な差は設けない。

その分、チーム作りは選手主導で行う。練習だけでなく、PR活動やスポンサー集めなども選手が進めるようだ。内発的な動機づけを重視することで、自分たちで試行錯誤しながら活動する。

「選手との面接では『自分たちの価値とは何か』『その価値をどう周知し、持続できるか』この2点を考えてもらっています。逆にバレーの技術については話しません」

「もちろん、私たちは全力でサポートしますよ。ただ、受け身になっていては力が付かないし、やらされている努力には持続性もありませんからね。選手には、たくさんの失敗や意見のぶつかり合いがあって当然だと思います。それが人を成長させる。子どもの保育や教育と同じですよ」

「型破り」な取り組みを進める

新しい価値を創造するために、ビオーレ名古屋が掲げているキーワードは「型破り」。実際に、これまでの保育業界・スポーツ業界の枠に捉われない取り組みを、次々と進めている。たとえば、2022年1月には、愛知県内の芸能プロダクションとパートナー契約を結んだ。活動を盛り上げるために、専属アイドルとの様々なコラボを計画している。

「アイドルって、自分を全面に出しながらファンを増やして、それを収益につなげるじゃないですか。バレーボールのようなチームスポーツは、協調性が大切にされる一方で、個人が目立ちにくい空気感もあると思うんですよ。アイドルの姿勢を参考にして、ビオーレのメンバーも自分を全面に出してほしいですね」

芸能プロダクションとパートナー契約を締結した際の集合写真。前列右(グレーの上着)が寿台理事長、2列目右(黒の上着)が新さん

マスコットキャラクターも型破りだ。「びおな」と名付けられたそのキャラクターは、他のどのバレーボールチームにもないような見た目をしている。

「『びおな』は、人間でもあり、動物っぽくもある。さらに言うと、男の子でもあり、女の子でもあるんです。固定観念がないんですよ。しかも、萌え系キャラクターって、スポーツチームとしては珍しいですよね。ここにも、『型破り』の意味を込めています」

「びおな」が描かれた、ビオーレ名古屋のメインエンブレム

YouTubeやTikTokを活用する計画もある。バレーボールに関する専門的な内容を取り扱うだけでなく、たとえば「バレーボール選手が●●やってみた」のような、バラエティに富んだ取り組みも積極的に行う。「面白さ」を重視しながら、多くのファンを獲得したいと考えている。

寿台理事長が考える働き方であり、法人の理念にもなっているのが「脱・仕事人間」と「遊ぶために働け」。この理念の下、選手たちは、バレーボールに対して自らの好奇心や探求心のままに取り組む。そうすることで、日々の保育業務もさらに充実するのだろう。

最終的な目標は「Vリーグへの参入」

ビオーレ名古屋は、クラブチームとして発足され、2022年はクラブチームの日本一を決める「クラブカップ」での優勝を目指す。その後の目標が、Vリーグへの参入だ。

すでにトライアウトは終え、2022年2月時点で13名の選手がそろっている。内定が決まっている選手は、ほとんどが春高バレーやインターハイへの出場経験者。大学時代も、関東二部や関西一部リーグなどの高いレベルでプレーしていた選手が多い。「勝利だけが価値ではない」という考えは大切にしながらも、強力な選手を携えて目標へ向かう。

内定選手。坂本朱乃選手(左)は共栄学園の主力を担い、私立高校の全国大会で優秀選手に選出。木村桃華選手(右)は178cmの長身が武器で、大学時代は兵庫県大学選抜メンバーに選ばれている

チーム名の「ビオーレ」は、イタリア語で遊びを意味する「ジョカーレ」、同じくイタリア語で賞賛の意味を持つ「オーレ」、チームカラーの「バイオレット(紫)」を組み合わせた造語。紫色のユニフォームに身を包んだ選手を、子どもたちが賞賛する姿から付けられた名だ。

バレーボールを通して子どもたちの笑顔を育むため、そして保育士とアスリートにとっての新たな道を築くため、ビオーレ名古屋の挑戦が始まる。

(取材 / 文:紺野天地)
(写真提供:ビオーレ名古屋様)

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