北海高校監督の父に背中押され入部約3か月で野手転向 仙台大・平川蓮が選んだ「挑戦」の道
2年連続で明治神宮大会出場を果たし、今春は8年ぶりの全日本大学野球選手権出場を目指しリーグ戦を戦っている仙台大。今年の野手陣は3、4年生の主力が多く、プロ注目遊撃手の辻本倫太郎内野手(4年=北海)をはじめ経験豊富な選手たちがチームを牽引している。一方、下級生の有望株も徐々に台頭してきており、そのうちの一人が平川蓮内野手(2年=札幌国際情報)だ。
左の好打者で、遊撃、三塁を守る高身長の内野手。2年生ながらオープン戦から積極的に起用されると、開幕メンバーに入り、主に代打でここまで5試合に出場している。7打席に立って4打数1安打、3四死球で、東北大2回戦では「7番・指名打者」で初めてスタメンに名を連ねた。
部員数の多い仙台大で早くも出場機会を得ているが、実は野手を始めてからまだ1年も経っていない。投手として入部するも、入部約3か月で野手転向の道を選んだのだ。野手転向までの葛藤や決断後の努力に迫った。
春は投手、秋は野手で出場した大学1年目の新人戦
昨年5月29日、春の新人戦決勝。東北福祉大と対戦した仙台大は2点リードの9回に6点を失い、逆転負けを喫した。9回二死から火消しのためマウンドに上がったのが平川。最初の打者に適時打を浴びるも次打者は二飛に打ち取り、これが大学入学後初の公式戦登板となった。
それから約4か月後の9月18日、今度はリーグ戦デビューを果たす。ただ投手としてではなく、東北工業大2回戦の7回に代走で登場した。さらに11月5、6日に行われた秋の新人戦は2試合とも遊撃でスタメン出場。いずれも上位打線を打ち、東北福祉大との決勝では初回に先制の適時二塁打を放った。この4、5か月の間に一体何があったのか。
昨年7月頃、いつも通り投球練習を終えると、主に野手の指導を担当する小野寺和也コーチから声を掛けられた。「野手をやってみないか」。予想だにしなかった提案に驚き、その日は「少し考えさせてください」と返答した。
「投手としてプロへ行く」ことを志して仙台大を選び、入学から約3か月で最速は高校時代を3キロ上回る143キロまで伸びた。新人戦でも登板機会を得て少しずつ手応えをつかんでいただけに、即決はできなかった。それでも翌日には小野寺コーチに「いったん両方やってみます」と伝え、「投手5割、野手5割」の練習に取り組むようになる。当初は守備練習はせず、投球練習を優先して行い、その後にティーバッティングなどの時間を設けていた。
しかし5割ずつの練習を中途半端だと感じるようになり、9月からは野手に専念。内野の守備練習を始めたばかりの頃は簡単なゴロさえ捕球することができなかったが、小野寺コーチとの猛特訓の成果もあり短期間で急激に上達した。今オフは、守備は遊撃の名手である辻本、打撃は同じ左打者の坂口雅哉捕手(4年=八王子学園八王子)につきっきりで極意を教わり、攻守ともに実力を磨いてきた。
迷いを吹き飛ばした父の言葉
野手転向を後押ししたのは父・敦さん。北海道の名門・北海高校硬式野球部の監督で甲子園準優勝経験を持つ、高校野球界では言わずと知れた名将だ。父とは大学に入学してから頻繁に連絡を取っており、試合の動画を送って助言をもらったり、食事面の相談に乗ってもらったりしている。小野寺コーチから野手転向を勧められた際も相談し、その時返ってきた「自分のしたいようにしろ」との言葉が挑戦を後押しした。
幼少期、父から野球の話をされることはほとんどなかった。自然と野球を始め、気づけば野球の虜になっていた。札幌市で生まれ育ち、父のいる北海も受験し合格したものの、「父親を倒す」との思いで公立の札幌国際情報へ。ライバル校の監督とはいえ元投手で数々の名投手を育ててきた父に、自宅では投球フォームや配球に関する質問をぶつけた。結局公式戦で北海と対戦する機会はなかったが、年に1度の練習試合では好投してみせた。
「野球のことを一番知っている人で一番聞きやすい人なので心強いし、親でよかった」。絶大な信頼があるからこそ、父の言葉通りすぐには好きな投手を諦めず、しばらく時間が経ってからは自身の感情に従って野手一本に切り替えた。これからも父であり、最も身近な野球の恩師であり続ける。
大学4年間で「挑戦」の続きを
高校時代は「いろんなことに挑戦した」。入学時身長172センチ、体重59キロと細身だった体型が食事の回数を増やしたりすることで強化され、卒業時には身長が180センチを超え体重も85キロまで到達した。投手としては体が大きくなったこともあり、高校3年間で最速が120キロ台前半から140キロまで上昇。野手としては高校2年次に肘を痛めた影響で右打者から左打者に転向し、4番を任されるほどの打撃力を身につけた。
特に後半にかけて大幅に成長しただけに、「身長、体重も変わって全く違う自分になった。高校生活がもう一年あってほしかった」と完全燃焼はできなかった。ただ大学で新たな挑戦が始まったことで、成長速度が再び加速している。「投手だったらベンチに入れるか入れないかの瀬戸際だったと思う。今結果的に野手としてリーグ戦に出場できているのは嬉しいこと」と昨夏の決断を後悔してはいない。
目指す打者のタイプは「コンパクトに振って、スイングスピードで大きな打球を飛ばすホームランバッター」。目標はもちろん、「野手としてプロへ行く」。打撃の面ではなるべく長い時間ボールを見て弾き返すこと、バットを振る回数を増やしてスイングスピードを上げることを意識しつつ、守備力も向上させている最中だ。「野手・平川蓮」の挑戦は続く。
(取材・文・一部写真 川浪康太郎/写真提供 仙台大硬式野球部)