2年目、さらに進化したジャパンウィンターリーグ
2023年の11月23日から12月24日まで、第2回のジャパンウィンターリーグが行われた。
参加選手数は101人に増加
これは、日本で初めての本格的なトライアウトを主要な目的としたリーグ。選手は十数万円から三十数万円の参加費を支払って参加し、ほぼ1か月にわたってリーグ戦を行う。
昨年は1リーグで行われたが、今年は実力によって、アドバンス・リーグ、トライアウト・リーグの2つのリーグに分かれ、アドバンス・リーグは沖縄県宜野湾市の宜野湾市民球場、浦添市民球場、トライアウト・リーグは沖縄県沖縄市のコザ信金スタジアムで、リーグ戦を行った。
日本人選手は社会人、大学、高校の卒業生、独立リーグなどが中心。さらに海外からも参加したが、今年はアメリカ、ヨーロッパなど10か国の選手が参加した。
参加選手数も昨年の66人から101人へと増加した。
アドバンス・リーグは社会人野球の現役選手や独立リーグ選手が中心、トライアウト・リーグはそれ以外の選手が中心だったが、実力によってリーグを移動する選手もいた。
アドバンス・リーグは11月23日から12月17日までに18試合、トライアウト・リーグは11月25日から12月24日までに21試合を消化した。
本格的な「リモートスカウティング」
ジャパンウィンターリーグの最大の特色は、すべての試合がYoutubeの動画で配信されていること。それだけでなく、すべての試合は弾道計測器「ラプソード」やバットのグリップに装着して打者の打撃データを計測する「ブラスト」で、投打のデータが動画上に表示されていた。
つまり選手のパフォーマンスが、オンタイムで世界に配信されていたのだ。
ジャパンウィンターリーグは、NPBやMLB、CPBL(台湾プロ野球)、社会人野球、独立リーグと提携している。データが表示された動画情報は、こうした団体に配信され、スカウトや編成担当者が見ることができた。本格的な「リモートスカウティング」が実施されたのだ。
選手の試合でのパフォーマンスは、即「次のステップ」につながっていたのだ。
今季、海外からの選手の参加が増えたのは「ジャパンウィンターリーグでプレーすれば、日本でプレーするチャンスが広がる」と思う選手が増えたからだ。独立リーグなどでプレーしてそこからNPB、MLBを目指す選手もいれば、日本野球の技術やトレーニングなどを学んで、自国の野球を進化させたいと考える選手もいた。
筆者は、昨年からジャパンウィンターリーグを取材しているが、今年は外国人選手が多くなったこともあって、国際色が豊かになり、雰囲気がずいぶん変わったように感じられた。
先進のセミナーも
また、ジャパンウィンターリーグは、単に試合をするだけでなく、野球指導者やアナリスト、トレーナーなどが様々なセミナーも行った。
元オリックス、阪神の名内野手で、今季から台湾プロ野球(CPBL)の中信兄弟の監督になることが内定している平野恵一氏は、選手に対して「指導者やスカウトは、選手のどんなパフォーマンスを見ているか?練習や試合ではどんなプレーをすべきなのか」をレクチャーした。
アメリカの先進的なトレーニングジムで、大谷翔平選手なども利用していることで知られる「ドライブラインベースボール」のバッティングトレーナーであるダニエル・カタラン氏は「バッティングに一番大事なのは何か?」をシンプルな理論で紹介した。
さらに、トラックマン野球部門責任者、ラプソードのプロダクトマーケティングマネージャー、ミズノの「ブラスト」担当者、データ分析会社「DELTA」のアナリストなどの「野球データ」のスペシャリストが、計測されたデータの「何を見るべきか」「どう解釈すべきか」「どのように役立てるべきか」を、具体的かつ分かりやすく説明した。
こうした内容の濃い「座学」も、ジャパンウィンターリーグの大きな魅力だった。
「毎日試合をする」ことの意味
選手は、球場に近接したホテルに宿泊し、ここから球場に通う。また試合後は室内練習場などで自由に練習することができる。
日本のアマチュア野球は、試合は土日などに限定される。毎日試合をするような環境は、プロ野球と独立リーグでしか経験できない。
そのことが、上のステップに進むうえで、プレーの質が落ちたり、体調管理に失敗するなど、大きなネックになっていた。
ある指導者は
「ジャパンウィンターリーグに参加すると言うことは、本当の意味での『野球漬け』とはどういうことかを体験することだ。自分でコンディションを整え、次の日の準備をして、毎日野球をすることの難しさ、そして楽しさをしっかり味わうことで成長できるし、次のステップも見えてくる」という。
チームには監督に相当するゲームコーディネーターがいる。国際試合の経験も豊かなゲームコーディネーターのアドバイスも選手にとっては大いに役立つ。
また、トレーナーも常駐しているので、怪我などの手当のほか、トレーニング法や体調管理法などのアドバイスも受けることができる。
何物にも代えがたい「仲間」ができる
それ以上に大きいのは、日本全国、そして世界から集まった「選手」の存在だ。様々な国籍、キャリア、年齢の選手たちが「チームメイト」になる。1か月の間、ともにプレーすることで、言葉や文化の違いを乗り越えて「野球をする仲間」になっていく。
ジャパンウィンターリーグにアンバサダーとして参加した元メジャーリーガーのマック鈴木氏は「僕もアメリカで、カリフォルニアリーグというトライアウトを目的としたリーグに参加したが、その時に出会った仲間とは今もつながっていて、ときどき食事をしたりする一生の友達になっている」と話したが、このリーグで知り合った仲間が「一生の友」になることもあり得るのだ。
12月24日、トライアウト・リーグの最終日では、試合終了後、抱き合い、肩をたたき合って健闘をたたえ合う選手の姿が見られた。ジャパンウィンターリーグの本当の価値は、こうした「スポーツをする喜び」に凝集されるのかもしれない。
入団が決まった選手たち
リモートスカウティングの成果も上がりつつある。
1月22日時点では、22人の選手が独立リーグとの契約が決まった。うちリリースされた20名は以下の通り。
〇北海道フロンティアリーグ
・石狩レッドフェニックス マイヤー・ベンジャミン・マイヤー
・KAMIKAWA・士別サムライブレイズ ロペス・エドアルド、千脇諒太、金城悠月、石川雄也
・美唄ブラックダイヤモンズ メルコニアン・マシュー、ラッファー・ベネデック、眞弓国明、ウェラン・フィリップ
〇北海道ベースボールリーグ
・旭川ビースターズ レセル・アレクサンダー
〇さわかみ関西独立リーグ
・姫路イーグレッターズ 飯田直輝、森下晶登、斉藤優介
・淡路島ウォリアーズ 青木友助、五十嵐友綺、土岐隼士
・兵庫ブレイバーズ 松井拓真、大神康輔
〇四国アイランドリーグplus
・香川オリーブガイナーズ 西坂秀斗
〇ルートインBCリーグ
・茨城アストロプラネッツ 原海聖
他にも独立リーグ、社会人野球チームとの入団交渉が進んでいる選手が10人以上いる。
さらにゲームコーディネーターやトレーナーなどで、社会人などへの入団が決まったスタッフもいる。
独立リーグからNPBやMLBへの道のりは険しい。しかしこうしたスタート地点からのサクセスストーリーもあり得るのだ。
また、プロ野球で成功する以外にも「野球で生きていく」道筋はたくさんある。
ジャパンウィンターリーグは、野球をすることで拓ける「多様な未来」への第一歩だと言えるだろう。