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ドラフト候補になった親友とのエース対決で熱投 “主役”の意地示した177球

投げ合った相手は今秋ドラフト候補のプロ注目投手であり、親友。先にマウンドを降りるわけにはいかなかった。5月16日、北東北大学野球春季リーグ戦の富士大戦で青森中央学院大・齋藤禅(4年=弘前学院聖愛)が9回、177球を投げ切る熱投を披露。富士大が5対0で勝利し、エース対決は完封した相手先発・角田楓斗(4年=東奥義塾)に軍配が上がったものの、「主役」になった齋藤の意地が垣間見える一戦だった。

監督のタイムを制止して完投「代えられたくなかった」

マウンドを譲る気は1ミリもなかった。球数が150球を超えた9回、先頭に四球を与えると、次打者にはダメ押しの2点本塁打を浴びた。櫻井祐介監督がたまらずタイムを取ろうとしたが、「代えられたくなかったので」と齋藤はジェスチャーで阻止。後続は0に抑え、すがすがしい表情を浮かべながらベンチへ戻った。

5失点を喫しながらも最後まで投げ切った齋藤

開幕投手を務めた今春は、昨秋の明治神宮野球大会で4強入りした八戸学院大を7回無失点に抑えて勝利する幸先の良いスタートを切った。その後も青森大戦で7回3失点、ノースアジア大戦で9回1失点と好投を続け、エースの役割を全う。しかし、優勝の可能性を残して臨んだ岩手大戦は5回途中8失点と崩れてコールド負けを喫した。

「先週不甲斐ない試合をしてしまった。借りを返すわけではないですが、今週は投げ切って終えようと思っていました」。富士大の強力打線と対峙しても、その思いは最後まで揺るがなかった。

親友との投げ合い「これまでで一番楽しい試合だった」

投げ切りたかった理由はもう一つある。相手先発が親友の角田だったからだ。二人は弘前市立第一中の同級生。齋藤は中学の野球部、角田は藤崎桜城リトルシニアでプレーしたためチームメイトではなかったが、「一番くらい仲が良く、毎日のように遊んでいた」。プライベートでは野球ではなくサッカーをして遊んだという。

ともに弘前市内の私立高校に進学してからは同じ投手として鎬を削った。当時から140キロ台の速球を誇った角田の背中は徐々に遠ざかっていき、今や大学球界を代表する投手に。齋藤は「友達がここまでのピッチャーになるとは思っていませんでした。嬉しい気持ちと悔しい気持ちが両方あります」と胸の内を明かす。

9回14奪三振完封勝利を挙げた角田

とはいえ、齋藤も無駄な時間を過ごしてきたわけではない。大学では1年時から中継ぎで積極的に起用され、厳しい場面を何度も経験する中で自身のスタイルを確立した。齋藤は「相手の意表を突いて、反応を見て楽しむのが好きです。速い球を追い求めて全球思い切り投げるスタイルにした時期もありましたが、自分のタイプを理解して、バッターで遊ぶというか、簡単に打ち取る方法を考えながら投げると抑えられるようになりました」と自己分析する。

「大学野球で1日目の先発を任されるピッチャーは主役みたいなもの。主役になれる実力はないと思っていましたし、今も実力はないのですが、こうして1日目の先発を任されるようになって、しかも友達の角田と投げ合えた。これまでで一番楽しい試合だったかもしれません」。身長173cm、最速140キロのサイドスロー右腕。目を引くような体格と球速がなくとも、努力と工夫次第では角田のような剛腕と渡り合えると証明した。

前エース・横山永遠の穴を埋めるための自覚と行動

今年は昨年のエースだった横山永遠(現・北海道日本ハムファイターズ)が抜け、周囲の「青中、ピッチャーいないんじゃね?やばいんじゃね?」といった声が嫌でも耳に入った。

だからこそ、先発転向が決まってからは横山の穴を埋めようとより一層気合いを入れた。新チームではピッチャーキャプテンに就任。「自分が引っ張っていこう」と投手陣のメニューを考案し、文字通り先頭に立ってエースの姿を示してきた。

エースの自覚が増した春だった

また齋藤は試合中、3アウト目を奪ってベンチに戻る際に野手全員をハイタッチで迎える。これは横山の行動を真似たものだ。下級生の頃は打ち込まれると一目散にベンチに戻っていたが、「みんなが見ているからそこだけは直そう」と意識的に行った。自覚を胸に臨んだ最終学年、齋藤は自他共に認めるエースになった。

「大学野球を通して身につけた積極性」を今後も生かす

秋や大学卒業後に野球を継続するかは現時点では未定。富士大戦が野球人生最後の登板になる可能性もある。どのみち、大学4年間で得た経験は今後につながるはずだ。

「高校生の頃や大学の最初の頃は『誰かについていけばいいでしょ』というタイプでしたが、今は自分が引っ張る立場になった。野球を続けるにしても就職して働くにしても、ただ誰かについていくのではなく、自分で考えて積極的に動きたいです。社会にはいろんなチャンスが転がっていると思うので、大学野球を通して身につけた積極性を生かしてそれを掴みにいきます」

大学で「積極性」を身につけた

角田に対しては「プロに行ってほしい。めちゃくちゃ応援しています」とエールを送った齋藤。自分を輝かせる方法を知る二人は、それぞれの道で「主役」を張る。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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