身体障がい者野球の映画「4アウト」オーディション開催 闘将の遺志を受け継ぎ来年公開へ

40年以上の歴史がある身体障がい者野球。現在この野球について映画化されるべく、コロナ禍を経て本格的に再開した。

それは、全国大会にも毎年出場する東京のチームにまつわる実話に基づいたストーリーであり、あの闘将の想いが受け継がれたものになろうとしている。

(写真 / 文:白石怜平)

身体障がい者野球チームをモデルにした実話

4月17〜19日の3日間、映画「4アウト 〜ある障害者野球チームの挑戦〜」の身体障がい者キャストオーディションが東京と千葉で行われた。

本作品は2005年11月に発売され、23年8月にリニューアルした同名の小説。

東京を本拠地に置く身体障がい者野球チーム「東京ブルーサンダース」の実話に沿ったストーリーとなっている。

題名にある4アウトというのは、野球では3アウトでチェンジだが、“人生はそれでは終わらない”という想いなどが込められている。

ブルーサンダースは97年に創設された名門チーム。全国大会の常連で、準優勝を何度も果たしている。

また、野球以外の競技でもパラリンピックの日本代表選手を輩出するなど、約30年かけて歴史と伝統を積み上げてきた。

モデルとなっている東京ブルーサンダース(24年5月撮影)

「4アウト」がどのようなプロセスで映画化が決まったのか。

最初のきっかけは、本作品の監督を務める稲垣壮洋さんが小説、そして作者である平山讓さんと出会ったことだった。

映画化される小説「4アウト 〜ある障害者野球チームの挑戦〜」

稲垣監督や平山さんから企画を持ち掛けられたのが本作品のプロデューサーである増田悟司さん。

身体障がい者野球について知れば知るほど感銘を受けると共に、平山さんからあることを聞いて心に火がついた。

「野球そしてスポーツが出来る歓びを、まずは障がいのある人たちに知ってもらいたいと動いていた中、星野仙一氏(18年逝去)が映画化を進められていたというお話を平山先生からお聞きしました。そこで、なんとかその遺志を受け継ぎたい想いで今回制作をスタートさせました」

19年から本格的に動き出していたが、翌年からは新型コロナウィルスの感染拡大により中断を余儀なくされる。

それでもその情熱は消えることなく再開、ようやくオーディションを迎えることができた。

野球以外のパラアスリートも多く参加した

オーディションでは”ありのままの自分”を表現

オーディションでは日本身体障害者野球連盟や関係者による告知などもあり、合計82名が参加した。

稲垣監督は、参加者の緊張を和らげるため開始にあたって丁寧に声をかけた。

「上手い人を採用するわけではないです。たくさんある役の中で何がマッチするかを見ています。ここで無理をしても本番でその役を出すことは難しいと思います。なので、ありのままの自分を表現してください」

稲垣壮洋監督

稲垣監督は増田プロデューサーとともに足掛け7年、身体障がい者野球の活動を追い続けている。選手やチームにどんな特徴があるか、また障がいの名称についても勉強するなどその知識を深めてきた。

オーディションでは年代や野球経験の有無などを踏まえて4人〜5人ずつに振り分け、そのグループごとにお題を設けた。

このオーディションには製作班に加えて、原作者の平山さん本人も参加。

野球用品店のアルバイト面接に来た学生という設定や、実際のシーンに合わせて選手と監督が熱く語り合う場面など、一人ひとりの演技を真剣な眼差しで見入っていた。

演者と製作班よるやりとりでは緊張感が自然と漂った

演技に加えて行われたのが実技。このオーディションでは野球以外のパラ競技経験者も参加しており、競技に合わせた実技項目も設定された。

野球の実技では、身体障がい者野球チームでプレーする現役選手を中心に日々練習で培ってきた動きを披露。

製作班は、グラブと柔らかいボールを使ったキャッチボールやゴロ捕球、さらにカラーバットを使った素振りでの動きを見た。

「2アウト満塁フルカウントで、三振してゲームセットになったと思って振ってください」

「会心のあたりでホームランになりましたという時をやってみください」

などと、稲垣監督から具体的なシーンに沿ってのリクエストが次々寄せられ、参加者は“ありのままの自分”を表現した。

野球の実技でも状況に応じた表現をチェックした

「前向きに生きていくことの素晴らしさを伝えたい」

オーディションを終えて増田さんと稲垣さんは改めて映画を通じて伝えたいことを語った。

「今回のオーディションを通じて健常者とか障がい者と言うワードが、如何に作られたものかと感じました。どんな人でも長所や短所があり、それを全て受け入れて、直向きに、情熱を持って、前向きに生きていくことの素晴らしさを伝えられればと思ってます」(増田プロデューサー)

「人は“何を言うか”よりも“何をするのか”が、一番説得力があると思っています。その人の行動に背景を感じられるとき、心を動かされるのではないかと。少なくとも僕はそうです。

人が何をどう選択して生きているのか、その人の背景を感じれるような野球を描きたいです。映画を観終わった後に、『あぁ野球っていいな』と思ってもらえるような作品にしたいですね」(稲垣監督)

なお、映画の主役となるブルーサンダースは、5月18日に神戸で行われた「第31回全国身体障害者野球大会」に参加した。

全国30都道府県・39チームから16チームが選抜される大会で、ブルーサンダースは2013年に準優勝も収めている。

2日間かけて開催される予定だったが、あいにくの悪天候により初日が中止となり、1日かけて全チーム1試合の交流戦が行われた。

この試合に出場し、小説にも登場している財原悟史選手兼監督は、

「野球というスポーツを通して自身の障がいと向き合い、人生を変えてきた人たちの感動の物語です。昭和のスポ魂風ですが、多様性を謳われる今だからこそ誰にでもある得意・不得意と同じく、“障がいは個性”だと健常者にもそして障がいがある方たちにも、感じていただけたらなと思います」と述べた。

東京ブルーサンダースの財原悟史選手兼監督

6月中に最終選考する予定で、神戸、福岡でも1日ずつ追加オーディションを計画中である。

そして映画は26年に全国約100の映画館で公開される予定。数年越しの想いを形にするとともに、世の中に向けて明るい未来を照らそうとしている。

(おわり)

 

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