平野真理子×坂口剛 特別対談企画(後編)パラスポーツをさらに普及させていくために必要なこととは?
「平野M’s卓球スクール」チーム監督を務めている平野真理子氏と一般社団法人車いすスポーツ協会の代表理事である坂口剛氏。
両者には共通点がある。それは障害者スポーツをしている子の親である点だ。今回、その立場から、両者が対談を行った。
前編は、どんなきっかけで自身の子どもがパラスポーツを始めたのか。それぞれの障害について話しながら紹介いただいた。
後編では、現在障害を持つ子どもに“スポーツをさせてあげたい“と考えている親たちに向けたメッセージとして、スポーツの魅力や普及について語り合った。
「親子で一緒に泣いて、笑って取り組む」勝敗以外の醍醐味
坂口:それと聞きたいのが、競技をやっていると同年代で才能ある子たちにあっという間に追い抜かれてしまうケースもあると思います。成長の度合いがそれぞれ違うので一概に言えない部分もありますが、真理子さんも卓球スクールの監督として、障害のある子がスポーツを始めるに向けてこれだけは伝えたいっていうことはありますか?
平野:確かにスポーツをやるというのは、勝負が目先にあるので分かりやすいとは思います。障害のある子も最初は勝っていたけども、後から始めた子に抜かれてしまうことはよくあることなんですね。私のスクールでもそうですし、亜子もそうでした。日本代表になったというお話はしましたけども、中学入学直後に全く勝てなくなったんですよ。
でも、コミュニケーションや悔しさを乗り越える力・もう一度チャレンジする気持ちなど、勝負以外での部分で得るものはたくさんあります。一番大事にすべきは、最初に抱いていた想い「将来楽しく生きる、そのきっかけとしての卓球がある」ということだと思っているんです。
亜子の場合、卓球を通じてコミュニケーションや人間関係などいろいろな面で成長してほしい。原点の想いを忘れないことが大事。それは他の皆さんにも通ずるものですし、私が一番伝えたいことですね。
実際、中学の時に勝てなくなっても亜子は「辞めたい」とは言いませんでした。むしろ「フォアを練習したい」と言ったんです。フォアに対する本人のモチベーションが上がっているので、同じ練習をしていても吸収がよくなりました。子どもが自分で必要と気づき、練習したいと要求する。
親の私がその気持ちに応える形で指導しサポートする。今ではだいぶいいフォアドライブが打てるようになってきました。全国で通用するかどうかはまだわかりませんが、親子ですごく楽しんでいます。こういうのもスポーツの喜びじゃないですか?
坂口:いやぁ、本当にそう思います!息子も中学1年生の時にジュニアの日本ランキング1位になったんですけども、その後勝てなくなって。今もケガをしてしまった影響で周囲に抜かれてしまったんですね。体格の差も出始めてパワーやスピードが同世代に追い付けていないんです。
彼は亜子さんでいうと中学時代のような壁に当たっている感じです。でもうちも自分でテニスをやめたいって言ったことはないんです。車の中で悔し涙を流しながらそれでも帰って練習する。将来親子で笑えるようにしたいって思いましたよ。それがスポーツの良さですよね!
平野:将来亜子のフォアハンドが全国大会で通用するかは分からないですし、このまま勝てないで終わる可能性もあります。相手も各県の代表ですから。でも親子で映像を見ながら反省して「次はこうやってみようか」って一緒にチャレンジできる時間そのものが幸せだと思うんです。
もちろん結果がついてきたら嬉しいですしそう願っていますけども、仮に勝利という結果が伴わなくても一緒に泣いて笑って取組んだことっていうのがスポーツの醍醐味だと思いません?
坂口:まさにそうですよね!
平野:スポーツって何度でもチャレンジできるってのがいいところで、それが喜びだし、それを親子で味わえるというのは最高!本当に幸せな時間を過ごさせてもらっていますよ!
「まず知ること」パラスポーツを普及させていくために
坂口:私もそうですけどスポーツをする時間を親子で共有できること、それに出逢うこと自体が幸せだと思います。ただ、世の中にはその時間に出逢うことがない人たちがまだまだたくさんいますよね?普及とか育成と課題があると思っています。
平野:教室に通ってきてくださるご家族は卓球に出会い、一緒に観たりやったり応援してご家族で楽しい時間を共有できていると思うんですよ。課題は情報が届かず、まだ輝く何かに出会っていない方々です。
坂口:まさに。情報の問題があると思います。工夫をしているけど届いていない。だから「パラ卓球」を知らない。パラリンピックは知っているけども、そこに卓球があることを知らないなど、そういった方が多いと感じています。
あとはルールや参加基準。車いすテニスだと、車いすを乗っている方であれば参加はできるんですよ。義足の人もあり得るし、二分脊椎という子だとまれに歩ける子もいるんですよ。生活の一部でも車いすに乗っていればプレーできるんですよ。
平野:なるほど。それほど門戸が広いというか、多くの方たちに参加するチャンスがありますね。パラ卓球だと亜子は参加できないんですよ。
坂口:え!?それはなぜなのですか?
平野:卓球の知的障害クラスの参加基準は、IQ75以下と決められているんです。身体障害の方は別にクラスがあります。亜子のように発達障害、情緒障害の場合はIQで測れないじゃないですか。IQだと基準が上回ってしまうので、パラ卓球には参加できない。発達障害の人も増えてきているので、参加基準を再考いただき、もっとたくさんの選手が参加できるよう拓かれてほしいと願っています。
坂口:仰ったように規制やルールによって参加したくてもできない方たちも多いかもしれないですよね。パラリンピックだけじゃなく、スペシャルオリンピックス(※1)といったデフリンピック(※2)にもたどり着けない方たち含めて発信していきたいですよね。
あともう1つ、私の持論なのですが子どもはどんな状況であっても「~したい」って考えると思います。その気持ちを親たちがもっと応援できる環境をよりつくれるようサポートしたいんです。その辺についてはどうですか?
※1 知的障がい者向けのトレーニングや競技会を提供する組織
※2 ろう者(聴覚障がい者の一区分)向けのオリンピック
平野:実は、私のスクールに遠方から通ってくださる方もいらっしゃるんです。嬉しいのですが、もっと近くにないのかを聞くと「お願いしにくい」と保護者が感じているそうなんですよ。
「障害を持つ子だと周りに迷惑をかけてしまうんじゃないか」などと考えてしまい、一歩踏み出せない。うちは幸いメディアで取り上げていただいている関係で、障害を持つ子も在籍しているのをご覧になった方や私の本「美宇はみう」を読んでくださった方が「ここなら受け入れてもらえるんじゃないか」ということで、県内外から片道2時間かけてでも通って下さるんです。
ありがたいことですが、気軽に門を叩けるような場所が、それぞれの方の近くにたくさん増えてくれる方がより良いことと思っています。
「障害の有無に関係なくみんなが一緒になるのが当たり前」
という考え方が当たり前で、お子さんがやりたいと思ったらすぐに近くに行ける。そういった場所が増えてほしいと願っています。
坂口:私も普及・育成が一番必要と考えています。障害のある子を持つ親としては、わが子にもっと可能性をもってほしい、喜怒哀楽を味わってもらうためにもスポーツを通じて経験する環境を提供する。そして地域は地域で受け入れる。お互いに知っていたら受け入れられることってありますよね。
平野:すごい大事だと思います!「知る」ってこと。スポーツの前に近所や身近でお互いが知っていれば、何かあってもお互い様で支え合えるなぁって。普段からお互いを”知る”っていうことがいろいろなことを可能にしていくのだと思います。あと、競技を”知る”ということもそうですし。
坂口:では最後になりますが、亜子さんにこれから望むことは何ですか?
平野:自分らしさ、亜子が自分自身を知って自分らしく楽しく過ごしてほしいですね。コミュニケーションが苦手な障害も全部ひっくるめて”亜子らしさ”として自分を愛してほしいなと。今は亜子が楽しく生きるための準備をしている時間だと思っています。
対談は予定の1時間を超えるほど、盛り上がった中で終了した。
お互いに障がいを持つ親としての苦労、そして障がい者スポーツを普及させたいという熱い想いが共通し、かねてから交流がある二人の絆がさらに深まっているように見えた。今後の2人の活動からも目が離せない。