「地域社会に夢と希望を与える」水戸シルエラの“関東2部”から“なでしこリーグ”への挑戦

2021年に日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)が創設され、大きな転換点を迎えた女子サッカー。だが、WEリーグの平均観客動員は2044人(2024-25シーズン)、女子アマチュアサッカーのトップに位置するなでしこリーグ1部の平均観客動員は651人(同)と年々わずかに増加しているものの、注目度は男子サッカーに比べ、依然低い状況だ。
そんな中、関東女子サッカーリーグ2部に所属するFC QOL MITO CIRUELA(以下:水戸シルエラ)は2025年5月18日、ケーズデンキスタジアムで行われたホームゲームにて関東女子サッカーリーグ史上初の観客動員2077人を達成。あくまで1試合のみの数字となるが、なでしこリーグやWEリーグの平均観客動員を上回る快挙となった。
水戸シルエラは、2012年にMITO EIKO FC 茨城レディースとして活動を開始した女子サッカーチーム。現在は関東2部リーグに位置しているが、なでしこリーグの参入を目指している。在籍する選手たちは、社会人として仕事をこなしながら、サッカーに打ち込んでいる。
2000人超を動員し、地域から応援される水戸シルエラはどのようになでしこリーグを目指しているのか、そして、水戸シルエラに在籍する選手たちはどのような思いを持っているのだろうか。
「練習量の差は言い訳にしたくない」仕事をこなしながら、なでしこリーグを目指す
水戸シルエラが参入を目指すなでしこリーグは1部リーグ、2部リーグにそれぞれ12チームが所属。なでしこリーグに参入するには、さまざまなハードルをクリアしなければならない。まずは、書類およびヒアリング審査を通過する必要がある。審査に通過したチームのみ、なでしこリーグ2部の入替戦予選大会に出場することができ、予選大会で上位の成績を収めることで、なでしこリーグ2部の下位チームとの入替戦に挑戦することができる。そして、入替戦に勝利して、ようやくなでしこリーグへの参入が実現する。
第1段階の書類審査では、チームの財政状況などが対象となるが、審査を突破できないチームも多いという。水戸シルエラは厳しい入替戦予選大会、そして入替戦を勝ち抜く力をつけるべく、日々奮闘している。
水戸シルエラの試合は、土日祝がメインとなる。平日は週に3日程度、就業後の19時30分から21時までの時間を使って練習に取り組む。選手たちは社会人として仕事をこなし、サッカーとの両立を図っている。そんな水戸シルエラには、さまざまなバックグランドを持った選手が在籍する。

ミットフィルダーを担う背番号15の窪谷香凜(くぼのや・かりん)選手は管理栄養士との二刀流。一時はサッカーから離れていたが、就職を機にサッカーを再開させた経歴を持つ。窪谷選手は小学校3年生からサッカーを始め、高校時代は女子サッカー部でプレー。しかし、管理栄養士の資格取得のため、大学時代はサッカーから離れた。その間、地元の社会人サッカークラブにて、趣味程度でプレーしていたものの、もう少しサッカーを本格的にやってみたいというもどかしさを感じていたという。
「自分がうまくなるために練習をして、試合に臨むという環境に憧れました。社会人になって本格的にサッカーをしたくなり、SNSで水戸シルエラが目にとまり、練習に参加させてもらいました」

大学を卒業した2023年に水戸シルエラに加入。1年目はブランクもあり、なかなか試合に出られなかったという。
「サッカーができるというワクワク感や向上心を持っていたので、練習を頑張ることができ、次第に試合にも出場できるようになりました」と現在は攻撃的ミットフィルダーとして活躍する。一方で、関東2部リーグには、神奈川大学や帝京平成大といった大学生のチームも所属しており、大学生に比べると、練習時間に差ができてしまい、体力面などで負けてしまうケースも多々あるという。
「練習量の差は言い訳にしたくないので、練習では100%を出し切る思いで取り組んでいます。また、他チームに比べ、いろいろな経験をしてきている選手も多く、サッカーIQの高さが水戸シルエラの強みだと思うので、自分も先輩方から吸収してチームを引っ張っていけるようになりたいです」
地域イベントは、女子サッカーや水戸シルエラを知ってもらうきっかけに
窪谷選手をはじめ、チームメイトからサッカーの経験で信頼を寄せられているのが、ディフェンダーの背番号20・齊藤仁美選手だ。茨城県下妻市出身の齊藤選手は水戸シルエラ創設時のメンバーであり、当時は選手兼コーチを担っていた。
2013年からなでしこリーグに身を置き、バニーズ京都SC、アンジュヴィオレ広島でプレーを経験。なでしこリーグで計7年間プレーした後、複数のクラブを渡り歩き、2022年に10年ぶりに水戸シルエラに復帰した。現在は茨城県外に在住のため、平日のチーム練習は参加できず、個人で練習に取り組む。チームには週末のみの参加となっているが、「週末に齊藤選手が来ると、雰囲気が明るくなる」と言われるほど、ムードメーカー的存在となっている。
ピッチ上では“魅せる”プレーを信条としており、「結果を求められる状況ではありますが、サッカーを楽しみたい」と明るくチームを牽引する。

「チーム創設当初は助っ人を呼んで、試合をするなど、手探りの状態でしたが、現在は一つの目標に向かっているのが、目に見えて分かります」とチームの変化を口にする。
また、複数のチームに在籍してきた齊藤選手は、水戸シルエラの特長の一つに地域イベントへの積極性を挙げる。水戸シルエラは「地域社会に夢と希望を与える」をチームミッションに掲げており、地元企業のイベントに参加する機会が多い。毎年夏には水戸黄門まつりに参加するなど、地域住民との交流の場もある。
「女子サッカーは男子と比べ、まだまだ知名度が低いので、女子サッカーや水戸シルエラを知ってもらうきっかけになる」と齊藤選手は話す。
プレー以外でも地域に恩返しを
こうした地域イベントは水戸シルエラを知ってもらう機会というだけでなく、地域貢献という側面もある。
「サッカー選手としてプレーしている時は、地域の方に支えてもらっています。サッカーだけで恩返しはしきれないので、プレー以外でも地域に貢献したいです」と話すのは、2025年から水戸シルエラに加入した三浦晴香選手だ。背番号4を着用し、ミットフィルダーやフォワードを務める。

茨城県古河市出身の三浦選手は、小学生の時にサッカーを始め、地元の少年団で男子とともにプレー。県内の女子サッカーチームに限りがあったため、中学から大学まで、県外のチームに在籍していた。そうした経緯から社会人では地元の茨城県でサッカーをし、茨城の女子サッカーを盛り上げたいという思いが強い。
「地元の茨城県でプレーしたいという思いが軸にありました。水戸シルエラは選手が参加するイベントが多く、いろいろな取り組みをしているのが魅力でした」と入団経緯を話す。
U19世代別の日本代表に選出された実力を持つが、水戸シルエラへの入団前からのケガの影響でリハビリ生活が続く。
「ケガでプレーできない中でも、イベントを通じて地域に貢献できるのは嬉しいですし、ファンの方から『頑張ってね』と声をかけられることもあり、逆に力を貰っています。早くケガを治して、一つでも多く勝利に貢献したいです」
水戸シルエラの選手たちは、平日は仕事、練習、土日は試合、地域イベントと多忙な日々を過ごしながらも、高い向上心を持って、なでしこリーグを目指している。
一方で、女子サッカー界はWEリーグより下のリーグはサッカーだけでは食べていけないという現状がある。水戸シルエラにおいても、なでしこリーグを目指していく中で、資金的な土台が必要になってくる。水戸シルエラはこれまでにも地域イベントを行ってきたが、茨城県は農業産出額が全国3位と農業が盛んなエリアとして知られる。今後、さらなる地域貢献、そして、なでしこリーグ参入を目指すための資金的な土台を確保するため、選手たちが農業に挑戦する。まずは、水戸シルエラの運営会社であり、就労支援サービスなどを手掛けるQOLグループに利用者に向けて、有機野菜を使った給食メニューの提供を予定している。古河市出身の三浦選手は「実家の前に畑があり、農業が身近な環境に育ちました。農業で何かできれば、大きな地域貢献になる」と話す。
なでしこリーグへの参入を実現させるためには、さまざまな課題をクリアしなければならない。それでも、水戸シルエラは歩みを止めることなく、挑戦を続けていく。