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無期限休部で移籍も「忘れていない」 TDK・小島康明は“きらやかタオル”とともに東京ドームへ

8月30日に都市対抗野球大会初戦を迎えるTDK(秋田県にかほ市)。ベテラン右腕の小島康明(33)は、自身がかつて在籍し、2022年限りで無期限休部したきらやか銀行硬式野球部のタオルを持参して東京ドームへ向かう。「忘れていないぞ、というアピールです」。そう言って笑う小島の胸には今も、「きらやか魂」が宿っている。

きらやか銀行で3度都市対抗出場、ドーム初勝利の立役者に

茨城県出身の小島は小学1年生の頃に野球を始めた。小中では複数ポジションを守り、下妻二高時代から投手に専念。東京農業大を経て、2015年にきらやか銀行に入行した。

「いろんな企業チームを受けたけどダメで、大学4年の夏休みに練習参加をさせてもらえたのがきらやか銀行でした」。大学の先輩が所属していたことあり、ゆかりのない東北の地へ足を踏み入れることに迷いはなかった。

2016年の都市対抗初戦では先発し8回まで0を連ねたⒸ日刊スポーツ新聞社

2年目の2016年、きらやか銀行は創部65年目にして初めて都市対抗本戦に出場。初戦で名門・パナソニックを延長13回までもつれる激闘の末に破り、ドーム初白星を挙げた。小島はこの試合に先発し、9回途中まで力投。若きエースとして重い扉をこじ開け、歴史に名を刻んだ。

驚くような剛速球こそ持たないものの、質の高い直球と変化球を駆使した投球術は一級品。投手陣の中心を担い続け、2017、19年もチームを都市対抗出場に導いた。

突然の悪夢…無期限休部に「これからどうなるんだろう」

社会人野球生活は順風満帆と思われたが、30歳を迎えたばかりの2022年9月2日、事態が急変する。グラウンドを訪れた当時のきらやか銀行頭取から突如、業績悪化に伴う無期限休部を言い渡されたのだ。野球部を誰よりも愛する頭取にとっては苦渋の決断だった。

「これからどうなるんだろう…」。残酷な現実を突きつけられ、頭が真っ白になった。だが、6日後には日本選手権東北最終予選の初戦を控えていた。主将を務めていた小島は同じく放心状態のチームメイトに向け、「予選を戦わないといけない。全員で楽しんで、頑張ろう」と言葉を絞り出した。

きらやか銀行のラストゲームでもマウンドに上がった(B-net/yamagata広報・三浦まり子さん提供)

9月8日の初戦はTDKに1対3で敗れた。きらやか銀行の歴史が幕を閉じた瞬間だった。「自分自身、大学生の頃までは全国大会に縁がなく、社会人2年目の都市対抗で初めて経験させていただいた。野球の面はもちろん、人間的にも会社に育ててもらいました」。チームの歴史が途絶えたとしても、思い出や実績は消えない。在籍した8年間は小島の野球人生に欠かせない時間だった。

その後複数の企業チームから声がかかる中、真っ先に誘ってくれたTDKへの移籍を決めた。「東北でやりたい」との気持ちが強かったのも決め手になった。「山形で野球をやる中で感じたのは、地元に愛されているということ。地元の応援があるからこそ自分たちも頑張れた。東北にいれば山形の方々にもまた応援に来てもらえるかなと思ったんです」。気づけば「東北愛」は人一倍深くなっていた。

「切り替えられてはいなかった」…それでもTDKで再出発

どんな質問にも淡々と、簡潔に答えてくれる小島。しかし、「移籍が決まってからすぐに気持ちを切り替えることはできたか」との質問を投げかけると、「なんだろうな…」としばらく言葉に詰まった。

「切り替えられてはいなかったと思います。やっぱり寂しさはありました。自分の中では、きらやか銀行で野球を終えるイメージをしていたので」。愛着のあるチームのユニホームを着られなくなる。変えようのない事実と分かっていても簡単には受け入れられなかった。

それでも月日は流れる。2023年からは新しいユニホームに袖を通し、これまで通り腕を振った。小島は「移籍したばかりの頃は馴染めていないのかなと感じることもありました。鈴木(大貴)がテンポ良く抑えている時は味方が打つのに、自分が粘って投げている時はあまり打ってくれないなとか…」と苦笑いを浮かべるが、今では立派なTDKの一員となっている。

きらやか銀行のメンバーで撮った最後の集合写真(B-net/yamagata広報・三浦まり子さん提供)

きらやか銀行時代のチームメイトも各所で奮闘している。2023年1月にはきらやか銀行のメンバーが中心となり、山形市に硬式野球クラブチーム「B-net/yamagata」が発足。仲間たちの今後が気がかりだっただけに、小島はその一報を聞いて「野球をしたくてもできない選手の野球をやる場所ができたのはよかった」と安堵した。B-net/yamagataの試合は思わず速報で追ってしまうといい、中でも大学の先輩でもある林弘樹とは頻繁に連絡を取り合っている。

JR東日本東北に移籍した武田龍成とは同じ東北地区でしのぎを削っている。今年のJABA東北大会では石原昂(オールフロンティア)や舟生大地(日本製鉄室蘭シャークス)がはつらつとプレーする姿に刺激を受け、JABA北海道大会では佐渡敬斗(航空自衛隊千歳)と再会を果たした。離れていてもかつての戦友たちとのつながりは消えない。

「自分が真剣に野球をやっている姿、元気な姿を見せたい」

今年は兼任でコーチも務めており、若手投手陣とコミュニケーションを取る機会が増えた。休部を経験したからこそ、「会社あっての野球。それを忘れずに、感謝して野球をしよう」と日々伝えている。

小島自身は補強を含めると今年で7度目の都市対抗出場となる。昨年はJR東日本東北の補強選手として3試合に先発して2勝をマーク。久慈賞を受賞する活躍で準優勝に大きく貢献した。自チームでの出場は2019年以来でTDK移籍後は初とあって、「都市対抗で優勝するのがチームの目標であり自分の目標。会社の愛も感じていますし、感謝の気持ちを持って投げたい」と気合いが入る。

今年からはコーチとしてマウンドに向かう場面も見られる

「きらやかタオル」は移籍後も自宅で保管していた。昨年は武田と「ドームに持っていこう」と話していたが失念。今年は「配信で見てくれる人も多いと思うので、少しでも目に入ってくれれば嬉しい」と、忘れずに持参しベンチやブルペンで使用するつもりだ。

東京ドームには大勢のきらやか銀行員や硬式野球部OBが集結することが予想される。「自分が真剣に野球をやっている姿、元気な姿を見せたい。そして『まだまだ小島はやれるな』と思ってもらえるよう、頑張ります」。全力で腕を振り流した汗は、思い出の詰まった「きらやかタオル」で拭う。

(取材・文・一部写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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