• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 関メディベースボール学院総監督・井戸伸年氏「3月31日まで成長させてあげる役目がある」

関メディベースボール学院総監督・井戸伸年氏「3月31日まで成長させてあげる役目がある」

関メディベースボール(以下関メディ)は、立ち止まることを“良し”としない。

今季の中等部は“優勝”という結果を出せていないが、組織としての姿勢はブレない。グラウンド内外で“良い”と思ったものを次々に取り入れ、さらなる進化を目指す。

同学院総監督・井戸伸年氏は、「常にアップデート、成長することを求める」と語ってくれた。

~関メディに“代替わり”という考えはない

「“代替わり”なんてあり得ない」と、井戸氏は真っ先に話し始めてくれた。

「夏の全日本選手権が終わったら、『“代替わり”だ』と言っている3年生選手を見かけた。そんなのは誰が決めたんですか? 1-2年生中心に指導するなんて考えたことはありません」

「学ぶ姿勢を持って常にアップデートすることが、グラウンド内外での成長に繋がる」と信じている。

所属するポニーリーグでは、3月のエスプランナーカップ第9回全日本選抜中学硬式野球大会(沖縄)は準々決勝。7月のマルハングループインビテーション・大倉カップ・第51回全日本選手権大会(東京他)は準決勝でそれぞれ敗退した。

「全国8強以上に残っているのは誇るべき部分。しかし、“優勝”という結果は形として見えるので、有形無形の影響力があります。“優勝”も通過点ですが、そこに関しては悔しい。選手自身の思いにも違いが出てくる部分ですから」

「『負けて悔しい』で終わらず、『今後にどう活かすか?』で成長度合いが変わる。冷静に自分の現在地を見定め、必要なものを身につけていくこと。負けたことで反省もできるし、プラスになることも多いと思います」

夏の大会が終わっても野球人生は長く続くので、「やるべきこと」は変わらない。

ポニーリーグ主催の大規模大会は、年内2大会が残っている(1つは15-16歳年代のコルトリーグ)。そこには3年生も出場して頂点を目指す。また、来季以降へ向けて1-2年生のレベルアップも必要だ。

「在籍選手全員に上達してもらわないといけない。“代替わり”という発想が出てくるのが、信じられません」

通常の部活であれば、3年夏の大会が終われば“代替わり”となるのは自然な流れ。しかし関メディに当てはまることはなく、8月に入ると宮崎県と和歌山県で夏季合宿を開催した。

「夏休みで時間を取れるというのがあります。もちろん『全日本選手権が終わって、気持ちが浮ついてしまわないように』という部分もある。腰を据えて野球に取り組める素晴らしい時間です」

「『選手の成長が最大ミッション』を掲げる、ポニーリーグの素晴らしい運営のおかげもあります。年内に大会が残っているので、3年生もモチベーションを保てます。素晴らしいプレー環境を最大限に活用するつもりです」

今夏の合宿から“トラックマン”を導入、パフォーマンスの本格的な数値化に取り組み始めた。

~“データ”“身体”“技術”の全部で引き出しを増やす

関メディは、“進化・成長”のために“良い”と思ったものは積極的に試してみる。宮崎合宿では『トラックマン』を導入、各選手のパフォーマンスの数値化を始めた。

「侍ジャパンに帯同する星川太輔氏と縁があって出会いました。WBCでの世界一にも貢献した方の理論には感嘆させられ、『関メデに活かしたい』と思っていた。星川氏も『中学年代のデータは取れていない』ということで、お互いの利益が一致してタイアップさせてもらいました」

星川氏は、野球日本代表チーム(=侍ジャパン)のトラックマン部門責任者として、データ分析で戦略を支えるアナリスト。「データ収集しながら、多くの有益情報を得ることができました」と感謝を口にする。

「例えば、『打球速度が最も速くなる角度は?』が明確になった。『打球速度を上げるためには低く打て』と言いますが、具体的には10-15度の角度がベスト。それ以上だとポップフライになってしまうこともわかりました」

「中学2年生と3年生では平均して、打球速度に10キロの差があるのも明らかになった。その中で3年生に負けない打球速度を出している選手は、現時点ではレベルが高く結果も出している。データと結果が密接にリンクしていました」

パフォーマンスの数値化と並行して行ったのは、インボディへ踏み込んだ詳細な体組成測定。筋肉量や脂肪量等まで測定、トラックマンによる数値との照らし合わせをした。

「今後、『トラックマン』でのデータ収集は3ヶ月に1度、体組成測定は毎月やっていきます。『筋肉量が上がったら打球速度にどのような影響があるのか?』などを知りたいです」

「データや体組成だけでなく、しっかりとスキルアップもする必要がある。打撃に関して言うと、技術が上がりコンタクト率も高まれば、筋肉量と共に打球速度も上がるはず。引き出しを増やすことで、成長に活かすことが目的です」

井戸伸年氏(写真左)と野球日本代表チーム(=侍ジャパン)・トラックマン部門責任者の星川太輔氏(同右)。

~競技やジャンルを問わず、“良い”と思ったものを取り入れる

プレー以外のギア(=用具)に関する部分でも、“良い”と感じて導入した画期的なものがある。関メディ選手は、競技が異なるサッカーシャツを練習で着用する。

「サッカーシャツは練習するにあたって素材が素晴らしい。軽く、通気性に優れ、伸縮性がある。汚れが落ちるのも早いので洗濯が楽になる。練習効率が上がるのならば、野球メーカーのギアにこだわる必要はありません」

今夏からはサングラスメーカーと協力態勢を敷き、プレー時の着用を可能な限り進めている。

「グラウンドで日光の照り返しによる目の疲労は本当にきつい。カテゴリーを問わず、野球選手の必需品になるはずです。またスポーツサングラスは耐久性に優れている。叩いても踏んでも割れないので、プレー中の球から目を保護することもできます」

グラウンド内外で次々と新しいものを導入する。このことを、「野球界には成長できる伸び代がある」とポジティブに捉えている。

「他競技や他ジャンルの方々のお話を聞くようにして、少しでも良いと思ったら試してみる。野球界の伝統は素晴らしいですが、酷暑も含めて時代は変わっています。状況に合わせ柔軟に対応していけば、野球界には成長の余地がたくさんあるはずです」

練習用ウエアには、パフォーマンス効率を飛躍的に高めるサッカーシャツを採用。

~勝っても負けても、目指すものは変わらない

「自分自身もそうですし、関メディという組織が常に“アップデート”して“学び”、“成長”することが大事です」

2023年4月、関メディがヤングリーグからポニーリーグへ転籍した際には大きな話題となった。この時も、「選手にとって良い環境だったから」と井戸氏は語っている。ビジョン・信念は当時と全く変わることなく、着実に成長し続けている。

「人間は必ずミスをします。負けることもあります。その時に素直に反省して次に活かせるか? そして勝った時にも、『もっとできるはず』と思えること。目標へ向かって突き進むため、忘れないようにしたいことです」

「関メディは通過点、自らを磨くべき場所」ということが徹底されている。そこに“代替わり”という考えが存在しない理由も納得だ。

関メディは通過点、常に自分を磨いて成長することが重要。

「高校から先、プロ野球やメジャーリーグでも活躍できるようになってもらいたい。そのためには高校に入る直前、3月31日までは関メディでトコトン成長して欲しい」

今夏の甲子園大会にも関メディOBが多数出場した。初のプロ野球選手となった阪神・今朝丸裕喜(2024年ドラフト2位/報徳学園)の評価も高まっている。

「満足、妥協することなく野球選手として上を目指す。良いと思うことを試してみる」

関メディから好選手が数多く輩出される理由がわかる気がした。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真/協力・関メディベースボール学院、井戸伸年、写真/岸本純)

関連記事