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「リスクを恐れず、選手を成長させる」常識を覆し続けた外国人監督~オシムチルドレン座談会(前編)

 Jリーグのジェフユナイテッド市原・千葉、サッカー日本代表で監督を歴任したイビチャ・オシム氏。日本を去ってからも、そして昨年5月に亡くなってからも、オシム氏が遺したレガシーは語り継がれている。最も薫陶を受けたとされるのが、「オシムチルドレン」と呼ばれる選手たち。オシム氏がジェフや日本代表で重用した選手の総称だ。今回、チルドレンの一員である佐藤勇人さん、羽生直剛さん、山岸智さん、水野晃樹さん、ジェフ時代にオシム氏の通訳を務めた間瀬秀一さんの5人による座談会が実現した。その模様を3回にわたってお伝えする。

日本サッカー界の異色の外国人監督、それぞれの第一印象

――オシムさんとの出会いについて教えてください

佐藤:(ジェフの)韓国キャンプの食事会場にオシムさんが来て、監督の挨拶で、どこを目標にするかとか、どういうチームをつくるかといったことを選手は当たり前に聞けると思って耳を傾けました。だけどオシムさんはそういうことは一切言わずに、なにも言葉を発さずに、これは儀式と聞きましたけど各テーブルをコンコンと叩いて周りながら席について食事した。今までの監督とは違った空気感が食事会場にあったのを覚えています。

羽生:入団1年目の監督(ジョゼフ・ベングロシュ監督)がおじいちゃんみたいに優しくて、仏のような人で、試合でも使ってもらっていたし、選手としてホっとしているタイミングの2年目に真逆の人が来ちゃった感じはありましたね。僕も初日は印象が強い。勇人と同じ部屋だったよね?

佐藤:そう。部屋に帰ってきてから、「なんだあの人」みたいな話をしたよね(笑)。

羽生:僕はリバビリ中だったので最初の練習は参加しなかったんですけど、みんなの顔色がおかしなことになっていた。すごい人が来たんだなという印象でした。

山岸:先輩お二方の言っていることそのままで、本当に前の監督とは180度違うような方でした。最初はトレーニングについていけるのかと思いましたし、僕自身も高卒2年目で試合にも出たこともなかったので、そういう意味ではどんなシーズンがスタートするのかなという感じで始まりましたね。

現役時代のほとんどをジェフで過ごした佐藤

間瀬:僕がオシムさんと初めて会ったのは、通訳として面接を受けた時。オシムさんにオーストリアのグラーツに呼ばれて食事をした。一番最初の印象はでかい。あの年齢であの身長(約190センチ)はでかいし、眼光も鋭かった。面接なのに一言も話してくれなかった。

水野:僕もパっと見て、本当にでかくて怖いイメージ。でも(入団1年目で)初めての監督だったので比べるところもないですし、ここがプロの世界なんだなというのが最初の印象でしたね。

羽生:あれが最初って相当でかいよね。あれが当たり前になってたらいいよな。

間瀬:晃樹はオシムさんが何か言うたびにいつも眉間にシワ寄せてたよ(笑)。

水野:「なんで眉間にシワ寄せるんだ」って言われてた、たしかに(笑)。

羽生:(言われていることを)理解してないってこと?

水野:いや、たぶん受け身になっちゃって、怖くて顔を作っていたんだと思う。

「選手を成長させる」オシム監督のポリシー

――実際にシーズンがスタートしてからの印象はいかがですか?

佐藤:オシムさんが来た年の最初は今まで試合に出ていたベテラン、中心メンバーがたくさんいて、その下に自分たち若手がいて、チーム内の格付けがある程度決まっていました。キャンプで競争が生まれている感じはしないまま開幕を迎えて、1、2戦目は前年と比べてそんなにメンバーは変わっていないと思う。でもヤマ(山岸)は開幕スタメンだったっけ?それすごくない?

山岸:焦りましたよ、あのシーズンは。

間瀬:ヤマ、ヤマってよく言ってたよね。ヤマとマキ(巻誠一郎)はよく連呼してたよね。

佐藤:この前阿部(勇樹)が、「二文字で言いやすかったんじゃないか」って言ってましたよ(笑)。

山岸:間違いないですね、それ。

間瀬:でもヤマはプレーが強気だったよね。俺はその印象があるし、たぶんオシムさんもそこが好きだったと思う。

山岸:ただ僕はサイドをやったことがなかったので、サイドでプレーすること自体が自分の中でも難しくて。試合に出たことがなかったので自信もないですし、そういう意味ではオシムさんがどういう意図で僕をサイドで使っていたのか聞いてみたかったですけどね。

佐藤:じゃあ開幕戦の時もヤマは特に何も言われずにスタメンに入っていたってこと?

山岸:そうですよ。オシムさんって、メンバーを週のはじめから固定する感じではないじゃないですか?だから、僕自身もまさか開幕スタメンだと思っていなかったですし、メンバー入りすること自体難しいと思っていました。

佐藤:しかもさ、代表戦でもガーナ戦でいきなりスタメンだったよね。

山岸:そうですよ。僕と裕貴(水本、山岸と同期入団)は代表戦でも初めて呼ばれてすぐにスタメンで出ました。緊張感半端なかったですけどね。(Jリーグデビュー戦の)東京ヴェルディ戦は前半15分くらいで僕がミスして、横パスを奪われて失点しました。

佐藤:「ヤマは絶対交代させられるな」って誰かと話したんだよね。そしたらオシムさんは使い続けて、「ヤマが点取ったよ」って話したのを覚えてる(後半5分に同点ゴール)。

山岸:結局あの試合フル出場しましたからね。

羽生:それくらい選手を成長させるというか、「若い選手をここで代えたらダメだろ」と思っていたんだろうね。

山岸:そこが日本人の監督とオシムさんの違いなのかなと個人的には思っています。

オシム監督初年度の開幕戦からスタメンに抜擢された山岸

水野:あの試合、裕貴は前半20分で代えられたじゃん?それとの差はなんだろうね。

佐藤:次の試合はまたスタメンだったもんね。

間瀬:すぐ代えるのもある意味メッセージだよね。今、日本人監督との比較の話が出たけど、俺が感じるのは、本来は日本に来ている外国人監督の方が若手を育てる気がないよね。日本にいる数年とか、目の前の試合で結果を出すことの方が大事だし、それをやらないとJリーグにいられないし。他の外国人監督と比べてオシムさんは若手の成長とかクラブの未来とか、そういうことも考えて逆算して指揮を執るというところが違いだと思う。

羽生:しかも成長させている選手が多いですもんね。全員を満遍なく育てているよね。

佐藤:オシムさんの初年度って選手が30人ちょっといて、一人以外全員ピッチに立っているんですよね。全員を使うってなかなかできないですよね。試合に絡まない選手のことも大事にしているし、愛情を持って育てようとしているのは選手にも伝わっていましたね。

間瀬:オシムさんが大切にしていたことは、選手を成長させることとリスクを恐れないこと。目の前の結果を出すこととかけ離れている気がするよね。でもあの人がすごいのは、成長させることとリスクを恐れないことが結果につながるようなトレーニングをすることだよね。みんながやっていたことって、トレーニングじゃなくて訓練なんだよね。トレーニングというより、人生や命がかかっているような、もうちょっと上のレベルのことだよね。

佐藤:秀さんはオシムさんがそういうトレーニングを組んだり、みんなにメッセージを伝える時に、それに対して「これはどういう意図があるんですか」とか、そういうことって深く聞いたことはないですか?

間瀬:聞いたこともあるし、聞かなかったこともある。ずっと一緒にいるから、俺的には意味が分かることもあるし。自分が今指導者になったから分かるけど、本来は意図を説明するよね。でもあの人は意図を説明しない。だからこそ一人一人が考えるし、コミュニケーションも取るし、アイデアも出す。  間瀬の言う「一人一人が考える」トレーニングを、オシムチルドレンたちはどう捉えていたのか。中編へ続く。

(取材・文 川浪康太郎/写真提供 ジェフユナイテッド市原・千葉)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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