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元ソフトバンク・攝津正氏が野球体験教室をスタート「野球への入り口を作りたい」

~元プロ野球選手として何ができるのか?

元ソフトバンク・攝津正氏の積極的な動きが目立つ。球団関連のイベント参加はもちろん、野球普及のために自らも行動を開始。5-9歳の子供たちが野球と触れ合える機会を持てるように、『攝津正と野球しようぜ!』プロジェクトを立ち上げた。

元ソフトバンク・攝津正氏は同プロジェクトをはじめ、各種イベント等にも積極的に参加している。

現役引退から時間は経過しても、攝津氏の存在感は色褪せない。3月23日に行われた球団20周年記念OB戦では先発投手を務め、グリーンパワー社の環境保全活動のアンバサダーにも就任した。

「OB戦での声援は本当に嬉しく、この球団でプレーできたことに改めて感謝の気持ちを持ちました。グリーンパワー社さんとは縁があって知り合うことができ、活動内容に感銘を受け大役を引き受けさせてもらいました。野球以外の分野でも、自分にできることは何でもやりたいと思っています」

「野球だけで人生を完結するのではなく、さまざまなことに興味を持って多くの人々と関わっていきたい」と常々語るが、軸足はあくまで野球に置いている。「元プロ野球選手として何かできるのか?」を思案した中、『攝津正と野球しようぜ!』プロジェクトを始めることにした。

野球に興味がある子供たちが気軽に参加できるように工夫を凝らしている。

~子供も家族も気軽に野球へ触れてもらいたい

「野球人口減少と言われるが、興味を持っている子供たちは少なくない。家族の負担や経済的な事情で野球をやるハードルが高くなっている部分もあるので、そこを何とかしたいと思いました」

未就学児と低学年向けの野球体験教室を立ち上げることを決意した。キャッチボール、ティー打撃、守備練習、投球体験など、野球の基礎的動作ができる場所。野球用具がなくても気軽に参加できることを重視した。

「野球の敷居が高く感じるのは、野球用具を揃えないといけないのが原因の1つ。ユニホーム、グラブ、バット、シューズなど1人で何万円もかかり経済的負担が大きい。野球を途中で辞める可能性もあるのに、多額のお金を費やすのは難しいと思います」

「運動ができる服装で会場に来てもらえれば、グラブやバットは全て貸し出すことができます。まずは、打つ、捕る、投げる、走るを思いきり楽しんでもらいたい。『野球はこういう動きをするんだ』というのを体験する場所です」

野球が敬遠される要因には、家族の負担が大きいことも挙げられる。減少しているとはいえ、今でも昔ながらの運営方法が行われているチームも多いとされる。

「親御さんは送迎だけでなく、練習中ずっとグラウンドに滞在しなくてはならないチームもある。兄弟がいる場合などは、その子たちも付き合わないといけなくなる。家族みんなが犠牲になるのなら、野球をする人が減っても仕方ないです」

「各コースの練習を1時間と定めているのは、子供たちの集中力と共に家族への負担も考慮しています。せっかくの休日ですから、野球体験教室に参加した後に他のこともできるようにしたい。誰もが気軽に野球に触れて欲しいです」

子供たちの家庭の経済的、精神的、物理的な負担を減らすようにしたい。

~野球の入り口となり、好きになってもらえる場所

今年1月26日にテストケースも含めた第1回が行われ、4月からは月2回の土曜日開催をスタートした。5-6歳の未就学児童と7-9歳の小学校低学年の2コースを用意、それぞれが1時間ずつ野球を体験できる場所だ。

「時間を長くはできない、と最初から思っていました。飽きさせないようにして楽しんでもらえることを大事にしています。野球のボールに触れる時間をできるだけ長くしたい。『こんな感じかな…」というのはできつつあります」

「最近増えている野球塾はスキル面に寄っていて専門的になり過ぎています。地域の野球チームは人数が多くてボールに触れる時間が少なくなることがある。その中間というか、1時間ずっとボールに触れていられるのが理想です」

「数年後に野球塾や地域の野球チームに転籍するのも良い。そういう選択ができるように、野球の基本動作が覚えられる場所になれればと思います。野球に興味を持って、好きになれる場所を目指しています」

「あくまで野球の入り口です」と付け加えてくれた。野球の底辺のさらに下を支えることが大事だと感じている。

体験教室に飽きることなく、野球をどんどん好きになってもらいたい。

~野球以外のことを選んでも役立つようにしたい

2018年の現役引退後、人生を考える機会に直面した。2020年にはコロナ禍が世界を直撃、同時期には慢性骨髄性白血病の診断を受けた。「他の世界を見ると共に、野球界へも何かをしたい思いが生まれた」という。

「現役引退して、周囲を見る機会も増えた。『攝津正と野球しようぜ!』プロジェクトのようなことが必要だと思いました。少し環境が変わるだけで、野球に興味を持ってプレーする子供は増えるはず。自分の息子は今4歳、1番良い例が身近にいてくれたのも大きかったです」

「コロナ禍での経験も背中を押してくれました。誰もが動けない時期があったので、外で運動することの素晴らしさを痛感しました。みんなで一緒に何かをやるのは本当に良いことです」

4歳の息子は野球だけでなくサッカーもプレーしている。「将来的に何を選んでも良いようにしてあげたい」という思いもベースになっているそうだ。

「プロジェクトの方向性は息子を通して考えています。『こういう環境になって欲しい』というのをイメージしやすいのが良かった。野球だけでなく、他の競技を選んだ時にも役立つようになってくれれば嬉しいです」

「身体の基本的な使い方を身につける。運動することの楽しさを覚える。その先には多くの選択肢が広がると思うので、自分自身で選んで欲しい。僕は野球選手だったので野球を通じてやっているだけです」

運動することの楽しさを覚えれば、今後の選択肢が広がると思っている。

~人数はそのままで日数を増やせれば、理想系にも近くなるはず

自身の経験を活かしつつ、野球体験教室のカリキュラムも構築できつつある。

「5-6歳コースは好きになるために野球に触れる場所。7-9歳コースでは野球の動きを多少覚えます。両コース共に、『打った後にどっちへ走る』などのルールの基礎は伝えたい。ルールが多少わかれば、見ていても興味を持ってくれるはずです」

「野球の動きに慣れてきたら、ゲーム形式に近いこともできればと思います。ポジションに就いたりすれば、より身近に感じるはず。5-6歳コースではなかなか難しいと思いますが、近いところまでできれば嬉しいです」

カリキュラムと共に重視しているのは、「何もしないで時間を過ごす子供が出ないようにする」ことだ。

「現時点では1コース10人が限界で適正人数だと思います。1人ずつとしっかり向き合いたい。わからないこと、できないことは個々で異なるのでしっかり対応したいです」

「今のところ人数を増やす気持ちはないです。それならば1コース10人で日数を増やしたい。今は土曜日のみの開催ですが、平日にも集まってできるようになれば…。子供たちの方から『野球をもっとやりたい』と言ってくれるようになれば良いですね」

「将来的には、故郷の秋田県でもやれれば…。育ててくれた故郷に何かしらを返したいと思っています」と将来的な夢も広がる。

元プロ野球選手、そして1人の人間として何ができるかを常に考えている。

プロジェクトについて話した後、「何度も訪れて縁のある長崎県対馬市で医療用ヘリコプターが墜落したことに心を痛めている」ことも語ってくれた。

「医療用ヘリコプターは対馬の人々にとってのライフライン。このようなことが2度と起きないことを願っています」

昨年9月14-15日には、「対馬ベースボールフェスタ」(市教育委員会など主催)に参加。その際には長崎県対馬病院へも足を運び、関係者から同島の医療体制について話を聞いたばかりだった。

「大きな事故があっても、時間と共に風化してしまうことも多い。今回のことを絶対に忘れないようにしたい」と続ける。

社会全体をフラットな視点で捉え、環境問題などを含め自身ができることに尽力する。攝津氏が本気で取り組む『攝津正と野球しようぜ!』プロジェクトは、理想と現実がうまく融合した野球体験教室になっていくはずだ。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・攝津正、鴛海秀幸)

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