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「第27回 全日本身体障害者野球選手権大会」千葉ドリームスターが創設初のベスト4入り 刻んだチームの新たな歴史は「全員にとって通過点」

11月1〜2日、兵庫県豊岡市の「全但バス但馬ドーム」で「第27回全日本身体障害者野球選手権大会」が開催された。

9月末に行われた関東甲信越大会で連覇を果たした千葉ドリームスターが2大会連続の出場。チームにとってもう一つの目標である“全国ベスト4”を勝ち獲った戦いを追った。

(写真 / 文:白石怜平)

大会初勝利を目指す「千葉ドリームスター」

本大会は「日本身体障害者野球連盟」が主催する大会で、身体障害者野球の全国大会では毎年11月上旬に行われている。

毎年5月に行われる「全国身体障害者野球大会」とともに、連盟に加盟している全国39チームの頂点を決める大会に位置付けられている。

本大会は“秋の選手権大会”と称されており、1999年にスタートした。

(2020年は新型コロナウイルス感染拡大により中止)、全国7ブロック(※)の地区大会を勝ち上がったチームのみが参加権を得ることができる特別な大会である。今年もトーナメントによる全9試合が行われた。

(※)北海道・東北、関東甲信越、中部東海、東近畿、西近畿、中国四国、九州の7ブロック

関東甲信越大会の代表として出場したのが千葉ドリームスター。21年に初出場して以降、22年・昨年と計3度出場経験がある。しかしいずれも初戦で敗退していることから、初勝利に向けた4度目の挑戦でもあった。

昨年に続き、選手権大会に出場した千葉ドリームスター

チームにとって高い壁となっていたが、地区大会の連覇から感覚が例年と違うことを土屋純一監督は確かに感じていた。

「各地区の代表チームが揃いますから、関東甲信越の代表として恥ずかしくない試合をしないといけない責任は私も強く持っていました。

今までは自軍の事で精一杯でしたが、代表として戦っている感触が強くあったなと。チームがさらに成長している証拠でしょうか。関東甲信越みんなの想いを背負っている。そんな気持ちを練習からも感じることができました」

地区大会連覇を果たし、選手権大会への想いを語った土屋純一監督(9月撮影)

チームをグラウンドで牽引した主将の土屋来夢選手。昨年は7位決定戦で敗れるなど1勝もできなかった悔しさを肌で感じる一人。大会に臨むにあたり、「個人的にはプレッシャーでもあった」と語るほどの心境を明かした。

「今思えば、去年はチームの雰囲気としても関東甲信越大会優勝までがピークだったような印象でしたが、今年は選手権で“絶対に1勝する”という一体感があったかと思います。

なので、去年とは違うぞという想いと同時に、昨年の悔しいを通り越した情けない姿は見せられないと思い大会に臨みました」

自らにもプレッシャーをかけ臨んだ土屋来夢選手

選手権初勝利でチームの歴史に新たな1ページを刻む

迎えた大会初日、ドリームスターは開会式直後に行われる第一試合、”開幕戦”を戦った。

相手は東近畿ブロックの覇者、阪和ファイターズ(大阪府)。2022年の同大会で一度対戦はあるが、その際は敗戦を喫している。3年越しで再び相対することとなった。

初戦の先発を任されたのが上原滉介投手。関東甲信越大会では決勝のマウンドに立ち、1安打完封勝利を挙げ大会MVPに輝いた背番号「18」はこの日も大事なマウンドを託された。

下肢障がいのある上原投手は高校2年の冬、左膝に骨肉腫を発症した。左膝から骨盤の付け根を人工関節と人工骨に置換する大手術を受けている。

中学時代は野球部と陸上部を兼部していた根っからのスポーツマン。駅伝では関東大会優勝と全国大会8位に入賞した実績も持ち、高校では陸上一本に絞り、長距離ランナーとして活動していた。

手術後はパラスポーツに取り組みたいとの想いから競技を模索し、身体障がい者野球と出会い現在に至る。

なお、昨季までは地元のチームで本大会の出場実績もある「群馬アトム」に所属しており、選手権での経験も豊富である。

今回も重要なマウンドに立った上原滉介投手(5月撮影)

地区大会から選手権大会までの1ヶ月間は「とにかく良いイメージをしようと思ってました」と、いい流れを持っていくことを心がけたという。投手らしい物怖じしない強心臓ぶりが発言からも垣間見えた。

「自分自身、阪和さんとは対戦したことがないので未知でしたが、開幕カードで全チームやスタッフが注目していますし、ブルペンで調子がすごく良かったので、ワクワクが止まりませんでした。普段は緊張するのですが、ワクワクが勝ちました」

1回の表、誰一人として踏んでいないまっさらなマウンドに立った上原投手。立ち上がりを3者凡退に抑えると、以降スコアボードに0を並べた。その好投に応えるように打線が2回から爆発。

3点を先制すると、3回と4回にもそれぞれ3点・4点と加えリードを大きく奪い、10−0でコールド勝ち。3年前は1−5で敗れたリベンジを果たすとともに、チームにとって記念すべき大会初勝利を挙げた。

この試合でも攻守に躍動した来夢選手は、安堵の表情で語った。

「序盤は硬さもありましたが、回を重ねるごとに我々らしい野球ができた事で落ち着きを取り戻し、良い雰囲気で試合を進める事ができました。

まずは目標としていた1勝を達成できてホッとした気持ちでした。毎年、掲げた目標を1つずつクリアし続けているのはチームの成長を感じる瞬間です」

上原投手はこの試合も最後まで投げ抜き、地区大会決勝と同じく1安打完封という圧巻の投球。それでも「詰めの甘さが出てすごい悔しかったです」と決して満足はせず、次の試合を見据えていた。

準決勝では王者の壁を感じるも、堂々のベスト4入り

その後行われた準決勝では「岡山桃太郎」と対戦。この大会を5連覇中で、結果本大会でも優勝を果たす全国No.1のチーム。世界大会の日本代表も多数擁する王者との対戦となった。

この日大会6連覇を成し遂げる王者は高い壁となった。初回に4点リードを奪われると、その流れを断ち切ることはできず3−12のコールドに。上原投手は3回から救援で登板。この回唯一となる0点でしのぐも、4回5回と失点を喫してしまった。

「最終回に連投の疲れで甘く入った球を痛打されたのと、あとは自分の四球が発端となった回があったのでそこが反省点です。ただ、3回に上位打線を抑えられたのは自信になりました」

それでも堂々の全国ベスト4入りを果たしたドリームスター。今季は「関東甲信越大会連覇」「全国大会ベスト4入り」を目標に掲げており、いずれも達成する結果となった。まず来夢選手が大会を終えて振り返った。

「全国ベスト4はチームとして大きな成果だと思います。我々は『東日本からも身体障がい者野球を盛り上げる』こともミッションだと考えていました。

そのためにも大会で結果を残す事は欠かせないと思っていたので良かったなと思っています。ただ一方で、もう1つ上のステージに行けたという悔しい気持ちが残りました。きっと他のメンバーもそう感じたのではないかと。

この結果に満足していない。あくまで通過点だと全員が考えていることが、今回の最大の収穫だと感じています」

掲げた目標達成に向け先頭に立って牽引した

記念すべきチームの大会初勝利投手となった上原投手も自身そして大会を総括した。

「チームとして全国大会での立ち位置も確認できたと思います。何度やっても全国大会での勝利は気持ちいいなと思います。チームとしてベスト4の目標を達成することができましたし、勝利に貢献できたのでとても嬉しいです。

ただ2試合通じて無駄球が多く、もっとコンパクトに投げられたとは思うので、来年に向けた課題としてまた一皮剥けた投球を見せられるように頑張ります」

自身の課題を明確にし、来季に向けて臨む(5月撮影)

そしてこれらの目標を設定し、1年かけてチームを導いていった土屋純一監督。メンバーを信じながら、練習や実戦で底上げを図ってきた。

「今回のメンバーはベスト4へ行けると信じていました。何ならその上もあると期待していたほどでした。若い選手も『ドリームスターでやりたい』と希望して来てくれています。

恵まれた環境といい練習ができているので、色々な支えと協力があることを当たり前と思わず、恩返しをしたいですね。

我々はスーパースターが引っ張るカラーではなく、組織で挑んでいくチーム構成です。選手一人ひとりが役割を理解し実践できるようになってきていますので、そう遠くない将来に全国制覇できると感じてますよ」

2つの目標を達成したドリームスター。収穫と宿題を持ち帰り、来季の戦いへの準備はすでに始まっている。

(おわり)

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