「アメフトに求めるのは広告的価値を超える社会的価値」SEKISUIチャレンジャーズ誕生の理由とは
積水化学工業(以下積水)が一般社団法人チャレンジャーズ・フットボールクラブ(以下チャレンジャーズ)とメインスポンサー契約を締結、「SEKISUIチャレンジャーズ」が誕生した。
現在、日本アメフト界にはお世辞にも元気があるとは言えない。人気、知名度、そして競技者人口も右肩下がりの中、積水がチャレンジャーズとタッグを組んだ意味は大きい。
~社会的価値と社内エンゲージメントを求める
「『広告的価値を超える社会的価値をチャレンジャーズに感じたので応援しようと思った』と積水さんは言ってくださった。本拠地の兵庫県尼崎市でやっていることの意味が伝わっていると感じました」
メインスポンサー探し時のプレゼン用企画資料を準備したのが川口陽生GM。2020年10月に尼崎市と包括連携協定を締結以後は地元とのパイプ役となっている人物だ。
「尼崎市で行う、『アメフトを通じて社会的課題を改善する』という考えが一致したと思います。積水さんも本業を通じての社会貢献を常に考えていらっしゃいます。ビジョンが通じているのではと思いました」
「積水さんは主力事業の1つに排水管等のパイプを製造しています。地中や壁の中に埋まるものですが建築物にとって必要不可欠です。目に見えないところで社会を支えている。チャレンジャーズが目指すべきところです」
「また社内エンゲージメントも重要視されています。チャレンジャーズが最後まで全力で戦い抜く姿勢を社内一丸で応援する。それにより『新しいことに挑戦する社内文化を作りたい』ということも期待されていると感じます」
1978年創部のチャレンジャーズは、2000-2001年に社会人選手権2連覇(2000年は日本選手権優勝)を達成した伝統チームだ。1993年からはアサヒ飲料が30年に渡ってスポンサーを務めてきた。
「時代も変わり時世もあったので、アサヒ飲料が離れるのも時間の問題だとは感じていました」と川口GMは続ける。
「チームは勝てない状況が続いている。地域貢献もファンサービスもしていなかった。『アサヒ飲料にとって億単位を出すスポンサーメリットはないのではないか』と思っていました」
2018年にチャレンジャーズへ選手として入団、勝利のために努力を重ねた。しかしフィールド外の問題を目の当たりにしたことで現役引退、運営側への転身を決意する。
「何かしないといけないと思っていた時期でした。当時はオンワード、マイカル、鹿島(後のリクシル)等がアメフトのスポンサーを相次いで撤退し始めていた。そして2020年頃にチャレンジャーズにも同様の話が出始めました」
~アサヒ飲料は新規スポンサー決定まで十二分な猶予期間を与えてくれた
「(アサヒ飲料がスポンサーを撤退すると聞いた時は)ショックという気持ちもあったけど、『ついに来たか』」と。『何とかしないといけない』ということだけでした」
川口GMが準備した70ページにも及ぶ企画書を持ち、スポンサー探しに奔走したのがチーム事務局長・桂雄史郎氏。社会人選手権2連覇を成し遂げた当時のQBだった男だ。
「次のスポンサー探しを考えながら、アサヒ飲料への感謝の思いを強く感じました。このご時世で30年も支援するのは並大抵ではありません。会社の方針も変化していたはずなのに継続支援してくれましたから」
2019年末、チーム代表の鍜次茂氏と共に当時のオーナーと面会した際にスポンサー撤退の正式通知を受けた。
「アサヒホールディングカンパニーの総合的判断でフットボール事業から撤退するということ。うち(=チャレンジャーズ)とアサヒビール・シルバースターの両方です」
「有り難かったのは3年の猶予を与えてくれました。本来なら翌年(=2020年)からの即座撤退でもおかしくない。新規スポンサー企業を探す時間をくれました。最後の最後までチャレンジャーズに寄り添ってくれました」
「撤退通知を受けてすぐにコロナ禍に入り苦労しました。実際は2022年でアサヒ飲料は撤退する予定でしたが、そういった事情を考慮して2023年まで猶予期間を延ばしてくれました。本当に感謝しかありません」
~選手やスタッフの人生に影響を与える大問題
「チームがなくなったら彼らはどうするんだろう?積水にスポンサーが決まるまで、毎日寝る前に考えていた」と語るのはチーム代表・鍜次茂氏。
アメフトは選手、スタッフ等を含め1チーム100人を超える大所帯。仮にチーム存続ができない事態になれば競技に関われず路頭に迷う者も出るはずだ。
「(チームがなくなれば)誰もが移籍か引退を選ぶことになる。社会人になってまでプレーを続けるのだからアメフトは生きがい。彼らの人生に対して大きな影響を与えるのは間違いない」
「毎日グラウンドに来て彼らのプレーを見たい。一生懸命取り組んでいる姿勢を目に焼き付けておく責務があると思っています。絶対にフットボールを奪ってはいけない。何としてもチームを生かさないといけないと考えています」
「練習中にライン脇で代表と立ち話をしていると必ず新規スポンサーの話になった。本当に心配されていました」と川口GMは当時を振り返ってくれた。
~アメフトに「何となく」で関わる人を支えているわけではない
「選手、スタッフの趣味や娯楽のために付き合っているのではない」と川口GMは敢えて厳しい言い方をする。
ビジョンを同じくするパートナーと巡り会えたものの、現状に満足するわけにはいかない。
「今回、積水さんがメインスポンサーになってくださった意味を考えるべき。今まではチーム内に『アメフトをやるのが当たり前』という風潮があったのも間違いない。でも積水さんが現れなかったらチームがなくなる可能性もあったというのが現実です」
「どんな形でもチームは存続させたかった。時間はかかってもお金を集めて供託金を払うことでXリーグへ参加はできます。でも今のような恵まれた環境でプレーするのは無理です」
企業チームには及ばないがクラブチームとして考えられない予算規模で運営ができている。当たり前の環境と気にも止めていなかったことが、実はそうではない。
「何となくアメフトに関わるのでは意味がない。何の社会的価値を生み出せるのか?も仕事とアメフトの両立は大変だと思う。でも一流企業に務めて仕事だけしているだけでは経験できないものがある。積水さんはそういった部分に期待しているはずです」
「選手、スタッフのみんなに自分自身で感じ取って欲しい」と桂氏は個々の意識改革に期待をかける。
「クラブチームの立ち位置、関わり方が難しいのは理解できる。しかしアメフト界が本当に厳しいという状況をもっと認識して、協力してくれる方々の真意を汲み取って欲しい。積水さんと寄り添って良いチームにしていくことが大事です」
メインスポンサーが変わったことによって運営面でも大きな変化が期待できると続ける。
「社会的価値を生み出すのはもちろん、社内団結のため社を挙げて全力で応援していただけるそうです。関西、関東を問わず可能な限り試合会場へ足を運んでくれます。経営面からするとチケット購入によってチーム収入も期待できます」
「チャレンジャーズのファンや関係者で各試合で最低500人以上を集客したい。今までは250-300人くらいだったので積水さんを加えればそのくらいになる。集客では富士通やパソニックに負けない状況を生み出していきたい。良い雰囲気を作れれば成績にも好影響を及ぼすはずです」
「チーム自体が今までと同じ取り組み方では何の意味も進化もない」(川口GM)
「『挑戦を大切にする』という点で当社とチャレンジャーズは親和性が高い」と語る積水側と目指す場所は同じ。チャレンジャーズ(=挑戦者)の名に恥じぬよう常に前進を進めることが重要だ
勝利への強い意志を持ち続け、社会へ少しでも貢献できることを見つけ出す。共に歩みを進めるその先には、もちろん日本一への返り咲きもある。
SEKISUIチャレンジャーズの長い旅がはじまる。彼らには黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの言葉を送りたい。
「不可能の反対語は可能ではなく挑戦(=チャレンジ)だ」
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・SEKISUIチャレンジャーズ)