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“stayG”が目指すのは、現場のサッカー選手が「真の相棒」にしたくなるスパイク・シューズ

『stayG』は選手に本気で寄り添ったスパイク・シューズ(以下スパイク)を目指している。カテゴリー関係なく必死で頑張るサッカー選手達を後押しするために立ち上げた、魂のこもったブランドだ。

「現場でプレーするサッカー選手達が、本気で履きたいと思うスパイクを作りたい」

株式会社DFSBが製作する『stayG』。プレーをする上で本当に必要な機能を備えるため、選手の意見を第一に作り上げているスパイクだ。同社代表取締役・野尻陸生氏は自身の経験と人脈を最大限に活かし、フットボーラーにとって「真の相棒」になれる一足を目指し続ける。

懸命にプレーを続ける選手達の力になれることが、『stayG』開発の最大の目的だ。

~用具の問題でプレーに完全集中できない選手は多い

「華やかに見えるJリーガーの中でも、J2やJ3の選手の中には、チェーン展開している大型スポーツ店で自らスパイク購入している選手が数多くいます」

日本サッカー界における衝撃の現状から語り始めてくれた。Jリーグは日本最高峰のカテゴリーであり、海外へ巣立っていく選手も多い。しかしJ2やJ3でプレーする選手のプレー環境は、かなりタフなものだという。

「メーカーとの契約選手や、J1の選手はスパイク提供を受けている場合が多い。でもJ2やJ3では、よほどの選手でないとそういう待遇にはありません。レギュラーでスタメンで試合に出続けている選手でも、自分でショップへ足を運んで購入している場合も多いです」

「コロナ禍以前は、カテゴリーが下がっても多くの選手がスパイク提供を受けていました。でも状況は一変、自腹購入はもちろん、ファンの方や知り合いの社長さんに買ってもらう選手もいます」

プロ野球に比べ、Jリーガーの給料は高くない。カテゴリーが下がれば一般企業で働く社会人より薄給の場合もある。コロナはこのようなところにも大きな影響を残してしまった。

「地方クラブはそういった傾向が顕著です。関東、関西のクラブなら練習場や試合会場でメーカー担当者との繋がりもできやすい。用具提供や格安販売をしてもらえる可能性もあります」

大分トリニータ(以下トリニータ)の下部組織でボールを蹴っていた野尻氏は、地方クラブの置かれた状況に胸を痛めていた。

「スパイクの開発・製造・販売をすると決めた時、Jリーグでプレーを続ける同い年の選手達の顔が浮かびました。彼らの理想のスパイクを作り上げ提供することでサポートしたい。少しでも長くプレーして欲しいです」

野尻陸生氏は、小学生時代から大分トリニータの下部組織でプレーしてきた。

~スパイク事業を興せば、選手を後方支援できる

大分出身の野尻氏は、小学生の時にトリニータのスクールへ入学。同ジュニアに合格してからは、ジュニアユース、ユースまでプレーしたが、トップ昇格は叶わなかった。

「当時のトリニータは強かった。自分もトップ昇格してトリニータの選手としてJリーグの舞台でプレーしたかったが、できなかったです」

東京国際大(埼玉)へ進学してサッカーを続けた。大学4年の夏、天皇杯・埼玉県大会決勝までプレーをした後、現役引退を決意する。

「縁があり、大学在学中から個人事業でビジネスを始めました。会社経営者の方々と接する機会を数多く持て、社会勉強も積めました。大学卒業後もビジネスを続けましたが、友人と『スパイク事業とか面白いね』と話したのをきっかけに、大分へ戻ることを決意しました」

ビジネスに没頭している間は、友人が出場する試合観戦には行っていたがボールを蹴ることもなかった。しかし胸の中に宿るサッカーへの思いは変わらず、スパイク事業へシフトを切ることになる。

「最初はトリニータ選手の中古スパイク販売を考え、クラブ役員の方に時間をいただきプレゼンしました。『選手はスパイクをボロボロになるまで履くので、中古で使用できるようなものはないのでは』と現状を伺いました」

「選手が自腹購入していれば、ボロボロになるまで履くのは当然です。『スパイクをイチから製作すれば良い』と、発想転換しました。すぐに知人の選手達に連絡を取ると、喜んで協力してくれました」

野尻氏は“スパイク事業”へ参加できる。選手は信頼できるスパイク提供を受けられる。両者にとってwin-winの関係になれる素晴らしい試みの始まりだった。

ヴィッセル神戸でプレーした石川慧氏は、小学生時代からの縁もあって『stayG』を支えてくれることになった。

スパイク開発に加え、実際の業務にも協力してくれる仲間も現れた。石川慧はヴィッセル神戸でプレー、世代別の日本代表に選出されたこともある男だ。

「(石川は)鹿児島出身で中学から神戸に行った。小学校の時に一緒にプレーしたことがありましたが、それ以来は疎遠でした。『stayG』のことを SNSで知り、『覚えてる?』と連絡が来た。現場の状況も熟知している、強力な助っ人に手伝ってもらっています」

サッカーで繋がる縁は広がり始めた。即断即決、『stayG』が動き始めた中で、会社登記の時点から早速の笑い話も生まれた。

「株式会社DFSBで会社登記したところ、サッカーのポジションである、『ディフェンシブ・サイドバック』と読めるようになってしまった(笑)。会社コンセプトが『Don’t Fit ,Shine Bright(はみ出して輝け)』です。「安定にしがみつくのでなく、常に動き続け結果を求めよう」と言う意味で、会社名もそうしたのですが…」

ボランチの野尻陸生氏(写真左)とFWの石川慧氏(同右)というタイプの異なる2人。

~感覚を大事にしたシンプルな形状のスパイク

スパイク開発を始めるにあたっては、トリニータやJリーグ他クラブの面識ある選手から声をかけた。

「協力してくれる選手へのアンケートからスタート。『今まで履いて良かったスパイクは?』『こういうスパイクが欲しい』といった内容です。17名に聞きましたが、彼らが良いと思ったものの良いところ取りの集合体を作りたい」

「各メーカーからは最新テクノロジーを結集させ、新しいモデルも次々と開発される。でも過去に使用したスパイクでも、忘れられないくらい良いモデルもある。そういったものの良い部分を結集させたい」

各メーカーは、短いスパンでモデルやカラーリングに変化を施す。買い替えを促すと共に、新規ユーザー獲得へのインパクトを生み出す理由もある。『stayG』は真逆の発想、アプローチを行おうとしている。

「カラーはシンプルにしたい。改めて気付いたのが、J1選手はメーカー側の意向もあるのか、派手なカラーの選手が多い。逆に下のカテゴリー、育成年代なども、白や黒のシンプルなカラーを好む選手が多いです」

そして何よりも重視するのが履いた時の感覚。プレイヤーとして走り回った経験を活かし、自分達が履いた時の感覚を信じる。

「アスリートにとって感覚は本当に大事。スパイクも、足を入れて実際にプレーした時の感覚が重要です。第一段階として、私と石川が履いてみて『イケる!』と感じることが大事だと思っています」

まもなく完成する“第1号スパイク”で重視したのは、柔らかさと耐久性。カンガルー革に酷似した感覚を得られる人工皮革を採用した一足は、文字通りの「素足感覚」を得られるはずだ。

開発中の第1号スパイクは、「素足感覚」を重視したカラー、デザイン共にシンプルなものになる(写真はイメージ画像)。

~『stayG』をウイニングイレブンで見たい

“第1号スパイク”試作品は11月末に出来上がる予定。そこから微調整を行なって、1000足の製作を考えている。「協力してくれたJリーガーをはじめ、まずは可能な限り提供できる形にしたい」という。

「100足程度は提供用にします。Jリーガーは年間5-7足が必要なので、活用してもらいたい。その他は販促も兼ね、 SNS等を活用した選手選考会や大会を開催、そこでの賞品等で渡したいです」

「残りは販売します。その際も流通経路に乗せるのでなく、我々が実際に全国を回って試着と販売をします。全国のサッカー選手達と対話しながら、意見もいただきたい。貴重な機会になると思います」

開発だけでなく、販売に関しても“現場”の意向・意見を大事する。『stayG』のビジョンがブレることはない。

開発、販売の全てにおいて“現場”の声を重視した、「選手のためのスパイク」を目指す。

「“第1号スパイク”はオールマイティのモデル。今後はストライカーやファンタジスタ、スピード系等に特化した5モデルまで増やすのが理想。2年に1度フルモデルチェンジ、3-4ヶ月で新色を出せるようになれば…。夢は膨らみます」

メーカー・製作者としては別に、1人のサッカー好きとしての夢も持っている。

「『stayG』を履いた選手が、W杯の舞台でプレーするのを見たい。そしてゲーム『ウイニングイレブン』内に『stayG』が反映されて欲しい。これができればスパイクとして超一流だと思います」

どの競技でもそうだが、老舗大手が入り乱れる中へ新規メーカーが食い込むのは大変なこと。しかし“現場”を何より大事にする思いがあれば、風穴を開けてくれるはずだ。そうなれば選手にとっても、よりプレーしやすい環境になる。

「私はボランチだったので、“止める”“蹴る”の基本を大事にします。石川はFWなのでどんどん攻めてくれます。サッカーで培ったこの感覚を大事にして、頑張ります」

プロ野球界では、品質の高い地方メーカーのグラブを超有名選手が使用するケースも見られる。同様のことはサッカー界でも十二分に可能だ。『stayG』がこの先、どんなスパイクを作り上げてくれるのか、非常に楽しみだ。“現場”を重視したスパイクが、“現場”を席巻する日は早いかもしれない。

(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:株式会社DFSB)

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