フルコンタクト空手は改良を重ねてヒーロー誕生を目指す

JKJO(=全日本空手審判機構)のフルコンタクト空手ビッグマッチが9月22日、大阪・東和薬品RACTABドームで行なわれた。

頂点を決める「JKJO全日本フルコンタクト空手道選手権大会(以下全日本選手権)」と40歳以上の「同全日本シニア空手道選手権大会(以下シニア)」。そして、ジュニア世代による「同王者決定戦2024」と団体対抗戦「同TEAM BATTLE 2024決勝戦」の4大会が同日開催。

波乱続きの展開にドーム内は熱気に包まれ、同競技の可能性の大きさを改めて感じさせる1日となった。

フルコンタクト空手は実際に会場で見ると迫力や雰囲気に圧倒される。

「雨の中、多くの方々に会場へ足を運んでいただき感謝しかありません。今後へ向けての手応えも掴めました」

全日本フルコンタクト空手コミッション(=JKC)代表・酒井寿和氏は同競技の現在、そして今後の可能性や夢について語ってくれた。

JKJOのフルコンタクト空手大会は、関西(=今大会)と関東での2大会が柱だ。関東のビッグマッチは2022年から始まったインターカレッジ大会(以下インカレ)。そして同日開催で文部科学大臣杯も設けられているJKJO全日本ジュニア空手道選手権大会(以下全日本ジュニア)となる。

「関東、関西の2会場でビッグマッチを行なうことで多くの人に見てもらいたい。フルコンタクト空手はまだまだマイナー競技なので、少しでも興味を持ってもらい会場へ足を運んで欲しいと思います」

「フルコンタクト空手は実際に見ると迫力に圧倒され、心が動かされるはずです。蹴ったり拳で突く音、そして選手の息遣いまではっきりと聞こえます。選手が必死に戦っている姿に何かを感じていただければ嬉しいです」

9月22日、大阪・東和薬品RACTABドームという大箱で関西のビッグマッチが開催された。

~王者決定戦を勝ち抜くことで文部科学大臣杯への道が開く

大阪大会では全日本選手権とシニアに加え、3回目となる王者決定戦(ジュニア)と同2回目のTEAM BATTLE(団体対抗戦)という比較的新しい大会も同日開催された。

「王者決定戦は11月開催の全日本ジュニア関西地区予選でもあります。全日本ジュニアは全国を10地区に分け、それぞれの地区を勝ち上がった選手が参加できます。全国からジュニアの強豪が集って頂点を決める注目大会です」

「ジュニア選手たちが大人のトップ選手たちと同一会場で試合をすることに意義があると思います。大人のトップ選手たちと同じ試合会場に立つことでモチベーションが高まり、競技への思いも強くなってくれると信じています」

「2023年にインカレを立ち上げたのも同様の理由です。年齢的に比較的、身近な存在である大学生たちが戦っている姿勢を見て、『ああなりたい』と感じてくれるのではないか。そして『大学生でトップになる』という明確な目標もできるはずです」

競技人口が多いジュニア世代はフルコンタクト空手界の宝だ。

~TEAM BATTLEは各地域の団結と切磋琢磨を高める

同じく全国10地区選抜チームによる対抗戦・TEAM BATTLEも大きな盛り上がりを見せた。個人戦が主流のフルコンタクト空手において異色な大会形式だが、各地域ごとの激しい意地のぶつかり合いが際立った。

「TEAM BATTLEの企画、運営は30代の若手指導者の方々へ任せています。武道の世界は先輩方への尊敬の念が強く、逆に新しい意見やアイディアを出しにくい部分もあります。新風を吹かせたいのと共に、未来を担う指導者たちに運営面でもスキルアップしてもらいたいからです」

「当初はテスト的に導入した大会形式という面もありましたが想像以上に盛り上がり、各地域の団結にも繋がっています。フルコンタクト空手は基本的に個人同士の戦いです。しかし、そこに仲間やライバルが存在すれば、各自の技術向上速度が高まると思います」

開会式では、TikTokを通じて若者に絶大な人気を誇るアーティスト「エイトMAN」」による同大会オリジナル曲「TEAM BATTLE」が披露された。フルコンタクト空手の新時代を感じさせる多くの試みは、ジュニア世代をはじめとする多くの人の心に刺さったのは間違いない。

会場内の装飾や演出等、新しいアイディアを取り入れ時代に即した形を目指す。

~ジュニア世代はフルコンタクト空手界の宝

フルコンタクト空手の競技人口はジュニア年代が非常に多く、女子の人数もかなりいる。習い事と同感覚で始めるジュニアが多いというが、学年が上がるにつれ違う道へ進むようになるという問題を抱える。

「中学、高校、大学と進むにつれて活躍できる場所(=大会)が減少する。インカレを立ち上げたのは、大学生も従来は社会人大会に出場するしか試合場所がなかったから。そういった環境作りからスタートして一歩ずつ進んでいる段階です」

「ジュニア世代は宝です。競技人口が多いジュニア選手たちに競技を長く続けて強くなって欲しい。そのためには目標となる大会が存在することが大事。そして、レベルの高い大人の大会を身近に見て参考にしてもらいたい」

自分たちのカテゴリーで明確な目標となる大会がある。そして同じ会場で戦う年上の強豪選手たちの戦いを見て何かを感じて欲しい。強いモチベーションを持って競技継続することに繋がり、将来は先輩たち同様に尊敬を集める選手になっていくはずだ。

ジュニアやインカレの大会をさらに充実させることで選手強化にも直結するはずだ。

~選手の気持ちが高まり少しでも強くなれるために何でもする

「喜んでくれて目標になるものならば何でも柔軟に取り入れたい。新しいことをやると賛否両論ありますが、選手たちのためになることを常に探して提供したいです」

ビデオリプレイシステムを導入(昨年の代々木大会では14面中4面で導入)してジャッジの正確性を高めた。また、大会開始前には細かくわかりやすいルール説明を行い、国歌斉唱に有名アーティストを起用するなど演出面にも多くの工夫を凝らしている。

「必死に頑張る選手たちが、勝っても負けても納得できるジャッジは必要不可欠です。将来的には全コートにビデオリプレイシステムを導入して、俗にいうグレー判定をゼロにしたいです」

「演出面が豊かになれば注目度も高まり会場へ足を運んでくれる人も増えるのではないか。多くの観客の中で戦うことで選手たちの気持ちも高まり、実力以上のものを出せることにも繋がるはず。結果的に名勝負が生まれ、観ている人たちも満足してくれると良いですね」

今年のインカレ(代々木大会)では SEGAキャラクターであるソニック&シャドウとのコラボが実現。空手道着を身にまとった2人の姿はジュニア世代のみでなく幅広い層で大きな話題だ。

「選手がやる気が出る場所を作るのが、我々の仕事であり責務だと思います」と断言する。大阪大会からは優勝者の中から武道奨励金も贈られるようになった。

「選手たちは遠征費等の活動費を自己負担している。プロではなく五輪選手のように強化資金が出るわけでもないので、我々にできる精一杯のことをやりたい。選手が強くなるのに少しでも力になれれば嬉しいです」

一般女子軽量級で2連覇を達成した酒井琉翔(写真左)とJKC代表・酒井寿和氏(同右)。

~どのような場所からでもヒーローは生まれる

大阪大会ではサブタイトル「フルコンにはヒーローが必要」が付けられた。ヒーローが誕生すればジュニア選手たちにとっては大きな目標となるからだ。

「『こういう選手になりたい』と誰もが感じる選手がヒーローだと思います。空手競技での強さはもちろん、振る舞いや礼儀作法にも優れた人間的に魅力ある選手。コートの中でも外でも人気があるヒーローが出てきて欲しいです」

「世界王者などがヒーローなのは当然ですが、地区大会や道場内でもヒーローは生まれると思っています。そういった選手をたくさん生まれて、それを見た選手が目標にして欲しい。フルコンタクト空手をもっと好きになって、本気で取り組んでくれるはず」

11月17日には東京・代々木第一体育館でのビッグマッチが開催される。インカレと全日本ジュニアにおける激しく熱い戦いは目前に迫っている。

「フルコンタクト空手は本当にやってみないとわからない。圧倒的な優勝候補の選手が少しの油断やコンディションの乱れで負けることも多い。目が離せない戦いをぜひ体感して欲しいと思います」

インカレや全日本ジュニアに参加する選手たちは、「Z世代」と呼ばれる。何かと区別されがちな年代だが、コート上で戦う姿を見ればそういう先入観は吹っ飛ぶだろう。勝利を目指してひたすら戦う姿からは、何かを感じさせてくれるからだ

フルコンタクト空手の今後のさらなる改良、進化に注目だ。今時、見つけにくくなった「ヒーロー」を発見できるかもしれない。

(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:全日本フルコンタクト空手コミッション)

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