「復興のシンボル」として歩んだ15年 岩手ビッグブルズが創る「岩手、三陸の発展につながる」未来

今年で創設15周年を迎えたプロバスケットボールチーム「岩手ビッグブルズ」は、長い年月をかけて地域に愛されるクラブへと成長した。東日本大震災発生の約4か月前に誕生したクラブの理念は「復興のシンボルを目指して、県民の皆様と共に歩み続ける」。2018年から代表を務める株式会社岩手ビッグブルズ社長の水野哲志さんに、これまでの歩みを振り返ってもらった。

元新聞記者の水野哲志代表が推し進めた「草の根活動」

岩手ビッグブルズは2010年12月に創設された。2011-12年シーズンからbjリーグに参入。2013-14年シーズン、2014-15年シーズンにいずれも東地区2位でプレイオフ進出を果たすなど、早い段階から好成績を残した一方、しばらくは厳しい経営を強いられた。

当時、地元紙の運動部記者として岩手ビッグブルズを取材していた水野さんがクラブに加わったのは2016年。同年8月に多くの犠牲者を出した台風の現場取材を終え、「どうすれば地元・岩手に貢献できるか」と頭を悩ませていた矢先、誘いを受けた。

沿岸地域で実施している選手によるバスケ教室

水野さんが前身の株式会社岩手スポーツプロモーションに入社した頃は「今すぐに会社が倒れてもおかしくない状況」に陥っていた。社員数は4人と小さな会社で、社長に就任した2018年には約1億円の債務超過を抱えていた。水野さんは高校の後輩でのちにオーナーとなる株式会社カネマン社長の三浦崇さんと手を組み、クラブを立て直すべく奔走。最初に取り組んだのが企業理念、クラブ理念の設定だった。

「東日本大震災からの復興に向けて県民に寄り添いつつ、チームを大きくしていこう」。理念が定まって以降は、そんな思いを胸に地道な草の根活動に邁進した。沿岸地域でバスケ教室を開いたり、選手が震災の教訓が描かれた絵本を幼稚園児に読み聞かせたりする活動を積極的に実施。毎年3月には復興祈念試合を開催することになった。

ファンクラブ会員数と売り上げはいずれも約4倍に

方向性は定まったものの、クラブ再建は一筋縄ではいかなかった。社長就任の約1か月後にはB3降格が決定。平均入場者数は700人台にとどまり、新型コロナ禍も相まってその後も集客は伸び悩んだ。必然的に選手への還元も少なくなり、当時は働きながらプレーする選手もいたという。

「お金もないし人もいない中でクラブを運営するのは大変でした。苦しく、厳しかったですが、とにかくスポーツの力を信じて、会場に来てくれるお客さんの声や試合に勝った後の表情を見て、何とか踏ん張ってきました。そして何より、頑張ってくれた選手たちがいるからこそ今があります」

2025-26年シーズンはB2リーグ東地区に所属している

地域に根ざした活動を続ける中で着実にスポンサーが増え、債務超過は2年で解消した。かつて500人程だったファンクラブ会員は現在約2000人を数え、水野さんが入社した当初は約1億円だった売り上げも約4億5000万円まで伸びた。苦しい時期を乗り越え、会社もクラブも軌道に乗り始めた。

「非日常を作る」岩手に根付きつつある新たな文化

水野さんは「非日常を作る」ことにもこだわった。「岩手にはお金を払ってスポーツを観る文化が根付いていない。照明を華やかにしたり、かっこいい音楽を流したり、チアが魅了するパフォーマンスをしたりして、観る人がコンサートに来た感覚になるよう心がけています」。試合会場では、バスケに馴染みの薄い人でも楽しめる空間を作ろうとさまざまな工夫を凝らしている。

最近はマスコットキャラクターの塗り絵を幼稚園や小学校に配り、作品をアリーナに展示するなど、子どもが楽しめる企画にも取り組んでいる。その効果もあってファミリー層の来場が増えているという。

会場では多くのファンが熱狂的な声援を送る

「1回会場に来てもらえれば、2回目、3回目とハマってもらえる力はあると思う。どう初回の足を運んでもらうかが大事です」と胸を張る水野さん。岩手ビッグブルズの存在は確かに岩手県民に浸透してきている。一方、「集客面ではまだまだ足りないのが現状」とも口にする。現在約2000人の平均入場者数を約3000人まで増やしたい考えだ。

そんな中、今年は「ブルズFAMILY」という新たなクラブコンセプトを打ち出した。クラブの成長と地域の活性化を支える5つのコミュニティ(「コアメンバー」「スタッフ・クルー」「ファン・ブースター」「コミュニティパートナー」「OB・レジェンズ」)がより一体となってクラブの未来を創ろうと呼びかけている。

選手はファンの期待に応えるべく奮闘している

水野さんは「ファンの方々が『自分たちも携わっているんだ』と自分事として捉えて、ブルズへの思いを深めるきっかけになれば嬉しい。1人のお客さんが1人、2人と連れてきてくれればそれだけで(入場者数は)2倍、3倍になるので」と狙いを明かす。会社、クラブの独りよがりになるのではなく、ファンと手を取り合って輪を広げていく。

岩手ビッグブルズは「復興のシンボル」であり続ける

「復興のシンボル」であり続けることも忘れない。水野さんは「やるからには好成績を残して上のカテゴリーを目指したい」とした上で、「岩手の方々には成績というより、会社やクラブがしっかりとしたビジョンを持って活動しているかどうかを見ていると思う」と話す。岩手ビッグブルズが立ち帰る場所はやはり、「復興のシンボルを目指して、県民の皆様と共に歩み続ける」という理念だ。

昨年、沿岸地域の小中高生に「三陸未来予想図」を書いてもらい、会場に展示する企画を実施した。展示された絵には子どもたちの「三陸のために何かをしたい」「これからも三陸に住みたい」といった思いが込められていた。

沿岸地域の小中高生が書いた「三陸未来予想図」

「これからは震災を経験していない子どもたちが世に出て活躍する時代になる。ネガティブな話をするのではなく、未来永劫、岩手、三陸の発展につながるような取り組みをして、そういう子どもたちが活躍できる場を作りたい。岩手、三陸に住み続ける理由が『ブルズの試合を観たいから』といった理由になればベストです」と水野さん。岩手ビッグブルズが岩手県民の生活の中心になる日を信じ、試行錯誤を続ける。

(取材・文 川浪康太郎/写真 岩手ビッグブルズ提供)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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