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野球界の新潮流。選手のパフォーマンスを最大化させるパーツ理論・外部トレーナー島田貫任

 近年、アマチュアを含め野球界では、外部のトレーナーに指導を仰ぐ選手が目立っている。裏を返すと、外部コーチという形でアスリートのサポートを行うトレーナーという存在が増えている。 

 パーツ理論を用いて、野球選手の指導を行っている島田貫任(かんじ)さんも、その一人だ。

  島田さんはアマチュア、プロ問わず様々なカテゴリーの野球選手を指導している。プロでは2023年シーズンにおいてキャリア最高の成績を残し、リーグ優勝に貢献した紅林弘太郎選手(オリックス・バファローズ)など、島田さんの指導を受けた選手たちが優秀な成績を残した。またアマチュアでは、島田さんの指導を受けた選手の1人が、2023年ドラフト会議で支配下指名を受けた。 

 そこで今回は、トレーナーとして活動する島田さんに、トレーナーという道を選んだ理由や選手に対してどのようなサポートを行っているか、パーツ理論での指導法などについて話を伺った。 

プレイヤーからプレイヤーをサポートする立場へ

 元々は島田さん自身もプレイヤーとして活躍していた。高校時代は福岡の強豪校に在籍し、大学では九州地方の名門・九州共立大に入学し、外野手としてプレー。大学卒業時のプロ入りを目指し、猛練習に励んでいた。 

大学時代は外野手として活躍した島田さん。

  順調な野球生活を歩んでいたが、大学3年時に選手として伸び悩んだ時期があった。状況を打開すべく、島田さんは一から身体の使い方などを学び直した。その過程でパーツ理論の第一人者であるザック氏に出会い、自らのプレーに取り入れ実践。パーツ理論とは、自分の身体におけるパーツごとの特性を知り、その人に合った正しい動きを習得していくというものだ。そのパーツ理論を取り入れると、パフォーマンスが見る見るうちに向上し、大学4年時には社会人野球チームから声がかかるほどの選手になった。

  しかし、島田さんは大学卒業と同時にプレイヤーとして野球を辞める決断を下し、東京都内で仕事をしながら、選手のサポートをする道を選んだ。周囲からは野球を辞めることに対し、「もったいない」との声も挙がったが、大学卒業後は“プレイヤー”から“プレイヤーをサポートする”立場となった。

転機となったプロ野球選手からのメッセージ

  転機となったのは、大学4年の夏。島田さんは選手としてプレーする傍ら、自分が学んだ身体の使い方について、インスタグラムで発信していた。島田さんは投稿内容について、素人に毛が生えたものだったと振り返っているが、そのインスタグラムのアカウントに「身体の使い方を聞いてみたい」と予期せぬ人物から連絡があった。

 それは、プロ野球の世界で活躍する現役選手からだった。その選手は、既に一軍の舞台でも活躍しており、チームに欠かせない存在となっていた。プロの一線で活躍する選手が見ず知らずの大学生から学びを得ようとする貪欲な姿勢に島田さんは感銘を受けた。

  プロ野球選手の思わぬ連絡から、アスリートのサポートに携わることになった島田さん。実際にサポートを始めてからも、試合後にも遅くまで練習に取り組むプロ野球選手の表では見られない相当な努力量を目の当たりにした。こうしたプロ野球選手の貪欲な姿勢に心を打たれ、なんとかためになりたいと考えた島田さんはアスリートをサポートする進路を選んだ。自分が野球を辞めるという決断に後悔はなかった。

様々なアプローチで選手の指導を行う島田さん  

 プロ入りを目指して大学に進んだ島田さんだったが、結果としてトレーナーという立場でプロ野球選手やプロを目指す選手と関わることになった。  

人のために生きるのが、トレーナーの仕事 

 トレーナーを始めた当初は声を掛けてくれた選手へのサポートが中心だったが、次第に他球団やアマチュア球界にも島田さんの評判が広がっていった。当時はSNSなどで自身の活動について積極的に発信していなかったが、選手の紹介によって気付けば30人以上ものNPB選手に対して指導を行った実績が付いていた。冒頭に紹介した紅林選手など、島田さんのサポートを受けた選手が結果を残したこともあり、今では指導を受けたいという選手が殺到している。現在は野球選手のサポートがメインとなっているが、地面に足が付くスポーツであれば、パーツ理論を用いてサポートが行えるという。

  2023年でトレーナーに転身してから2年目を迎えるが、外部のトレーナーとしてアスリートに携わる難しさも痛感している。当然ながら、島田さんの指導を受ける選手の所属チームにも、コーチや監督などの指導者がいる。所属チームの指導者とは方向性の違う指導をしてしまう可能性もあるだけに、島田さんは外部トレーナーとして「選手の不利益になることはしない」と心掛けている。

  トレーナーとは、自分の持っている100の力を使って、選手にその力を与える仕事だ。下手に出しゃばることはせず、選手ファーストで取り組んでいる。指導を通じて自分の信者を作りたいわけではない。指導を受ける選手には、「自分の信念を持って、情報を取捨選択してください」と常々伝えている。

パーツ理論を当たり前のものに 

 現在はトレーナーとして全国各地にいるアスリートのサポートに携わる一方、自身のオンラインサロンを開設。オンラインサロンでは、パーツ理論に関するコラムを配信したり、動画解析による指導を行ったりしている。

  当然、指導を受ける選手には良い結果を出してほしいという思いが強い。プロの選手には毎年キャリア最高を更新することを目標にしている。そして、アマチュア選手の場合は1人でも多くの選手をプロへ輩出することを目指している。  

パーツ理論に基づき指導を行う島田さん(写真右) 

 そして、もう一つ、パーツ理論を世の中に普及させることも目標に掲げている。パーツ理論は身体の使い方の基本となり、アスリートの土台となる部分だ。島田さんの指導では、技術的な指導の前に身体の柔軟性や可動域を上げる施術を行っている。パーツ理論に基づき、選手毎にどのようなトレーニングをすれば、身体の可動域が広がるか、身体の出力を上げられるかを伝授している。そこから打撃や投球など技術面に落とし込んでいく。 

 高い身体能力を持ちながらも、自分の身体の特性を生かし切れていない選手も多く、非常にもったいないと感じているという。多くの選手がパーツ理論を実践し、ベストなプレーをできるような世界を目指している。島田さんの挑戦は今後も続いていく。

取材・文/ 野島洋孝

取材協力・写真提供/ 島田貫任

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