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「今、投げていて楽しいんです」 全国連覇狙う東北福祉大のエース・猪俣駿太がたどり着いた“境地”

2年連続の日本一へ――。昨年の全日本大学野球選手権を制した東北福祉大が仙台六大学野球春季リーグ戦で全勝し、3季連続79度目の優勝を果たした。チーム打率.353、10試合計93得点を記録した強力打線が今年の売り。ただ、優勝の立役者は5戦5勝、防御率1.09をマークして最優秀選手賞とベストナインに輝いたエース・猪俣駿太(4年=明秀日立)と言っていいだろう。

リーグ優勝に貢献「日本一が目標なのでここは通過点」

勝てば優勝が決まる5月23日の東北学院大戦。最後の打者を空振り三振に仕留めて試合を締めた猪俣は、派手に喜ぶことなく、軽やかにガッツポーズを作ってマウンドに駆け寄るナインを迎えた。「日本一が目標なのでここは通過点。今日だけは余韻に浸って、明日からは全国に向けてしっかり調整します」。その目は早くも、昨年も立った全国の舞台を見据えていた。

優勝が決まる一戦で9回1失点完投勝利を挙げた

とはいえ、東北学院大は楽な相手ではなかった。昨秋の対戦時は第2戦で5回途中6安打3失点、第3戦で2回途中4安打2失点と、いずれも先発して試合を作れずに降板。相手打線には当時のメンバーが多く残っているとあって、猪俣は「嫌でしたね…」と苦笑いを浮かべた。

「でも、そんなことを考えても仕方がない。うしろにも良いピッチャーはたくさんいますし、『自分が打たれても大丈夫』という気持ちで落ち着いて、気楽に投げました」。この日の猪俣は序盤に「相手バッターが当てに行っている」と察知し、力で押すのではなく、遅めの直球やカーブ、フォークなどの変化球も駆使しながらテンポ良くアウトを重ねた。8回までは本塁を踏ませず、9回に1点を失うも110球完投。冷静に、余裕を持ってマウンドに立ち続けたことが功を奏した。

昨秋の不振乗り越え、確立した臨機応変な投球スタイル

相手打者や状況に応じて直球に緩急をつけたり、変化球を多投したりする投球スタイルは、最終学年になって確立した。最速155キロを誇る速球が最大の武器だが、直球で押し通すだけでは一筋縄ではいかないと、昨秋痛いほど思い知らされた。

昨秋のリーグ戦は6試合に登板して防御率4.11。明治神宮野球大会出場をかけた東北地区大学野球代表決定戦では、八戸学院大との決勝でピンチの場面から救援登板し、4者連続四球を与えて1死も取れずに降板した。力任せに投げ込む姿も、降板後のベンチで悔しさゆえに感情的になる姿も、今年の余裕のある立ち振る舞いとはかけ離れていた。

高校時代からの同級生である伊藤和也(左)とバッテリーを組む

今年1月の取材時には「もともと我が強いタイプではなく、淡々と投げるスタイルなのですが、(昨秋は)『自分が抑えてチームに勝ちをつけたい』という気持ちが出すぎて球速に目が行ったり、力で抑えようとしたりしてしまった。『自分が、自分が』となって周りが見えなくなり、視野が狭まったのが(不調の)要因です」と自己分析していた猪俣。ラストイヤーは本来の自分を取り戻そうと意識を変えた。

ピッチャーリーダー、そしてエースという立場だが、熱くなりすぎることも、気負いすぎることもない。「全員で野球をやる」という初心を忘れず、心強い野手やブルペンで待機する投手を信じて淡々と投げ続けた。

仙台大・大城海翔との投げ合いでのぞかせた「遊び心」

今春は自身初の開幕投手を務め、宮城教育大戦で5回無安打無失点と好投し幸先の良いスタートを切った。大一番となった仙台大戦も8安打を浴びながら13奪三振1失点完投。シーズンを通してエースの役割を全うした。

今春は5戦5勝で最優秀選手賞に輝いた

猪俣はグラブに文字を刺繍するほど、「遊び心」という言葉を大切にしている。それを最も体現したのが仙台大戦だった。2回に先制するも4回に追いつかれ、味方打線の前には自己最速150キロを計測するなど好投した強敵・大城海翔(3年=滋賀学園)が立ちはだかった。しびれる展開の中、「野手あってのピッチャー。絶対にまた点を取ってくれると信じて、仲間の援護を待ちました」と冷静さを失わなかった。

追いつかれた直後も「(昨秋までであれば)力で押していたと思うけど、楽観的に、リラックスして投げたので三振が取れた」。猪俣はさらに「今、投げていて楽しいんです」と爽やかな笑顔を浮かべた。

「自分が目立つよりもチームの中に自分がいる方が楽」

ドラフト1位指名を目標に掲げる上で、大学選手権はアピールにうってつけの場所だ。しかし、猪俣は「自分が目立つよりもチームの中に自分がいる方が楽。チームが勝つ中で自分の良さや個性を出していけたらと思います」と己のスタンスを崩さない。

東北福祉大には猪俣の他にも、今春ブレイクした清家準(2年=英明)、1年時から経験値を積む櫻井椿稀(2年=鶴岡東)ら豊富な投手陣が控えている。昨年の大学選手権で最高殊勲選手賞に輝いた佐藤悠太(4年=報徳学園)、今春打率.552をマークして最高打率賞を獲得した高岡新時(4年=龍谷大平安)らが名を連ねる野手陣もタレント揃いだ。

リーグ優勝を決め、マウンドに集まる東北福祉大ナイン

ただ、昨年の大学選手権の優勝インタビューで山路哲生監督が「櫻井頼之介(現・中日)がすごい投手になってくれた。彼以上の選手を育てないと次の日本一はないと思う」と話したように、トーナメントを勝ち抜く上では絶対的エースの存在が欠かせない。猪俣は櫻井のような、チームを日本一に導く投手になりつつある。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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