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西武ライオンズ 育成環境整備から目指す新たな黄金時代「常に優勝争いができるチームに」

2017年11月に発表された「西武ライオンズ40周年記念事業」

「ボールパーク化」と「チーム育成/強化」の2つ軸を持ち、本拠地メットライフドームエリアの改修を進めている。

前編では、自然共生型という特徴を活かしたライオンズだからこそできるボールパークについて話を伺った。

後編ではチーム育成/強化編をお届けする。

ライオンズは所沢に移転した79年以降、リーグ優勝18回・日本一10回、現在もプロ野球記録の25年連続Aクラス(82〜06年)を成し遂げるなど、常に強豪チームとして君臨している。伝統的に生え抜きのスター選手を育て、黄金時代を築くなど”育成のライオンズ”を自負する。

今回の事業を開始するにおいても、チーム強化の観点では

「勝利こそが最大のファンサービス」

「魅力ある選手こそ最大のコンテンツ」

と定義し、検討を進めてきた。

本事業の育成/強化の観点では、どんな取り組みを行なってきたのか。少年時代から西武球場に通い続けていたというライオンズ愛溢れる田代裕大・チーム付広報にお話を伺った。

取材協力 / 写真提供:埼玉西武ライオンズ

19年、12球団最大級のトレーニング施設が稼働

2019年7月、「ライオンズトレーニングセンター」が竣工した。

新設した若獅子寮とつながっており、1つの建物内で練習場から寮まで全て整っているのが大きな特徴である。

トレーニングセンターは西武球場前駅を降りた目の前に位置し、前面にレジェンドブルーの「Lions」マークが大きく記されている。

ライオンズトレーニングセンター外観

新しくなった若獅子寮は4階建てになっている。1階にはトレーニングルームやバスルーム、2階には監督室と選手全員のロッカーに加え、ミーティングルームとスコアラールームを併設した。3階には食堂やサロン・ミーティングルーム、そして4階には20部屋から8部屋増設された居住エリアが設けられた。

建て替えた若獅子寮。4階建ての施設になっている

特にライオンズトレーニングセンターは、ブルペン5レーン・バッティングエリア4レーンを設けた12球団最大級の広さを誇る。今回、ファンの方々が練習を見学できるスペースも新設した。※現在は新型コロナウイルスの感染対策のため見学不可

田代広報はトレーニングセンターについて以下のように説明した。

「室内練習場はブルペンとバッティングで計9レーンあり、投手と野手が同時に練習できる広さです。人工芝も、選手たちに本番の試合と同じ環境で練習してほしいという想いから、メットライフドームと同じものを導入しています。雨天であっても、内容の濃い練習をすることができるようになりました」

ライオンズトレーニングセンターのバッティングエリア

また、旧室内練習場は1979年・若獅子寮は1981年から使用されていたため、球場同様に老朽化が課題となっていた。

選手側から室内練習場及び寮の改修についての要望があったこともあり、本事業の中で最初に着手したものだったという。

19年7月から稼働を開始後は、ホームでの公式戦時やオフの期間も選手たちは自主トレなどで使用している。

ライオンズトレーニングセンターのブルペン

2軍球場の改修と施設命名権契約

育成/強化の面ではファーム施設も重点項目であった。

2020シーズン、ファーム本拠地である西武第二球場は名称を変え「CAR3219(カーミニーク)フィールド」としてリニューアルした。

本球場は、1979年に1軍本拠地である西武ライオンズ球場(名称は当時)と共に完成。こちらも40年以上ファームの本拠地として使用している。チーム強化という面において、ファームの育成環境も欠かせないと考え本改修に至った。

2019年10月21日から工事を開始。昨年6月までの約9カ月間かけて改修を行った。CAR3219フィールドも、ファン・選手両方に向けた施設が新たに導入されている。

ファンの方々向けには、より快適に観戦を楽しんでいただけるよう240席の観客席とLED大型ビジョンが新たに設置された。昨シーズン、イースタンリーグは無観客での開催であったが、有観客となれば大型ビジョンを活用した映像コンテンツなども表示できる。

フィールド面においては、外野奥にサブグラウンドとブルペンが新設された。

現場からは、「野手と投手が一緒に練習できる環境を整備してほしい」というリクエストがあり、それを実現した。

CAR3219フィールドに新設されたブルペン

サブグラウンドはライオンズトレーニングセンターのフィールド面と同規模で、ブルペンは5レーン設けられている。

ファームでの様子を見ていた田代広報はこう話した。

「投手・野手共に練習のバリエーションが広がりました。CAR3219フィールドでフリー打撃など球場全面を使って練習するときでも、サブグラウンドで内野手の特守が同時並行で可能になりました。投手陣もトレーニングセンター内と合わせて10レーン使用することができるので中身の濃い練習ができるようになったと思います」

外野後方のサブグラウンド

また、2019年11月19日には、地元埼玉県を中心に車買取や新車・中古車販売の専門店を展開するスマイルランド(川越市)と施設命名権契約を締結。2020年3月から現名称となった。

これまで現在のメットライフドームを始め、1軍の本拠地や座席などには命名権を導入してきたが、西武第二球場においては球団初の施策である。

2020年7月15日、イースタンリーグの巨人戦で「CAR3219フィールド」がついにこけら落としとなった。

1994年に入団後この地で育ち、2019年からファームの指揮を執る松井稼頭央2軍監督は「もっともっと野球に打ち込める環境が整ったと思います。だからこそ、これからCAR3219フィールドで、選手たちにはメキメキと力をつけていってほしいですし、僕はこの環境で選手をしっかりと育てていきたいと思います」とコメントした。

今後、もし観客を入れることができれば、新しくなったCAR3219フィールドで迫力ある演出と、1軍昇格を目指す若獅子たちの必死なプレーを見ることができる。

選手のモチベーションがさらに向上

この2年で練習環境が大きく変わり、選手たちはどんな反応があったのか。

実際に使い始めて以降の様子について田代広報はこう続けた。

「モチベーションがすごく上がったと感じます。新しい施設で初めて練習したのが山田遥楓(はるか)と戸川(大輔)だったのですが、ウエイトで『もう1セットやろうぜ!』ってお互い声を掛け合うなどこれまで以上に精力的にやっていました。1年以上経ちましたけども選手のモチベーションは高く保たれていると感じています」

そして若い力もどんどん台頭している。昨シーズンの若獅子たちの様子を話した。

「特に自主練習期間中は、基本的には自分たちで必要なメニューを考えて開幕から逆算して調整していました。特に平良(海馬)も施設を積極的に活用して結果が伴いましたし、鈴木将平もそうです。

2020シーズンは1軍で1番を打ったりしましたが、『外野を抜けるような強い打球を打ちたい』と口癖のように話していました。それでウエイト中心にトレーニングを一生懸命やってプロ初本塁打(7月11日のロッテ戦)も出ましたし、トレーニングセンターで行ってきたことが礎となっているのではないかと思います」

鈴木将平選手。昨季は1番・センターで先発出場もした

ファンにとっても特別な空間に

CAR3219フィールドの改修完了で、40周年事業における強化/育成面は一旦完了した。再び常勝軍団となるべく、球団として今後の想いについて語った。

「毎年1軍で戦力になるような若い選手がファームから育ち、新しい戦力が1軍で勝負できるよう確立させていくことが今後への期待です。常に優勝争いができるチームであり続けることが大事だと思っています」

そして、チームの強化以外に注目してほしい点があるという。1軍と2軍が集約しているライオンズだからこそできる野球の観方がそこにはある。

「できたら、1日で1軍と2軍の試合両方観てみてほしいです。昼に2軍、夜に1軍がホームで行われる日があります。昼間から来ていただければ両方観戦できるんです。

昼に選手が汗だくになって1試合頑張った後、その選手が当日1軍に上がることもあります。日に焼けて真っ黒になった選手が、慣れない雰囲気の中挨拶する様子も見られます。選手と喜びや緊張感を一緒に味わえるというのは特別な空間です」

オンライン取材に協力いただいた田代球団広報

昨シーズン、主力選手の故障などで10月までは苦戦を強いられた。しかし、終盤は怒涛の追い上げを見せ、最後までCS出場争いを演じるなど底力を見せた。

2年ぶりのリーグ制覇・13年ぶりの日本一奪還に向け、選手たちは動き出している。

球団ビジョン「共に強く。共に熱く。」

約3年に亘る球団史上最も大きなプロジェクトは今年3月で完結し、今シーズンから新たなスタートを切る。

2017年11月、40周年事業に加えて球団の事業ビジョンも発表している。

”共に強く。共に熱く。”

「チームとスタッフが一体となり野球エンターテインメントを通じてファンと共に熱狂を共創し、新たな感動の創造に挑戦する」(球団発表資料より)

今回の施策もこのビジョンをもとに行われ、チーム強化やボールパーク化などの球団運営に反映されている。

CAR3219フィールドからも目指すべきメットライフドームが見え、『ここで活躍するんだ!』と若い選手たちが気概を持ってスタッフに想いを共有しているのだという。

前編で登場いただいた服部友一広報も

「現場と球団スタッフ・会社が一緒になって同じ方向を向いて頑張ってきていると感じます」

と自信を持って述べた。

メットライフドームのスタンドから代名詞のフラッグが振られる光景が戻るその時には、鍛え上げられた若獅子が躍動し、新たな黄金時代の到来を予感させる。

(取材 / 白石怜平)

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