東京学芸大学蹴球部は「強さ」と「幸せ」を追求し、関東大学リーグ2部昇格を目指す
東京学芸大学蹴球部は1949年創部のチーム。1952年の第一回大会から全日本大学選手権に参加しており、最高でベスト4に輝いた歴史もある。現在は関東大学サッカーリーグの3部に所属しており、2部昇格を目指している。部員数が少ないのは常に悩みの種であるが「やりがいもある」と前向きに捉える。
人数は少ないが組織的に自ら動く
東京学芸大は教育学部だけの単科大学ということもあり、教師を目指す部員が多い。
3年生の秋になると3週間の教育実習がある。準備などを含めれば1ヶ月ほどはかかりきり。公式戦もある時期に、部の主力として活動しながら教育実習期間を乗り越えていくのは「かなりきつかった」と椎葉さんや河南さんは振り返る。
現在の部員数は学生スタッフも含めて50人ほど。以前よりかなり減ったという。部員数を増やす努力もしているが、現状はなかなか厳しい。ただ、人数が少ないだけに出場機会は多い。
また、組織の中での大事な役割を学生一人ひとりが受け持つことになる。負担が大きくなる反面、学生たちが「自らやる」風土が醸成されている。
部の組織図を見ると、幹部のほか事業と総務に分かれた部署があり、事業部門では「事業部」「技術部」「広報部」、総務部門では「主務」「グラウンドスケジュール」「運営」「備品・美化」「会計」「行事」「手配」「学獅会(運動部の組織団体名)」と、学生が部内での様々な役割を担っている様子がうかがえる。
「人数が少ない分、仲の良さはあると思います(河南さん)」
「上下関係はありますが、練習後、試合後含めて、こうした方がよかった、ああした方がよかった、というのはすごくよく話す雰囲気があって、戦術的な考え方をたくさんするチームかなと思います(堀川さん)」
「11人のポジショニングを作戦ボードを使って話すことも多く見受けられます。頑張ろう頑張ろうだけじゃ勝てないし、フィジカル面は私立大ほど強くないけど、だからこそ頭を使う。戦略的な考え方をしようとする姿勢ですね(椎葉さん)」

対戦相手を分析するスカウティングも学生が担う。作戦は指導者が立てるとしても、試合中のプレーは無数のパターンがあり、その場の判断に関してはほぼ選手に任せられている。
「サッカーの原理原則に関しては、大学に入ってから身に付きました(堀川さん)」
新入部員を増やす取り組みは行っているが、基本的に入部してくるのはサッカー経験者。そのため、今後は高校3年生向けの企画を立てている。
「学芸大を目指していたり、国公立のサッカー部を考えている生徒向けに、進路相談や入試相談のイベントをやる予定です(椎葉さん)」
今までにもそうしたイベントをやったことはあるが、時期が遅かった。今年は夏までに企画を練って実施できればと考えている。
2026年のテーマ「紫幸」とは「幸せ」と「強さ」
今年度掲げたスローガンは「紫幸―サッカーで幸せを追求する」。紫は東京学芸大学のスクールカラーでありチームのカラーでもある。

「もともとは去年の4年生たちがスローガンとして作っていたテーマが『紫幸―サッカーを通して幸せを追求する』というものでした。でも1年ごときではそんなの無理だろうと。なのでスローガンというよりは『理念』みたいな形で、学芸大蹴球部の軸になりつつあります(椎葉さん)」
ただ勝つための組織というのは、よくある。勝つこと、2部に行くことは大きな目標ではあるが、目指すところはそこだけではない。
「もちろん強さは目指しますが、それと並行して自分たちが『サッカーをやっていることが幸せ』だと気付くこと。そして応援してくれるファンの方や地域の方々に対しても、学芸大のサッカー部がこんなに頑張ってるんだ、と少しでも励みや幸せを提供できれば、より価値が上がっていく。学芸大に入りたい人が増えれば、強い組織にも繋がっていく。『幸せ』と『強さ』を合わせて目指します(椎葉さん)」
サッカー以外の活動で地域と繋がる
ピッチ外でも幸せを追求する。地域貢献の一環として「学生が一から作るサッカースクール」を今年度から始めた。今までもスクールは実施していたが、学生が企画・運営も行う試みだ。月1回の開催を目指しており、小学生対象と中高生対象とがある。
「部門としてはキーパー部門とフィールドプレイ部門があって、ドリブル、パスなどの技術を切り取った講座。その技術が得意な選手が2時間ほど教えます。キーパー部門では50名ほどとかなり集まりましたね(椎葉さん)」

スクールで教えた子どもたちが試合を見に来てくれることも多い。子どもたちの声援が増えると、スクールにもサッカーにも手ごたえを感じる。
「教育学部ということもあり、教えることに対する意欲はみんなあります。サッカーの技術を一つずつ取り上げてやっているので、自分たちもその技術に対する理解が深まります(椎葉さん)」
地域で応援してくれているスポンサーもいる。チラシを配り、試合告知を行ったりする活動や、国分寺駅など最寄り駅の周辺の清掃活動なども行っている。
「美容室がスポンサーになってくれていて、僕や堀川はそこに行っています。ポスターをいろんな所に貼ってくれていて、それを見たお客さんが全然近くないのに『学芸大の試合を見に行きたい』と話してくれる。自分たちが思っているより気にかけてくれる人はたくさんいる。知らないところでも繋がっているんだなと実感しています(椎葉さん)」
自分たちで作った「選手カード」が好評
「去年からたくさんの人たちに来ていただきたいなというのもあって、選手カードを配っています(河南さん)」
河南さんが取り出したカードは、日本代表選手カードのように、表面に選手の写真、裏面にデータを配した本格的なデザインだ。

「意外と選手本人や友達や家族に好評だったので、今年から来場者特典としてホームの試合で配っています。試合の写真を使い、直筆のサインや名前を書いてもらってデザインしています」
子どもたちがその選手カードを持って、選手と一緒に写真を撮りたいとか、サインをと言ってきてくれる。
「去年配ったカードを大事に持ってくれてる子もいるんです」
「学生主体」を強みにする学芸大蹴球部の魅力
大学スポーツでは学生スタッフの役割も大きい。特に人数の少ない学芸大ではなおさらだ。河南さんは最初マネージャーだったが、学生トレーナーとなり、けがについての勉強やトレーニングなど様々な知識を得てきた。日ごろの練習でも彼女の存在は欠かせない。
「他大学では学生スタッフが10人も20人もいるところもありますが、うちの大学では学生スタッフは今5,6人。一人あたりの責任も大きいし、やりがいや成長という面では他大学より大きいと思います。今Jリーグのフィジカルコーチで活躍されているOBの方もいます。活躍できる場はすごく大きいのが魅力だと思います」
「僕が感じる学芸大蹴球部の魅力は、組織とか人を作る側になれるので、人として成長できることです。学生主体というのもあるんですが、組織運営とか、今まだ足りないものは多いです。でも今後入ってくる学生たちは『自分たちが作っていく』『変えていく』立場に立てる。難しいことかもしれないですが、組織に足りないものは、逆にこれから作っていける魅力としても捉えられると思っています。国立大学で、人や資源が少ない中で、それをどう分配するのか、どう効率化して、より重要なことにリソースを割くのかみたいなことを考え続けなきゃならない。それは、うちの大学の弱点となる一方で、ここでしかできないことだと思っています(椎葉さん)」
4年生が引退していくのは11月ごろ。これから夏合宿を行い、秋のリーグ戦までをともに戦っていく。ピッチの内外で追求する「幸せ」と「強さ」は、彼らが社会へ羽ばたくための力となるだろう。
(取材・文/井上尚子 写真提供/東京学芸大学蹴球部)
