「プロに行きたい」→「プロに行って活躍したい」 今秋ドラフト候補の152キロ左腕が見つけた“立ち位置”
「人生の転機だったなと思います」
今秋ドラフト候補に挙がる仙台大学の最速152キロ左腕・渡邉一生投手(3年=日本航空/BBCスカイホークス)は、すがすがしい表情で飛躍の大学3年目を振り返った。春のリーグ戦では4勝、防御率0.27をマークして最優秀選手賞、最優秀投手賞、ベストナインの個人三冠を獲得。全日本大学野球選手権でも好投すると、大学日本代表に初選出され国際大会を経験した。ドラフトイヤーに向けて着実に注目度を高めている。
大学日本代表入りで実感…明確になった立ち位置と目標
「高校生の頃は、プロに行きたい気持ちはあったけど自分の立ち位置をはっきりと理解できていなかった。去年は大学日本代表に選んでいただいたりして、結果以上に自分の立ち位置がはっきりした点で良い年になりました。今はプロに行って活躍するというところまでが目標というか、見据えるビジョンになっています」
渡邉は高校時代、野球の強豪校から通信制高校に転校し、クラブチームに所属しながらプロ入りを狙った。BBCスカイホークス(現・GXAスカイホークス)は日本野球連盟未加盟のため、試合はオープン戦のみで公式戦がない。高校3年時、甲子園や高校日本代表で活躍する同世代の選手と自身の実力を比較するのは困難だった。
渡邉は当時を「立ち位置が分からないまま、『プロ行けるっしょ』と天狗になっていました」と振り返る。オープン戦では150キロ近い速球を披露し、多い時は7球団のNPBスカウトが視察に訪れた。確固たる自信はあったが、ドラフトでは最後まで名前を呼ばれなかった。
大学3年時の飛躍を機に気づいた高校時代の“勘違い”
「なんでプロに行けなかったんだろう」。仙台大進学後もしばらくは「疑問」を払拭できずにいた。モヤモヤが残る中、2年時は肩と肘を故障し公式戦登板ゼロ。一時は負の連鎖に陥った。
それでも、渡邉は腐らなかった。ケガが回復して打撃投手を務めた際に、「変化球を使ったり、力を抜いて投げたりすることを覚えると、体に負荷をかけずに投げられる」と実感。チェンジアップやカーブなどの変化球を磨いた上で力感のないフォームを習得し、「150キロが出る変化球ピッチャー」という唯一無二のスタイルを確立した。
さらに、プロに行くことだけを考えていた高校時代にはなかった「チームの勝利のために投げよう」とのマインドも醸成された。すべてが噛み合った3年春、ついに本当のブレイクを果たした。渡邉は改めて過去の自分を回顧する。
「今になって、高校生の時の実力では(プロ入りは)無理だろうとはっきり分かりました。悪く言えば勘違いしていたんだと思います。自分に自信があるのは良いことだし、できると思ってできなくて落ち込んでしまうのは高校生にありがちじゃないですか。でも、大学1、2年で実力をつけて3年で結果が出て、ラストイヤーに入る前に当時の勘違いに気づけたのはよかったです」
今オフは「動作の見直し」と「課題の克服」に重き
根拠のある自信を手にした今年は、「自分の実力を過信するわけではないし、期待に応えなければというプレッシャーもある」のはもちろん、「選ばれなければおかしいだろうくらいの努力をして、それで選ばれなかったら仕方ない」と余裕を持ってドラフトに臨む。だからこそ、「プロに行って活躍する」未来までも思い描いている。
例年、オフ期間はウェートトレーニングに重きを置くことが多いが、今冬はバランス感覚を鍛えるエクササイズやコアトレーニングを採り入れて動作の見直しに時間をかけた。「プロ野球選手になってからでも体を大きくすることは可能。今は体を大きくするのではなく、確実にプロに行ってすぐに活躍できる実力を蓄える時期」との考えに基づく調整方法だ。
球速や変化球の変化量についても「そこにフォーカスを当てなくても、やることをやっていれば勝手に上がる」と固執しない。従来からの武器よりも、大観衆に見守られながら平常心を保って投げるメンタルや細かい制球力など、現時点で足りていないと感じる要素に目を向け強化を図っている。
迎える2度目のドラフトイヤーは「リベンジの1年」
一方、渡邉は大学ラストイヤーを「リベンジの1年」とも位置づけている。2度目のドラフトイヤーという意味合いもあるが、それだけではない。
昨年は大学日本代表入りして国際大会を戦った夏以降、コンディション調整に苦しみ、秋のリーグ戦は2勝止まりで個人タイトルなし。チームはリーグ優勝こそ果たしたものの全国切符はつかめなかった。
明治神宮野球大会出場をかけた東北地区大学野球代表決定戦の初戦・東日本国際大学戦で先発し完封するも、決勝の富士大学戦では救援登板できず1対2で惜敗。渡邉は「2日連続で投げられなかったのは自分の課題。(決勝も)ピンチの場面で投げるくらいでないとダメだし、全国に行けなかったのには自分にも責任があると思う」と唇を噛む。
「チームとしては全国優勝、個人としてはドラフト1位で入団してすぐに活躍。すべてリベンジですね。今年も変わらず、チームのために投げて、春秋通してすべてのタイトルを総なめするくらいの気持ちで挑みます」。逆境に負けず、努力と結果を積み上げてきたからこそ、胸を張ってリベンジを誓う。
(取材・文・写真 川浪康太郎)