東北にも”国立の雄” ジャイアントキリング起こした東北大ナインに聞く、真剣勝負の醍醐味

 今春、国立大野球部の奮闘がスポーツニュースを賑わせている。関西学生野球では、京大が関大から40年ぶり、立命館大から20年ぶりの勝ち点を奪取。東京六大学野球では、東大が早大相手に2試合連続引き分けと善戦した。

 4月24日、仙台六大学野球でも大番狂わせが起きた。東北大が、32年ぶりに東北福祉大に勝利したのだ。東北福祉大といえば、リーグ最多74回の優勝を誇る強豪校。金本知憲、佐々木主浩、斎藤隆…など名だたるスターが巣立ち、昨年も4人のプロ野球選手を輩出した。一方、東北大は優勝回数0回で、プロに進んだOBもいない。東北福祉大戦の勝利は、鈴木得央・現監督が東北大で選手としてプレーしていた1990年以降遠ざかっていた。ジャイアントキリングはなぜ起きたのか。そして、国立大で野球を続ける醍醐味とは。東北大ナインに話を聞いた。

自分で考え、行動する

 東北大が目指す野球はどんな野球か。「打ち勝つ野球が楽しいですけど、現実的には…」。鈴木監督はそう前置きした上で、日頃、選手たちに伝えていることを教えてくれた。「打者は甘い球をしっかり打つ、投手は逃げずにストライクを投げる」。それは至ってシンプルなことだが、簡単にできることではない。勝利した東北福祉大戦では、相手のミスにつけ込んで3点を先取し、無四死球、無失策でリードを守り切る、教え通りの野球で3-1と接戦を制した。

ピンチの場面でマウンドに行き、バッテリーに声をかける鈴木監督

 また鈴木監督は選手たちに、「自分で考え、行動する選手になってほしい」と期待する。選手たちは自分の頭と体で、甘い球を打つため、ストライクを投げるため、日々試行錯誤している。

32年ぶり大金星の立役者

 「マウンドにいる時のことはあんまり覚えていないんですよね」。声を出しながら全力で腕を振り、ピンチをしのぐと雄叫びを上げる。気迫のこもった投球を意識しているのか尋ねると、こんな答えが返ってきた。小池侑生投手(4年・前橋)。東北福祉大打線相手に9回1失点完投をやってのけた、32年ぶり勝利の一番の立役者だ。

 最速143キロのストレートが最大の武器。一方で制球力には課題があったが、昨年12月に転機が訪れた。慶応大との練習試合の際に相手首脳陣の目にとまり、2日間限定で同大の練習に参加したのだ。肩が柔らかく、腕の動きが定まらないことを指摘され、フォームを修正。さらに、冬場でも欠かさず投げ込む慶応大投手陣の姿に感化され、この冬はブルペンに入った際は1日100~150球投げ込むよう心がけた。例年はキャッチボール程度で、「冬場に投げ込むのは初めての経験だった」という。

雄叫びを上げながらマウンドを降りる小池

 一冬で大きく成長し、オープン戦では与四死球が減少。自信を持ってラストイヤーに臨んだ。しかし、今季初登板となった4月17日の東北学院大戦は5回1/3を投げ9四死球と乱調。それでも、「肩の力が抜けた。(乱調だったのが)逆によかったのかもしれない」と、翌週の東北福祉大戦では開き直った。冬に取り組んだことが実ると信じ、自らのスタイル通りがむしゃらに投げきったことが、無四死球完投という最高の結果につながった。

熟した不動のクリーンアップ

 野手陣では、3番・笹渕勇武外野手(4年・佼成学園)、4番・鈴木杜朗内野手(2年・仙台二)、5番・大澤亮捕手(3年・秩父)からなる不動のクリーンアップが好調だ。今季ここまでの10試合では3人で打率3割5厘、2本塁打、18打点(5月8日時点)と相手チームの脅威になっている。勝利した東北福祉大戦も、この3人のバットで3点を奪った。

練習でも試合でも野手陣を牽引する笹渕

 3番を打つ笹渕は打撃班のリーダーで、野手陣の練習メニューを作成している。昨秋、140キロ台の速球に手も足も出ず、チームの課題が明確になったことから、この春に向けてはマシンを使った速球対策を重点的に取り入れた。また、スイング数のノルマを設け、練習時に数を書き込むようにすることで、全体の振り込みの量も増加。冬の鍛錬が功を奏し、今季は速い直球を持つ好投手からも捉えた打球を飛ばせるようになってきた。「打つべき人が打って点が入る、いい状態」(笹渕)と手応えを感じながら、指揮官の言う「自分で考え、行動する」野球を実践している。

懸命な守備を見せる大澤

 3人の中でも特に鈴木監督が評価しているのが、5番・大澤の成長。昨年は正捕手を務め春夏ともにベストナインを受賞したが、打率1割台と打撃では結果を残せず。「たまたまいただいた賞」と謙遜しつつ、「恥ずかしいプレーはできない」との自覚を持ち、打撃フォーム改造に取り組んだ。苦手だった速球にも対応できるようになり、昨季より打率が1割近く上昇する(5月8日時点)など、躍動している。また、練習中から大きな声を出し、投手や他の野手に積極的にアドバイスする姿が印象的で、チームに欠かせない攻守の要となっている。

勝つことに貪欲に

 練習中から声を出す雰囲気を浸透させたのは、主将の畑古悠人内野手(4年・江戸川学園取手)だ。新チーム発足時から、「勝てる主将になる」との思いを選手たちに伝え続けてきた。上位校と対戦する際、レベルの高い個人との一対一の戦いではなく、本気で相手チームに勝つ戦いができるよう、意識付けをするためだ。

主将としてチームをまとめる畑古

 春季リーグ戦開幕の約1週間前、練習中に声が出ていない状況を見て、「勝てるチームと感じない」と危機感を覚えた。ナインに「こんな雰囲気でいいのか」と問いかけ、最上級生には個別で話をした。この出来事をきっかけに、チームの全員が改めて勝利に貪欲になる姿勢を取り戻した。

国立大で野球をする醍醐味

 国立大で野球を続ける上で、障壁は少なくない。東北大の練習場は、仙台駅から車で約15分のところに位置する東北大富沢グラウンド。生い茂る雑草の草むしりや破損したネットの修理は選手、マネージャーが自ら行う。グラウンドの状態が悪く、打球がイレギュラーすることも多い。ボールが不足することもあり、打撃練習で使うマシンはこの春、約20年ぶりに買い替えた。また、全体練習は平日が朝の約2時間を週2、3回、土日が朝から昼にかけての約4時間と、部員全員が集まる時間も限られている。

全体練習が行われる東北大富沢グラウンド

 そんな中、選手たちは甲子園経験者らが集うハイレベルなリーグ戦で戦うことに喜びややりがいを見いだしている。慶応大の練習に参加し、指導者やトレーナーの多さに驚いた小池は、鈴木監督の言う「自分で考え、行動する」ことに限界を感じた。その一方、「(自分で考え、行動することは)野球以外の場面でも必要なこと。それが難しさでもあり、良さでもある」と捉え、強豪校で吸収したノウハウを、自らやチームの野球に還元した。

 小池とダブルエースを張る瀬戸崚生投手(4年・桐光学園)は、神奈川の名門校出身。1学年上に中川颯投手(現・オリックス)、同学年に渡部遼人外野手(同)と一流選手がいる中、高校3年間をほとんど打撃投手として過ごした。今は「当時は及ばなかった相手と真剣勝負ができる。高校の時と比べて野球が楽しい」と声を弾ませる。畑古は、椋木蓮投手(今季、東北福祉大からオリックスにドラフト1位で入団)から受けた死球を回想し、「今となってはいい思い出です。対戦した選手がプロに行くのは嬉しいし、応援しています」と笑った。

 甲子園で輝いた選手、高校ではベンチにすら入れなかった選手。強豪私立大でプロを目指す選手、国立大で文武両道に励む選手。大学野球には多種多様な選手がいるが、グラウンドに立てば皆平等。それぞれに悩みや楽しみがあり、そして全員が勝つためにプレーをする。だからこそ、ジャイアントキリングは起きる。野球の面白さを改めて教えてくれた東北大ナインの次なる快挙は、そう遠くないはずだ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

関連記事