相次ぐ名門企業チームの休廃部 元“きらやか戦士”が伝えた「会社あっての社会人野球」
名門社会人野球チームの休廃部が相次いでいる。都市対抗57回、日本選手権43回の出場を誇るパナソニックが2026年シーズン限りで休部すると発表したのが昨年末。さらに今年5月には、セガサミーが同じく2026年シーズン限りでの廃部を発表した。突如として休廃部を余儀なくされたチームの選手は、その翌年からそれぞれの道を歩むこととなる。
2022年シーズン限りで休部し、今年正式に解散が決まったきらやか銀行でプレーしていた武田龍成(28)は、同地区のJR東日本東北に移籍した。4年目を迎えた今年、初めてチームメイト全員の前で移籍の経緯を語ったという。その真意とは。
JR東日本東北の投手最年長・武田龍成に託された最終回
6月27日、福島県営あづま球場。都市対抗東北二次予選の第1代表決定戦に臨んだJR東日本東北は日本製紙石巻を10-1で下し、6年連続32回目の本大会出場を決めた。クリーンアップに名を連ねても不思議ではない丸山大(27)、大西蓮(24)、金沢龍介(27)の6・7・8番で計8安打をマークするなど、隙のない打線が爆発。圧倒的な強さを見せつけた。
そんな試合の最終回を締めたのが武田だ。小野寺輝(23)、竹本祐瑛(27)の後を受けて9回からマウンドへ。先頭打者に安打を許すも後続は抑え、最後の打者は空振り三振に仕留めた。「優勝を目指しているチームにとって、都市対抗に出ることは最低条件。第一関門を突破できてホッとしています」。試合後、武田はそう言って胸をなで下ろした。

今年の投手陣は昨年先発の柱を担った早坂一希(24)ら3人が怪我で出遅れる苦しい台所事情を強いられている。武田はその投手陣の中では最年長。引っ張る立場だが、「聞かれたことには答えますが、基本的には自分は自分のことをしっかりやる。若い選手たちから刺激をもらいながら、負けないよう切磋琢磨しています」と自己研鑽に励むスタイルは崩さない。
全体ミーティングで伝えた「野球ができるありがたみ」
この日の2週間前、クラブチーム・B-net/yamagataの取材で山形市の練習施設を訪れた際、主将の新井諒(30)が「武田が(JR東日本東北の)みんなの前できらやかの話をしたと聞きました。それが嬉しかったんです」と笑顔を浮かべていた。新井にとって武田はきらやか銀行時代の後輩で、今でも頻繁に連絡を取り合う仲だという。
このことについて武田に聞くと、頬を緩ませた。そして、「きらやか銀行」の名前を出した真意を明かしてくれた。

「その日の朝のミーティングで、コーチの方からセガサミーの硬式野球部が廃部になるという話を聞かされました。JABA東北大会でパナソニックと対戦した直後でもあったので、これを機にみんなに『野球ができるありがたみ』を感じてほしいと思い、僕の経験を伝えました」
これまで、移籍の経緯について個人的に聞かれて答えることはあっても、全員の前で話したことはなかった。だが、誰もが知る名門チームの休廃部が相次いだタイミングで、「いつも野球の練習や試合ができているのは会社のみなさんのおかげ。会社あっての社会人野球」と伝えた。普段は自ら多くを語らない武田が、どうしても伝えたいことだった。
忘れたくない3年間、グラブに刺繍した「きらやか魂」
新井をはじめ、かつてきらやか銀行でプレーした選手たちは、チームが変わっても「きらやか魂」を胸に宿らせて戦っている。それは武田も同じだ。武田のグラブには、「きらやか魂」の文字が刺繍されている。

「忘れたくないというか、自分のターニングポイントというか。経験という言葉では足りないくらい、野球人生の中で一番大切な時間でした。今も『あの時間があったから』と原動力にしている。『きらやか魂』は忘れずにプレーしたいと常に思っています」
「悔しい思い」をすることの方が多かったというきらやか銀行時代。ただ、他では得がたい、濃い3年間が、今の武田の礎になっている。武田は「きらやかにいた期間よりJRにいる期間の方が長くなった。JRに来てから4年連続で都市対抗に出させてもらっているのは嬉しいですが、『きらやかでも出たかった』という思いもあります」としみじみ口にした。それは本音だろうが、「きらやか魂」が宿るからこそ今の武田が輝くとも言える。
思い背負って4年連続の都市対抗へ「全力で投げます」
都市対抗東北二次予選にはB-net/yamagataも出場したため、大会前には新井と「お互い頑張ろう」と励まし合った。新井に限らず、「きらやか戦士」とは離れていてもどこかでつながっている。
毎年、東京ドームには数多くのきらやか銀行関係者が応援に駆けつけてくれる。2年前の都市対抗では、かつてきらやか銀行でプレーした補強選手の小島康明(33、TDK)とともにJR東日本東北を準優勝に導き、雄姿を届けた。

「場所は変わっても毎年応援してくれるので嬉しいです。『きらやか戦士』がまだ頑張っているという姿を見せたいし、勝ち続けることでそう思わせられるはず。今年も『きらやか戦士』として、どんな場面でも自分の良さを前面に出して、全力で投げます」。武田は「野球ができるありがたみ」を感じながらマウンドに立ち続ける。この世に一つしかない、特別なグラブとともに。
(取材・文・写真 川浪康太郎)
