人との繋がりを強さにかえる——広島大学漕艇部、インカレ決勝進出への挑戦
広島大学漕艇部は創部77年の歴史を誇る伝統ある運動部だ。
平日は大学でエルゴと呼ばれるボート競技の練習用マシンやウェイトトレーニングなど陸上練習に取り組む。
週末は大学から車で1時間半ほどの広島市内の川沿いへ移動。船の保管場所であり、合宿の拠点となる艇庫に泊まり込んで練習に打ち込む。今年の目標は「インカレ決勝進出」だ。
今回は、3年生としてチームを支える岡崎稜平さんに話を聞いた。
入部のきっかけから組織の課題、後輩たちへの想いまで、じっくりと語ってもらった。

4年間をともにしたいと思える、繋がり
広島大学漕艇部の特徴を一言で教えてほしいと伝えると、岡崎さんは迷わず答えた。
「雰囲気がいいとか、仲良さそうってすごく言ってもらえる部活なんです」。
話を聞くと、部活の枠を超えて食事や遊びにも出かける仲ということが分かった。
この雰囲気の良さは、上下関係の風通しの良さとも深く結びついている。
「一緒に過ごす時間が長いこともあり、なんでも話せる関係性なんです」。
先輩・後輩という垣根を越えて気軽に言葉を交わせる文化が根付いているのだ。
その成果は、今年の新入生歓迎にも現れているようだ。
新入部員は7人の女子を含む16人。例年以上の人数を迎えることができた。
漕艇部では勧誘のビラを渡す瞬間から積極的に話しかける。
質問を投げかけ、会話を弾ませ、「この先輩、話しやすいな」との印象を持ってもらえるように心がけたという。
新入生向けの試乗会では質問コーナーを設け、先輩たちが冗談を交えながら1年生とのやり取りを盛り上げていく。
目指すのは「ボートを好きになってもらうより、この部活楽しそうだなって思ってもらうこと」。
それが入部への第一歩になる。ボートに馴染みのない新入生だからこそ、競技より先に「この先輩たちと過ごす4年間」を訴求するのだ。
心の交流の積み重ねが、今年の新入部員16人の結果につながったのだろう。

「練習を頑張った分だけタイムが伸びる」——数字が教えてくれる手応え
何を隠そう、岡崎さん自身も「雰囲気」に惹かれてこの部活に飛び込んだ1人だ。
入学時にはボートに特段の関心も無かったし、「部活」に入るつもりもなかった。
きっかけは、友人に「面白そうだよ」と誘われて行った試乗会。先輩たちの仲の良さに強く惹かれた。入部の決め手は、ボートではなく先輩たちとの大学生活への憧れだった。
入部してしばらくすると、ボート競技やその練習の面白さも分かるようになった。
例えば、エルゴと呼ばれるトレーニング機器ではタイムが数値として表れる。
「練習を頑張った分だけそのタイムが伸びる」。努力が数字に正直に返ってくる、ボート競技練習ならではの大きな魅力だ。

本気だからこその衝突を、絆に変える
ボート競技の魅力を尋ねると、クルーボートの話になった。複数人で1つのボートを漕ぐ種目で、「自分1人が頑張ったらいいだけじゃないっていうのが面白い」。
他の人と動きを合わせることが、難しさでもあり醍醐味でもあるらしい。
複数人で取り組む種目だからこそ、本気になるほどぶつかることも増えてくるという。
特に結果が出ない時期が続くと雰囲気は悪くなり、練習そのものがかみ合わなくなることもあるそうだ。
また、大会のない冬場はモチベーションを見失いがちで、「そういう人が1人2人いたら、チーム全体に伝染したりもする」と話してくれた。
そうした時には「自分で思うのはいいけど、チームの雰囲気を悪くするのはやめよう」と声をかけ、1人で抱え込まないように配慮しているという。
クルー内で関係がこじれた時には、一緒に食事をしながらあえて競技の話をせず、「自分たちの関係性を思い出す」時間をつくる。
別の種目の上級生や同級生が1対1で話を聞く場面も多いそうだ。
多方面からそっと支えるメンバーの存在も、チームを立て直す力になっているに違いない。

77年の重みと、将来への環境づくり
漕艇部の77年におよぶ歴史は、OB・OGたちが一つひとつ積み重ねてきたものだ。
スポーツドリンクや生活用品の差し入れ、試合への応援と、OB・OGは今も部を温かく支えてくれている。
そんな先輩たちから語られる言葉は、時に驚きとともに届く。
かつては艇庫の外の床がコンクリートではなく土のままで、雨が降ればぬかるんでいたそうだ。
今当たり前に使っている施設も、先輩たちが作り上げてきたものだと気づくと、自然と今の練習環境へのありがたさが込み上げてくる。
歴史を受け継ぎながら、岡崎さんたち上級生が力を入れているのが、部の運営のアップデートだ。
部員数の増加とともに新しい課題もクローズアップされており、なかでも「お金」の問題が大きい。
大会の参加費や遠征費、艇庫での生活費、オールや船の消耗と買い替え。出費は多岐にわたる。
岡崎さんが入部した頃と比べても、かかる費用はじわじわと増えている。
そこで取り組んでいるのが、お金の使い道の一層の「見える化」だ。
何にいくら使っているかを下級生にも分かるように伝えることで、納得感のある運営を目指している。
その上で、シャワーの時間を決めてガス代を節約したり、生活用品や食材を「まとめ買い」したりといった工夫も重ねる。
並行して「本当に自分達が出るべき大会」を見極め、出場する大会の数や人数も精査するようになった。
こうした取り組みの根底にあるのは、競技以外のことで後輩たちに余計な不安を抱えさせない思いだ。
「競技に集中できる環境」を整える。それが、OBから受け取ったバトンを次へつなぐ、今の自分たちの役割だと岡崎さんは考えている。

インカレ決勝進出の先にある願い
漕艇部では新チームが発足する際に、その年の目標を部員同士で話し合って決める。
今年の目標は「インカレ決勝進出」。77年の部の歴史を振り返っても「決勝進出や、入賞者は指で数えられるレベル」という高い目標だ。
現在は過去のタイムを分析し、そこから逆算して練習メニューを組み立て、試しては見直す毎日を送っている。
日々の小さな前進をデータで確認しながら、目標へと着実に向かっている。
そんな岡崎さんが後輩に伝えたいのは、「自分の目標を見失わずに、大学での部活の生活を楽しんでほしい」との思いだ。
きつい練習が長く続くと、目標も、練習に向き合う意味も見失いがちになる。
それでも、「せっかく入ったからには最後まで頑張ってほしい」と願う。
その言葉の奥には、4年間をしっかりと戦い抜いてほしいとの願いがある。
岡崎さん自身、ボートではなく先輩たちの雰囲気に惹かれて入部した1人だ。
だからこそ、「最後まで楽しんでほしい」という言葉には、単なる励ましを超えた重みがある。
競技力向上やモチベーション管理、さらには運営費用のやりくりなど、取り組む課題は少なくない。
それでも漕艇部はインカレ決勝という高い壁に向かって、今日もオールを握る。
4年間を共に過ごす仲間という感覚を手放さないまま、挑戦し続けることが、この部活の強さなのかもしれない。

(取材・文/土屋明子 写真提供/広島大学漕艇部・JARA広報)
