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8年ぶりに春の仙台六大学野球を制した仙台大、目標を「日本一」から「リーグ優勝」に変えつかんだ栄光

 5月22日、仙台六大学野球春季リーグ戦が閉幕した。仙台大と東北福祉大による頂上決戦は1勝1敗となり、3回戦に勝利した仙台大が2季連続優勝を成し遂げた。同時に、2015年以来、8年ぶりとなる全日本大学野球選手権出場が決定。昨秋の優勝メンバーが多く残っていることからチーム力には定評があった一方、開幕前のオープン戦で結果を残せなかった上に怪我人も続出し、不安を抱えながら臨んだシーズンだった。苦しい時期を乗り越え、連覇を果たすまでの道のりを振り返る。

キャプテン苦悩のスタート

 今年2月中旬の取材時、新主将の辻本倫太郎内野手(4年=北海)が迷える胸中を明かしてくれた。

 「毎年『日本一』を掲げて新チームが始まっていたけど、僕はそれを疑問に感じていた。うちのチームには甲子園で優勝を経験した主力選手はいないし、大学に入ってからも全国で1勝もできていない。全員で目指せる目標を設定しないと目標の意味がない」

リーグ優勝を決めマウンドに駆け寄る仙台大の選手たち

 2年連続で出場した明治神宮大会はいずれも初戦敗退。「日本一」を達成する青写真を描けなかった辻本は、チームメイトに春の目標を「全国1勝」に変えることを提案した。賛同する選手がいる一方で「目標はもっと高く設定すべき」との声も上がり、意見が割れる中、一部から出た「オープン戦で自分たちの実力を確認してから決定しよう」との案を採用することとなった。

 「自分たちの実力を見つめ直して、日本一を狙えないなら『全国ベスト4』とか、『全国1勝』とか、それとも『福祉大に勝つ』とか…自分たちに見合った目標を立てようと思っています」。一度プライドを捨て、ドラフト候補としてではなく、主将として悩み、考え抜く辻本の言葉からは、大学ラストイヤーにかける並々ならぬ思いが伝わってきた。

目標達成、溢れ出た涙

 3月から始まったオープン戦では負けが込んだことから、全員が納得したかたちでチームの目標を「リーグ優勝」に定めた。リーグ戦期間中、イメージしやすい目標を立てたことが功を奏した場面は多々見られた。

 4節目の東北学院大1回戦では2020年秋以来となる東北福祉大戦以外の試合での黒星を喫したが、辻本が「どこに勝っても、どこに負けてもおかしくない状態でリーグ戦に臨んでいたし、どことやっても五分の試合になると常々言っていた。たまたま負けたのが学院大だった」と振り返るように、チーム内に焦りは生まれなかった。2、3回戦は連勝し、勝ち点を死守。他の節でも東北工業大1回戦、東北大2回戦は5回までリードを許すなど苦しい展開の試合も少なくなかったものの、慌てることなく終盤で逆転してみせた。

優勝決定後、涙を流しながら喜ぶ辻本(左から2番目)

 辻本自身は東北大2回戦での満塁本塁打や東北福祉大3回戦での4打点など勝負強い打撃を光らせ、キャリアハイとなる打率.342、13打点をマーク。遊撃の守備でも再三投手を救い、そして何より「常に強く、常に先頭を走るイメージで、一番大きな声を出して、一番喜んで、一番悔しがることを意識していました」との言葉通り、どんな時でも明るく振る舞いチームを鼓舞してきた。

 しかし、背負っていたものはあまりにも大きかった。だからこそ、優勝の瞬間、遊撃を守っていたその場で泣き崩れ、しばらく涙が止まらなかった。目標を下げる苦渋の決断が間違っていなかったことを証明するためには、目標を達成するしか方法はない。それを成し遂げた時、辻本はようやくプレッシャーや責任感から解放された。「目標を達成したことでみんな自信がついたと思う。全国での目標はこれからまた話し合って、達成できるよう意思疎通を図っていきたい」。全国の舞台に、心からの笑顔で野球をプレーする辻本が戻ってくる。

チームを束ねた4年生野手陣

 今春の仙台大は昨秋と比べると打線の組み替えが少なく、それだけ経験豊富なレギュラー陣が好調を維持していたと言える。辻本を含む7人が3割を超える打率をマーク。特に終盤からは自身初の最高殊勲選手賞に輝いた平野裕亮外野手(3年=山村学園)を4番に据えたことでつながりが増し、また下位打線に入ることの多かった伊藤颯内野手(3年=鶴岡東)が10打点、鹿野航生内野手(4年=日大山形)が9打点を挙げるなど、どこからでも得点できる打線が相手投手の脅威となった。

打率.368、12打点と好成績を残しMVPに選ばれた平野

 昨年からスタメンを張っていた4年生野手の貢献度も高く、全試合で1番に座った川島優外野手(4年=山村学園)は打率.400、20盗塁で最高打率賞、最多盗塁賞の二冠を達成。シーズン20盗塁はリーグ新記録タイだった。昨年から正捕手を務める坂口雅哉捕手(4年=八王子学園八王子)は下級生の多い投手陣を引っ張り続け、打っては最高打点賞のタイトルを獲得した。

 タイトルこそなかったものの攻守にわたってチームに欠かせない存在だったのが、菅原礼央内野手(4年=旭川大高)。2節目までは三塁でスタメン出場していたが、3節目からは本職の二塁を守った。大学球界屈指の守備力を持つ辻本と二遊間を組めたことが大きな刺激になったといい、「倫太郎が『二遊間の技量はチームの力』と言っていた。僕は倫太郎に比べるとうまくないんですけど、倫太郎がやりやすくなるよう頑張ってきました」と胸を張る。実際、好守で安打を阻む姿は辻本に引けを取らないほど観る者に強い印象を与えた。

二遊間を組む辻本(左)を迎え入れる菅原

 そして菅原の代名詞とも言えるのが、大きな声と全力プレー。高校、大学の1学年上の先輩で、昨年までムードメーカー的役割を担った中筋大介さん(現仙台大コーチ)のスタイルを踏襲しており、「中筋さんがいるだけで野球がやりやすくなって、自分も高校の時から助けられてきた。中筋さんがやってきたことは絶対にチームのプラスになっていたので、今度は自分がやろうと思った」と話す。技で、気持ちで魅せる仙台大の二遊間が全国でも輝いてくれるはずだ。

若き救世主と復活のエース

 投手陣はエースの川和田悠太投手(4年=八千代松陰)をはじめ怪我人が続出し、苦しい運用を強いられた。森本吉謙監督は優勝決定後の取材で「船出は厳しかったが、新戦力が出てきてくれて、一戦一戦技を磨いてたくましくなってくれた」と振り返り、具体名として佐藤幻瑛投手(1年=柏木農)、南勝樹投手(3年=白鴎大足利)の名前を挙げた。

 佐藤は1年生ながら開幕2戦目の先発を任され、全12試合中7試合で先発のマウンドに上がった。150キロに迫る速球を武器に堂々たる投球を続け、3勝無敗、43奪三振とエース級の活躍。勝ち点をかけて挑んだ東北学院大3回戦では2失点完投をやってのけ、東北福祉大3回戦でも6回まで0に抑える力投を披露した。

東北福祉大2回戦では6回1失点と好投した南

 南は昨年までリーグ戦出場経験がなく、今春も開幕直前までBチームにいた左腕。Bチーム内で練習試合ながら圧倒的な成績を残したことで開幕投手に抜擢されると、その後も東北学院大2回戦、東北福祉大2回戦で先発起用されるなど首脳陣の信頼を勝ち取り、昨年までのエース・長久保滉成投手(現NTT東日本)を彷彿とさせる投球スタイルで防御率1.47と抜群の安定感を誇った。

 そんな後輩たちの奮闘を「頼もしいの一言」と称えるのが、エースであり投手リーダーの川和田。昨秋の東北福祉大戦で肘の内側側副靱帯を損傷し、今年3月に復帰するも今度は肉離れを発症した。リーグ戦期間中はリハビリに励み、登板の可能性を伝えられていた最終節に照準を合わせて自主練習にも取り組んできた。

優勝を決め喜ぶ川和田

 最終節の東北福祉大戦は1回戦からベンチで雰囲気を盛り上げ、3回戦では同点に追いつかれた後の7回一死一、二塁の場面で今春初登板。このピンチを切り抜けると最終回まで投げきり、優勝の瞬間は歓喜の輪の中心で喜びを爆発させた。「最上級生として、やっぱり僕がいないといけないんじゃないか」。投手陣を支えてくれた後輩たちへの感謝と勝利への執念を示す、魂の37球だった。

 全日本大学選手権でも継投が勝敗を左右することとなりそうだ。川和田を筆頭に、東北福祉大戦で3連投したジャクソン海投手(4年=エピングボーイズ)、左キラーぶりを発揮した樫本旺亮投手(2年=淡路三原)ら救援陣にもリーグ戦同様の働きが求められる。投打ともに総合力の高さが際立つ仙台大。まずは全員で、9年ぶりの全国1勝をつかみにいく。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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