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「天才肌に見えて考える選手」ドラフト候補の東北福祉大・杉澤龍が極める理想の打撃~大学日本代表に選ばれた仙台六大学の逸材(後編)

 9月3日に開幕する仙台六大学野球秋季リーグ戦を前に、大学日本代表に選ばれた2選手を取材。前編では、仙台大・辻本倫太郞内野手(3年・北海)に話を聞いた。後編では、その辻本が「天才肌に見えてすごく考えている」と印象を語った東北福祉大・杉澤龍外野手(4年・東北)にスポットを当てる。

 今秋のドラフト指名候補に名前が挙がる、走攻守三拍子がそろった左の好打者。秋田出身で、東北高、東北福祉大と進み実力を磨いてきた。最後のアピールの場である秋季リーグ戦を直前に控えた心境や、ここに至るまでの野球人生を語ってもらった。

仙台六大学に誕生した史上5人目の三冠王

 5月24日、勝った方の優勝が決まる仙台大との大一番。初回、仙台大のエース・長久保滉成投手(4年・弘前学院聖愛)から、杉澤が右翼席への先制2ランを放った。先手を取った東北福祉大はリードを守り切り勝利。このカードは1回戦でも長久保からソロを放ち、2回戦では先制適時打をマークするなど、3番打者として申し分のない働きを見せた。

 全試合を終え、打撃成績は打率5割5分(40打数22安打)、4本塁打、14打点。仙台六大学では当時仙台大1年だった松本桃太郎外野手(現・Honda鈴鹿)以来9年ぶり、史上5人目の「三冠王」に輝いた。1年秋からリーグ戦に出場し、スタメンに定着した3年春には3割を超える打率を残すなど頭角を現していたが、この春の活躍でプロからの注目度はさらに高まった。

春季リーグ戦では驚異的な数字を残した杉澤

 杉澤は三冠王獲得について「春はよかったけど、秋も続けないと意味がない」と冷静だが、一方で、「結果だけでなく、内容を見ても自分がこうありたいという想像通りの打撃ができた」と確かな手応えを感じていた。その「想像通りの打撃」にたどり着くまでには、紆余曲折があった。

強化合宿を経て取り入れた「左手」を使う新打法

 3年までと4年次で大きく変わったことは何か。それは、「左手の使い方」だ。昨年12月、大学日本代表候補強化合宿に参加。矢澤宏太投手(日本体育大4年・藤嶺学園藤沢)、蛭間拓哉外野手(早稲田大4年・浦和学院)ら「左投げ左打ち」の野手が左手をうまく使った打撃をしている姿を見て、左手の重要性に気づいた。

 そこで取り入れたのが「インサイドアウト」。インサイド(内側)からアウトサイド(外側)へ動く軌道を意味し、グリップが先に出てバットの先が後から出る打ち方のことをいう。杉澤は「右投げ左打ち」ということもあり、3年次までは右手主導で「はじく打撃」をしていた。しかし、左手で押し込む意識でインサイドアウトのスイングをすることで、反対方向へも強い打球を飛ばせるようになり、ミート力が向上した。

自身の打撃論を丁寧に説明してくれた杉澤

 春季リーグ戦では、最初の出場となった東北大1回戦から感覚をつかんだ。この試合では5打数5安打と打ちまくったが、そのうち3本は左翼方向へのライナー性の安打。「これまでだったら引っ張っていた」という球を逆方向に飛ばせたことで、自信が深まったという。

「考える野球」ができるようになるまで

 春季リーグ戦後は大学日本代表に初選出され、オランダで開催されたハーレムベースボールウィークに参加。6試合でスタメン出場するも13打数1安打と外国人投手を打ちあぐね、「コンタクト能力が足りなかった」と唇を噛んだが、ここでもチームメイトの打撃論に触れた。例えば逆方向へ綺麗な打球を飛ばしていた林琢真内野手(駒澤大4年・東邦)にコツを聞くと、「バットを落とし、その位置で振りにいくとちょうど当たる」との答えが返ってきた。その感覚にはまだたどり着けていないが、自分に合った方法を探し、試行錯誤を続けている。

 話を聞けば聞くほど、辻本の言うとおり「考える野球」をしていることがわかる。ただ杉澤がより真剣に野球と向き合うようになったのは、ドラフトを意識し始めた昨年頃のことだ。

8月下旬のオープン戦でプレーする杉澤。走攻守でアピールしている

 小学4年から野球を始め、中学生の頃のポジションは捕手や投手だった。捕手を続けたい気持ちが強かったが、「仙台育英を倒して甲子園にいこう」との思いで進学した東北では遊撃手に転向。1年次からレギュラーの座をつかみ、有言実行で甲子園にも出場したが、遊撃の守備には3年間苦戦し続けた。「高校時代は守備に時間を費やしていて、バッティングのことを考える暇もなかった」と当時を振り返る。

 東北福祉大に進学した当初、遊撃には元山飛優内野手(現・東京ヤクルトスワローズ)という絶対的レギュラーがいた。大塚光二監督から「試合に出られるポジションにいくか、ショートで勝負するか」の二択を提示され、外野手転向を決めた。中学、高校で短期間ながら守り手応えを感じていた外野守備にはすぐに順応。ようやく打撃を見つめる時間ができ、プロ入りを目指して練習に取り組む中でより深く理想を追求するようになった。

「最終手段」は父のアドバイス、悲願のプロ入りで恩返しを

 杉澤には、打席に立つ際にバットを高く掲げるルーティンがある。この動作は鹿児島実業でプレーしていた父・孝児さんから教わったもので、小学生の頃から続けている。「左手で傘をさすイメージで、右手はそこにくっつける。その状態で下半身から体を落とすと、左膝の上に手が降りてくる理想の構えになる」との教えだった。

 孝児さんは怪我の影響で軟式野球に転向したが、杉澤が「技術は自分よりすごかったと思う」と話すほどの実力者。野球を始めた頃から自宅でスパルタ指導を受け、「中学まではめちゃくちゃ嫌いだった」と笑うが、親元を離れてからは感謝の念を抱くようになった。今では孝児さんに打撃の動画を送ってアドバイスをもらうことが、「どうしようもなくなった時の最終手段」になっている。

長年続けている打席でのルーティン。立ち姿が様になっている

 そんな父への最大の恩返しは、プロ野球選手になること。この秋プロ志望届を提出する予定で、運命の日を待つ。今春は4本塁打をマークしたが、「ホームランは打率を求める中で勝手に増えてくる。しっかりとコンタクトし、打率を残すことに重きを置いて練習している」と語るミート力重視の打撃が持ち味。一歩目の反応や打球判断に定評のある守備も武器になる。「とにかく悔いのないようにだけ考えてプレーしたい」。自らの武器をどこまで磨くことができるか。大学野球最後の秋に臨む背番号3から目が離せない。

 辻本と杉澤は、8月31日に開催される高校日本代表との壮行試合にも出場する予定。東北の大学を代表し戦う二人の勇姿にも注目だ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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