プロ野球を支える裏方さん~株式会社久保田運動具店・葛西大地氏「ライオンズ復活のため、何でもサポートしたい」
プロ野球チームを“裏方”として支えるのは、球団職員だけではない。野球用品メーカー・株式会社久保田運動具店(以下久保田スラッガー)の葛西大地氏は、“西武担当”として練習が円滑に行われるためのサポートをし続けている。
「野球用品メーカー職員として、まずは弊社ギアを使用して頂く選手・関係者の全面サポートが大きな仕事です。しかしそれだけでなく、本拠地での練習(試合前を含む)や春・秋季キャンプのサポートもします。また弊社ギア以外のものでも、不具合が生じれば対応します」

~1、2軍共に、本拠地ゲームには足を運ぶ
1936年創業の久保田スラッガーは、特にグラブに対する高評価で知られる老舗メーカー。西武でも辻発彦氏や松井稼頭央氏らが愛用したことでも知られ、 MLBでも守備の名手オジー・スミス(元カージナルス)が気にかけていたことで有名だ。
「西武は弊社ギアを使用して頂く選手が多く、以前からサポートさせていただいてます。球団スタッフの方々をサポートする形で、練習の設営や球拾い、撤収等が主な仕事です。また選手・関係者の方が効率良く練習でき、気分良く、少しでも調子を上げてもらえるように、備品の改良点やギアの開発のためのヒントを探すことを目指しています」
「シーズン中は、本拠地で練習や試合がある時は必ず伺います。1軍のベルーナドーム、ファームのCAR3219フィールド、そして室内で“お手伝い”します。『スムーズに仕事を行って、選手が1球でも多く打てて、捕球できれば』と常に考えています」
西武は1軍、ファーム共に所沢を拠点にしている。1軍が遠征に出ていても、ファームが活動していることも多く、「シーズン中は、ほぼ毎日、足を運んでいる感じです」という。
「例えば、ナイトゲーム18:00試合開始でも、ギアやボールの納品がある日は11:00頃には入ります。デーゲームの13:00試合開始では、9:00頃になります。用具を積んだ会社の車で、渋滞等に注意を払って出勤しています」
「基本的には、試合前のチーム練習と片付けまでが仕事です。その後プレーボールから約1時間後くらいには球場を出ます。ナイトゲーム時は直帰、デーゲーム時は都内の直営ショップへ向かいます」

~練習の流れや雰囲気を読み取るのに優れた人(鳥越裕介ヘッドコーチ)
「効率的に仕事を行うのと同時に、事故が起こらないように細心の注意を払います」と付け加える。真面目に粛々と仕事を行う姿勢は、選手・スタッフからの評価も高い。
「頼りになる素晴らしいスタッフです」と称賛するのは、鳥越裕介ヘッドコーチ。
「葛西さんは、どんな仕事に対しても全力で取り組んでくれる。夏場の暑い時や連戦で疲れていそうな時でも、絶対に手を抜かず手伝ってくれる。また練習の流れや雰囲気を読むことができ、常に先回りして動いてくれる。本当に助かるし、頼りになるスタッフです」
鳥越ヘッド自身が久保田スラッガーを使用していることもあり、ギアに関する会話をすることもあるという。
「遠征以外、年間を通じて張り付いてくれるので話す機会も増えます。時代によってギアも変わっているから、グラブの変化等について話すこともある。身内感覚で接していますし、チームの一員だと思っています。もちろん必要なことがあれば遠慮なく、お願いできる方です」
「年は上ですけど、何でも話せる兄貴というか友達のような存在です」と笑うのは、滝澤夏央内野手だ。
「僕のプロ1年目、2022年から葛西さんも西武担当として来て頂けるようになりました。年齢は僕が8歳下になりますが“同期入団”のような感覚で、遠慮なく何でも話せる関係になれました。(葛西氏は)気さくな方なので、グラウンド内外のことをいろいろ話しています(笑)」
レギュラー定着目前で練習に必死に取り組む毎日だが、「やりやすいように気を遣ってくれます」と語る。
「秋季キャンプでは、納得するまで残って練習しました。かなり遅い時間までやったのですが、最後まで支えてくれて本当に感謝しています。またノックを受けていても、やって欲しいタイミングでグラウンドを慣らしてくれる。普段からの献身に対して、グラウンド上の結果で報いたいと思っています」

~飛び込みでの面接を経て、久保田スラッガーに採用される
「『就職面接を受けさせてください』とスーツを着て、都内の直営ショップへ履歴書を持参しました」
「野球に関わる仕事がしたい」という夢を叶えて、久保田スラッガーへ入社した。「失礼だと思ったのですが、若さの勢いもあったというか…」と大学3年時を苦笑いで振り返る。
「藤本敦士選手(現阪神総合コーチ)に憧れていました。身体は大きくないのに、柔らかいグラブ捌きで欠かせない存在でした。『ああいう選手になりたい』と思って、小学6年の時に同じメーカーのグラブを探しました。それが久保田スラッガーでした」
東京・千駄ヶ谷、神宮球場のすぐ近くに直営ショップがあることを聞き、足を運んでグラブを購入した。それ以来、時間ができれば顔を出し、ギアに対する知識も増えていった。
「直営ショップにいるのが好きでした。ショップでは職人さんがグラブの型付けや修理をしていらっしゃるので、それを見るだけで楽しかったです。高校生になると、『こういう職場で働きたい』と思うようになりました」
話すようになった店員さんに、「こういう場所で働くにはどうすれば良いのか?」を尋ねた。「大学まで野球をプレーしている人が多い」と聞き、まずは野球へしっかり取り組むことを決意した。
「周囲が就職活動を始めても、気持ちは変わりませんでした。当時、久保田スラッガーは募集していないようでしたので、“飛び込み”の形でお願いしました。不躾のお願いだったのに、快く受け入れてくれて感謝しかないです」
野球とギアへの思い入れの強さが伝わってくる。「プロ野球選手を手伝えることが本当に嬉しい」との言葉にも納得だ。

~キャンプでは室内練習場の業務全般を任される存在
最も頼りにされるのが、宮崎県南郷町で行われる春・秋季キャンプだ。今春も2月1日のキャンプイン約1週間前に現地入り、練習会場の設営からスタートした。
「今年は1月27日に現地入り、ネット張りやマウンド作りなどの設営作業を行いました。室内練習場担当でしたが、到着時の室内は何もない状態。そこへ例年同様にネット等を張っていき、練習ができる環境を作り上げます」
「西武はキャンプイン前の前乗り練習はありません。よって1月30日までに室内練習場を作り上げ、翌31日に最終確認を行う形です。その時にボールやスプレーといった備品も、しっかり準備します」
キャンプが始まると、誰よりも早く室内練習場へ行って準備をする。チーム練習後には片付けをして、最後に出る毎日だった。
「チーム宿舎から球場までの始発バスは8:00ですが、自転車で来て早出練習をする選手もいます。よって7:30には、室内練習場に確実にいるようにしています。照明をつけて、窓を開けていくという流れです」
「チーム宿舎への最終バスは18:00です。そのバスが出てから球拾いや片付けをして、ネット破れの箇所がないかを確認します。万が一、破れていれば球団スタッフの方にお願いして修復していただきます。だいたい18:30頃に帰る感じです」
主に室内練習場に滞在し続けた中、「人一倍練習に打ち込んでいた、蛭間拓哉の姿が印象に残っている」という。
「毎朝、全体練習前に打ち込みを行い、チームメニューが終わってからも必ず室内練習場へ来ました。最終バスまで時間が少なくても、5分だけでも振っていきました。時には打撃投手を務めさせていただきましたが、1球ごとの集中力もすごかったです」
2022年ドラフト1位入団で期待されながらも、昨年は12試合出場に終わった。今季にかける思いが痛いほど伝わり、「絶対に結果に繋がって欲しいです」と付け加える。
「今年のキャンプでは、昨年までとは選手の身体つきが明らかに変わりました。どの選手も動ける状態で大きくなっています。選手個々が目標や課題を持って、ここまでやってきたのが伝わる。若い伸び代のある選手が多いので、きっかけ次第で、さらに成長できるはずです。本当に期待してしまいます」
かつて黄金時代を築いた西武だが、近年は苦戦が続く。チーム復活へ向け、選手・関係者の本気度を感じるという。
「投手、野手共に状態が良い選手が目立ちます。あとは怪我・故障に気をつければ、結果もついてくるのではないでしょうか。今の選手は真面目で本当によく練習をします。彼らがやりやすい環境になるように、少しでも力になれればと思います」

文字通りの“黒子”に徹している。華やかなプロ野球の世界、葛西氏のような“裏方”さんに支えられていることを改めて感じた。
そして最も近くで選手・関係者を見ている葛西氏の言葉だけに、今季への期待も感じてしまう。何かをやってくれそうな今季の西武を、葛西氏は変わらずにサポートする。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・株式会社久保田運動具店、埼玉西武ライオンズ)
