クラブ野球界の名将・本西厚博氏が描く未来図

本西厚博氏がクラブ野球チーム(以下クラブ)のハナマウイ監督を退任し、新たな道を歩み始めた。チーム創設2年で同クラブを都市対抗野球本戦に導いた名将は、「今後も野球界に関わり、選手たちの可能性を引き出したい」と明言する。

「身体が動くうちは野球を伝えていくよ」と常に変わらない勝負師の眼差しで話し始めてくれた。

選手育成と勝利に対する執念は現役時代と変わらない。

「会社の事情等もあり監督を辞めることになったが、さまざまな経験をさせていただき感謝しかない。クラブというプロとは全く違う世界の野球を体験でき、勉強になることばかりだった」

本西氏はハナマウイ創設の2019年に監督就任。2020年に第91回都市対抗野球(東京ドーム)出場を果たすなど、アマチュア球界に大きな衝撃を与えた。今年9月の第48回全日本クラブ野球選手権を最後に、6年に渡り指揮を執ったチームを離れた。

プロ野球、独立リーグ、社会人、クラブと幅広いカテゴリーの野球を知り尽くしている。

~「クラブチームでの都市対抗野球出場」という大きな爪痕を残す

「都市対抗野球出場は大きな思い出。チーム創設初年度はギリギリの部員数でやっていて、守備時には本職ではないポジションに就く選手もいた。そういう状態で2年目を迎え、さまざまなことが噛み合って勝ち進め、全国大会出場を勝ち取れました」

都市対抗野球の初戦では四国銀行(高知)に「0-1」で惜敗したものの、全国に名前を知らしめることができた。

「東京ドームで勝てるかも、と少しだけ思ったが甘くはなかった。予選も含めて、一発勝負や短期決戦での怖さを改めて感じた。全国に出てくるチームは勝負所での集中力が違いました」

「都市対抗出場で注目度が一気に高まった。強豪の企業チームに練習試合を申し込んでも、(対戦を)受けてくれるようになった。また、相手からは常に厳しい戦いを挑まれるようになり、レベルアップにも繋がりました」

2021年以降の都市対抗野球は南関東予選での敗退が続いたが、「着実なレベルアップを感じていた」という。

「都市対抗野球では5年連続で千葉県予選を突破し、南関東予選へ出場した。クラブチームとしては大健闘だと言えます。『東京ドーム出場経験があるのに甘い』と言われるかもしれないが、選手たちは本当によくやってくれた」

また、クラブチーム日本一を決める全日本クラブ野球選手権(以下全日本クラブ)には3回出場(2021、22年)、ベスト4進出経験もある。

「全日本クラブで優勝すれば、社会人野球日本選手権大会(京セラドーム)に出場できる。『都市対抗野球への再出場より可能性は高い』と思っていましたが、うまくはいかなかった。どんな大会でも全国出場は簡単なことではないです」

ハナマウイではクラブチームとは思えない結果を出し続け、名将として知られる。

~クラブでは企業チームや独立リーグへ進める選手を育てる

「クラブは野球界の王道から溢れた選手が集まる場所」と説明してくれる。

「プロや企業チームへ進めなかった選手。何らかの事情で所属先が見つからない選手。そういった選手たちを育てて次のカテゴリーを目指せる道(=野球界の王道)へ、再び送り返すのがクラブの役割だと思います」

社会人・三菱重工長崎時代には、補強選手を含め都市対抗野球に3度出場。プロ野球・オリックス等では名外野手として活躍し、現役引退後はNPBのみならず韓国や独立リーグでの指導経験もある。野球界のさまざまなカテゴリーを知る男の言葉には説得力がある。

「クラブからNPB入りというのは現実的に難しい。育成契約ですら可能性はかなり低いと思います。まずは企業チームや独立リーグへ進める選手に育てることで、その先の可能性も広がります」

2008年の育成ドラフト6位で全足利クラブからロッテ入団した岡田幸文(楽天・外野守備走塁コーチ)等の例もある。しかし、クラブからNPB入りするハードルは果てしなく高いと言わざるを得ない。

クラブチームの大きな課題は、企業チームと比較にならない練習時間の少なさだ。

「クラブと企業チームや独立リーグの大きな違いは練習時間。ハナマウイではチーム全体で集まれるのが週1-2回しかなかった。毎日、全体練習できる環境のチームと実力差がつくのは当然です」

「クラブは練習時間確保が難しいので、技術が伸びなかったりモチベーションを失う選手もいる。でも、企業チームや独立リーグへなら行けそうな素材は決して少なくはない。そういう選手が目標を失うことなく、野球に取り組める環境を作ることが重要だと思います」

ハナマウイ時代から「企業チームや独立リーグへ行きたい」という選手の意向は尊重してきたという。

「ハナマウイには社員選手と野球のみ参加のクラブ生がいます。社員選手は本業もあるので、進路に関しては会社との話し合いになります。しかし、クラブ生に関しては本人に任せます。上のカテゴリーでやれる可能性があるなら尊重してあげたい」

「企業チームでプレーすれば都市対抗野球出場の可能性は増す。露出度が高い場所でプレーすれば、NPB入りの可能性も格段に上がります。選手たちにはそこを目指して欲しいと思っていました」

2023年にミキハウスへ移籍した野手の島澤良拓は、2年連続で都市対抗野球出場を果たした。今季から四国アイランドリーグplus・徳島でプレーする投手の川口冬弥は、今秋ドラフト候補とされる。その他にも、ハナマウイから企業チームや独立リーグへステップアップした選手は存在する。

ユース世代の育成を含め、野球界でやりたいことは山ほどあるという。

~「勝利を目指す」のはクラブチームでも変わらない

「まだ何も決めていないけど、現場(=グラウンド)にだけは立ち続けたい」と、今後への思いを語ってくれた。

「時代も変化して、野球に携わるにも多くの方法がある。実際のチームで監督やコーチをする。野球塾のような形での指導を行う。そしてユーチューブでの発信もできる。でも、私は現場で選手と向き合い指導していきたい気持ちが強い」

「62歳になったけど大御所と言えるような立場ではない。身体が動くうちはノックを打ち続け、実際に手本を見せての指導もしたい。そして選手と一緒に勝ち負けにこだわりたい」

現場にこだわり、そして「勝ち負け」を重視する。野球への情熱が現役時代から変わっていないからだろう。

「良い選手を育てるためには勝利も求めないといけない。勝つためには選手全員がレベルアップする必要がある。その先に選手個々の明るい未来があるはず」

1人でも多くの選手が上のカテゴリーでプレーできるように、これからも全力を尽くす。

現役時代は「いぶし銀」としてチームに欠かせない存在。状況判断力に優れ、仕事を堅実にこなす選手だった。指導者となっても同様で、自らの立場をしっかり理解している。

「野球人として1人でも多くの選手の力になりたい」と語る姿は頼もしい。今後の本西氏が何を見せてくれるのか楽しみだ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・ハナマウイ・ベースボールクラブ)

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