アメフト・品川CC ブルザイズ~地元住民・コミュニティとともに創部31年目からの新たな挑戦が始まった
アメフトXリーグ・品川CCブルザイズ(ブルザイズ)が掲げるのは「10万人の市民チーム」。フットボールの実力を上げ、国内最高峰リーグへの昇格を目指すだけではなく、地域住民や企業とのコミュニティのつながりを重要視している。岸原直人GMがクラブのビジョンと大きな可能性について語ってくれた。
~戸塚からグレーター品川へ
「活動拠点は一言で言えば、品川駅港南口となりますが、そういう単純な区分けではありません。地元を活性化させたいと80年以上前に活動を開始、1953年に発足した『港南振興会』が提唱する『グレーター品川』が、ブルザイズの活動エリアです」
「『グレーター品川』とは、品川駅港南口、天王洲、高輪、芝浦。さらには坂本龍馬も愛した宿場町の面影を残す北品川、東品川。行政区を超え、品川区に加えて港区も含み、古き良き風景と、日進月歩に進化する風景を併せ持つ一大コミュニティです。その一員としてフットボールと地域貢献活動を続けています」
チームは1993年、松下電器産業(株)の関東地区メンバーを中心に「パナソニックブルザイズ東京」として発足、翌年から「ブルザイズ東京」となった。94年に日本社会人アメリカンフットボール協会(当時)へ準加盟、翌95年に4部へ正式加盟を果たす。98年からはXリーグ参入、2019年からX1AREAで戦っている。
「2000年までは横浜市戸塚の松下電器所有地(当時)で活動しました。創部当時、身の丈の雑草で覆われた会社の遊休地だった場所を、『Field of Dreams』プロジェクトと呼び、メンバーたちが毎週末に1つずつ手作りで開墾、半年間かけてグラウンドにした場所です。しかし諸々の事情から使えなくなり、01年から現在地へ活動拠点を移しました」
戸塚のグラウンドはプロジェクト名から「Field of Dreams」とも呼ばれ、チームの原点となっていた場所。残念ながら移転を余儀なくされ練習場確保等が必要だったため、チーム関係者のつてで、学生アメフト部、フラッグフットボール部を指導、育成することを条件に、品川駅港南口にある大学グラウンドに活動拠点を移すこととなった。
「アメフトを通じたご縁が品川駅港南口の大学にあり活動拠点を移しました。当初から品川駅港南口の企業、新旧入り交じった地元住民の方々が催事への参加に、積極的に声をかけてくれました。馴染みやすい環境を作っていただきました」
「地域のために何かできないか、を考えていました。そこで2011年、東日本大震災の年の海の日に『港南チャリティ・スポーツフェスタ』を主催しました。大人から子供まで各種スポーツを楽しめるイベントでした。以降もフェスタを継続開催していますが、大好評で地域の夏の風物詩になりました」
現在のチーム正式名称は「品川CC ブルザイズ」。同エリアでサッカー、3×3 バスケ、チアの活動をしている地域総合スポーツクラブ「株式会社品川カルチャークラブ(品川CC)」のアメフト部門となる。2016年に品川CCと出会い「いつか一緒にやりたい」と話していた中、22年から参加することとなった。
「16年に出会って18年には同フェスタを共催する関係性となりました。20年にブルザイズが現在の運営メンバー体制となったこともあり、しっかりと準備をして品川CCへ参加しました。参加についてはメンバー内では様々な考え方もありましたが、中長期で考えた場合プラスになると判断しました」
~「市民オーナー制度」という発想を生み出したXリーグでの運営基盤問題
1997年からはNFLグリーンベイ・パッカーズを参考に、限定された企業のみに頼るのではない「市民オーナー制度」をチーム運営に採用している。Xリーグ参入にあたって直面した高い壁を乗り越えるための方法だった。
ブルザイズは94年のリーグ準加盟年が全勝、正式加盟した95年には4部で結果を残して入替戦勝利も果たした。翌96年から3部(現X3)へ昇格予定だったが、運営基盤が脆弱とみなされ「メトロポリタンリーグ」という名の別リーグ所属となった。
「当時ブルザイズには大手企業のスポンサーがなかったことで、資金力が脆弱と判断されました。Xリーグ参入が見送られた状況において、代表の大社氏(当時)が発想の転換をしました。企業ではなく市民にチームの株=ブルザイズ会員に入会いただき、資金を得ようと考えたのです」
「国内の景気後退に伴いスポーツ支援を行う企業も減少しました。アメフトでもスポンサーを失い、廃部危機となったチームも多々あります。ブルザイズ同様に市民オーナー制度を採用するチームもあり、今後の方向性としては間違っていなかったと思います」
現在は300人ほどの後援会員、個人オーナー、そして複数企業によってチームは支えられている。また株主という形での実際の資金援助以外にも、様々な形でサポートする個人、法人が増えているという。
「港南エリアを中心に、チームに興味を持ってくれる方々が増えています。例えば塗料業界のリーディングカンパニーである日本ペイント(株)様の協力で、06年からは超高級塗料MAZIORAをヘルメットに使用することができました。これは日本アメフト界での初導入で話題となりました」
MAZIORA塗装とは光の当たり方で青、緑、紫と色合いが変化する超高級塗料として知られている。スポーツの現場で見かけることは稀であったが、日本ペイント(株)の協力で可能となった。
「市民オーナー制度は資金のみを集めるものではありません。名実ともにチームの保有者として誇りを感じて欲しい。地元チームが自分のチームと感じられれば思い入れも大きく変わるはずです。人生の中で、ブルザイズという1つの楽しみが増えて欲しいです」
「全国、世界規模で人気を得られればそれに越したことはありません。でも現実的にハードルは高くて時間もお金もかかります。それならば身の回り、地元を大切にして確固たる関係性を築きたいと思います。品川CCに合流し、グレーター品川のコミュニティの一員としての活動を従来よりも強化して2年ほどですが、少しずつ前進しています」
~グレーター品川コミュニティの一員としての楽しみ、誇り
ブルザイズは創部31年目にあたる2023年を、創部30年を迎えたことで1度「0(ゼロ)」に戻ったと捉え、「0→1の新1年目」という今シーズンを位置づけている。X1AREAで4勝を挙げての上位進出、その先にはX1SUPER昇格と定着を目指す。
「チームは2020年からのチーム改革を経て、今期は目標4勝の実現に向け手応えを感じています。一方で90年代後半に昇格が認められなかったように、現在の財務面状況ではX1SUPERに昇格できません。クラウドファンディング等も効果的に活用して、複数スポンサー企業、個人オーナーの獲得を集中的に図ります。運営資金が増えれば、練習場確保もしっかりできてチーム強化にも直結し、X1SUPER昇格・定着が現実のものになります」
「以前は品川駅港南口の学校施設のグラウンドを利用していましたが、コロナ禍の影響もあり定期使用が難しくなりました。現在は公共グラウンド等を借りていますが、場所はまちまちでジプシー状態です。環境改善を早急に行いたいです」
前進は実感しているが苦労は絶えない。しかしそういった部分を含め、開拓者としての楽しみや誇りを感じることも多いという。
「グレーター品川は開発が進み、毎日のように景色が変わります。住民も新規で移り住んできた方々も多く、自分たちの文化を作り始めている真っ最中。ブルザイズと重なる部分を感じる時が多々あります」
「今、やっていることは周囲から見ると大変に見えるかもしれません。でも1つずつ自分たちで作り上げているので楽しくも感じます。周囲の方々も賛同して協力してくれます。みんなでワイワイやる部分はお祭りに似たような感じです」
「以前から住んでいらっしゃった住民と、移り住んできた住民が未来へ向け、手を携えて文化や歴史を作って行く。港南振興会が提唱する『グレーター品川』のビジョンであり、ブルザイズや品川CCがやっているのもそういうこと。この町は都会的なイメージがありますが、実際は東京の下町。大きな可能性があって盛り上がるはずです」
モデルケースと考えるグリーンベイは人口約10万人の田舎町だが、会場には常に8万人の熱狂的ファンを集める強豪チーム・パッカーズがある(地区優勝17回、全米一4回)。かたやブルザイズは品川区だけで人口約38万人、グレーター品川で考えれば人口50万人規模となりホーム地域としての可能性は十二分だ。
今季スローガンは「OVER」(「Overwhelm」相手に勝つ、「Overcome」自分自身に打ち勝つ、「Over」昨年度の結果を超える)。
ブルザイズは3つの「O」を胸に刻んで31年目シーズンに向かい、眼前の壁を1つずつ超えていく。
グレーター品川からアメフトという競技の楽しさを伝え続ける。そしてスポーツという娯楽の提供と共に、街づくりや地域貢献にも積極的に関わっていく。グレーター品川の明るい未来へ向け共に歩んでいく覚悟だ。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・品川CCブルザイズ、港南振興会)