エフコネベース ―サッカー選手が作る農場で、子供たちの笑顔を生み出す―

 児童養護施設の子供たちの支援活動をするサッカー選手の団体、それが一般社団法人F-connectである。「フットボールで繋げる、フットボールが繋げる」というコンセプトを活動の柱に、児童養護施設への訪問等の活動をしている。

 そのF-connectが、3年前から本格的に運営しているのが、長野県飯綱町にあるエフコネファームである。そして、今年、そのエフコネファームにエフコネベースという宿泊施設を開設し、1年を通じて子供たちが農業を体験することができる場所を作ろうとしている。

 F-connectの活動について、そしてサッカー選手と農業と児童養護施設の子供たちをつなぐ場となるエフコネファームについて、今回は、F-connect代表理事の小池純輝選手(クリアソン新宿)、村松智子選手(日テレ・東京ヴェルディベレーザ) 、西村清花選手(ディオッサ出雲FC)の3人に話を聞いた。

F-connect は 「フットボールで繋げる。フットボールでつながる」が活動のコンセプト。

女子選手や海外組もF-connectで活動中

昨年の今頃にお話を伺ってから、F-connectもエフコネファームの活動もより活発になっているかと思います。現在、何人の方がF-connectで活動されていらっしゃるのでしょうか。

小池純輝選手(以下、敬称略)「現在はJリーグのOBも含めて12人で活動しています。香港やナポリでプレーしている海外組の選手もいますし、松村選手と西村選手を含めて3人の女子選手もいます」

松村選手と西村選手は、いつからF-connectに参加されるようになったのでしょうか。

村松智子選手(以下、敬称略)「私がF-connectに入ったのはちょうどコロナウイルスが蔓延している最中だったんです。そのため、実際に活動するようになったのは昨年からになります。

 今のところ、児童養護施設に訪問することが、私の主なF-connectでの活動になります。同じ施設に繰り返し訪問しているので、最初はなかなかサッカーをしたがらなかった子供が、何度か訪問するうちに一緒にプレーするようになったりしたのを見ると、とても嬉しいですね」

西村清花選手(以下、敬称略)「私も昨年からF-connectで活動するようになりました。やはり、施設への訪問を繰り返しているうちに、僕は野球が好きだからと言っている男の子や、普段はサッカーをしない女の子と一緒にサッカーをできるようなってきたことが、一番楽しいです」

トウモロコシの収穫は、大人も子供も楽しめる一大行事。

子供たちの真剣なまなざしに心を打たれることも

今回はF-connectの活動の中でも、エフコネファームの活動についてお話を伺います。小池選手がエフコネファームを始めようと思った動機は、どのようなものだったのでしょうか。 

小池「農業を通じて、子供たちにとっていろいろな学びや気づきのある場を作りたいと思ったことが、エフコネファームを始めた一番の動機になります。

 もともと、農業への関心はあったんです。その昔、一人暮らしで自炊をしていたころ、台所で人参のヘタの部分を水耕栽培のような形で育ててみたり、ベランダにプランターを置いて小さな野菜を育てたりしていました。

 そして2017年に愛媛FCでプレーしていたころに、2畝(畑の2列)ほど畑をお借りして野菜つくりに挑戦しました。畑をお借りした知人にサポートしていただきながら作っていたのは大根やホウレンソウといった野菜でしたが、自分で作った野菜って、スーパーで売っているものとはまた違った価値があるように思えたんですね。そうした経験から、農業への関心が生まれました。

 また、野菜作りのために畑に通ううちに、地域の方と交流する機会を沢山持つことができたんです。農作業のために畑に行って、そのあと畑をお借りしている知人宅の隣の人とバーベキューをしたこともあります。こうした地域の方との交流も、大人はもちろんですが、子供たちにとってもとても良い学びの機会となるだろうと思いました。

 F-connectの活動を始めてから、エフコネファームのアイデアをいろいろな人に話しているうちに、ご縁があって、長野県の飯綱町でエフコネファームを始められることになりました。もともと私の父が長野県出身で、私自身も子供のころには長野県に頻繁に通っていました。そのため個人的にも親しみのあるこの土地で、エフコネファームを始められたことは、本当によかったと思っています」

エフコネファームは2021年から本格的な活動を始めています。養護施設の子供たちが収穫体験をしているそうですが、そんな活動の中で、印象に残っていることとは、どのようなことでしょうか。

小池「今までは、主にエフコネファームでトウモロコシを栽培していました。そのため子供たちもトウモロコシの収穫を経験することになります。施設の先生方のお話によると、子供たちが施設で食べるトウモロコシは、すでに皮やヒゲがむかれてカットされた状態のことが多いんだそうです。そのため、畑でトウモロコシを見て、トウモロコシには長いヒゲがあるんだと初めて知る子供も少なくありません。そうした子供たちが、とれたてのトウモロコシを生で食べる時の笑顔は、やはりとても心に残ります。

 また、トウモロコシを収穫をしているときの子供たちの真剣なまなざしが印象的で、集中して作業をする姿に心を打たれました」

とれたてのトウモロコシをたべる子供たち。

農業をしているとどうしても天候や気温が気になりますよね。もちろん日頃は、トレーニングや試合に集中されているのだと思います。でも例えば、日照りや高温が続いたり、大雨が降った時などにはエフコネファームの作物が心配になることもあるのではないでしょうか。

小池「最近は夏の暑さが異常だったり、災害になるような雨が降ったりと、天候によって作物の成長に影響がないか心配になりますね」

ちなみに、西村さんと松村さんは農作業の経験はありますか。

西村「私の祖父母が田んぼでお米を作っていましたし、やはり祖父母のうちで家庭菜園もありました。そのため、農作業ではどんなことをするのかというイメージはありますし、少しだけなら農作業の経験もあります」

松村「私は農作業の経験は全くありません。でも、西村さんが詳しそうなので、エフコネファームに行くときには、西村さんから教わりながら農作業をしたいと思います」

子供たちの笑顔を生み出すために、F-connectは活動を続けている。

「ボランティア」から「事業」へ

少々シビアな質問になってしまうかもしれません。最初に、F-connectは福祉施設の訪問など「ボランティア」の活動からスタートしました。そして今はエフコネファームという場所で「事業」という形でも活動されています。「事業」ということになると、どうしても「利益」を出すことも考えて活動することになるかと思います。「ボランティア」から「事業」へと活動を広げるにあたって小池選手が考えたこととは、どのようなことでしたか?

小池「F-connectの活動を始めた当初は、『ボランティア活動なんだから、お金については話さない方がいい』と思っていました。

 でも、活動資金がないとエフコネファームやエフコネベースなど、いろいろな活動を継続的に行えません。活動資金を生み出すところは今後の課題だと感じています」

今回のスポチュ二ティのクラウドファンディングの返礼品の中にも、エフコネファームオリジナルのリンゴジャムとリンゴジュースのセットがあります。そのように、例えばエフコネファームで収穫した野菜等を加工して販売する形でこれから事業として発展させていく方向性なのかなと思いましたが、いかがでしょうか。

小池「実際に農作物を加工して販売するとなると、例えば『どのくらい作物を収穫するのか』、『どちらの業者さんにお願いするのか』、『コストはいくらかかるのか』ということを考えなくてはいけませんよね。加工品を作れると販売のチャネルも増やせると思うので、飯綱町の方々にもご協力いただきながらいろいろな形で活動していきたいと思っています」

今、スポチュ二ティで実施しているクラウドファンディングは、エフコネファーム内に作るエフコネベースの設備や様々な備品をを購入するためと伺っております。詳しく話していただけますか。

小池「エフコネベースという宿泊施設をエフコネファーム近くに作り、年間を通して子供たちが農業体験をできるようにしたいと思っています。敷地内にも畑があるので、今後はそちらも利用していく予定です。

 現状では、施設の子供たちがエフコネファームに団体で来ると、宿泊費が高額になってしまうんです。エフコネベースができれば、もっと気軽に子供たちがエフコネファームに来ることができるようになるかと思います。

 また、エフコネベースで子供たちを受け入れるにあたり、家具や家電などの家財道具や農作業で使用する農機具が必要になりますが、全てを揃えるには高額な費用がかかります。

今回、皆様に活動にご賛同いただき、エフコネベースの環境をより良く整えるためにクラウドファンディングを実施させていただきました。

 エフコネファームを通じて、子供たちを支えたいとお考えの方々がいらっしゃいましたら、ぜひご協力いただければ、とてもうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします」

 F-connectを支えているのは、子供たちが健やかに育つための居場所になりたいという、サッカー選手たちの温かな思いである。そこに農業という産業を介在させることで、その温かな思いを持続的な活動に変えて行こうとしているのではないだろうか。

 子供たちの笑顔を生み出す場となるために、エフコネベースは誕生する。

 (インタビュー・文 對馬由佳理)(写真提供 F-connect/エフコネファーム)

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