帝京大、4連勝で望みを繋ぎ優勝決定戦へ チームを引っ張る4年生
やることはやった。あとは結果を待つだけだ。
新型コロナウイルスの影響で、通常の勝ち点制ではなく2戦総当たり・勝率制で行われた首都大学野球春季リーグ戦。リーグ戦最終日、第1試合で筑波大に勝利し6勝目を挙げた帝京大は、すでに6勝している桜美林大と5勝の東海大が戦う第2試合の結果を待つこととなった。
この試合で東海大が勝てば、6勝4敗 勝率0.600で3チームが同率1位となり、連盟が定めた特別ルールによって、優勝決定トーナメント戦が行われる。しかも、トーナメントは昨秋の順位で組み合わせを決定するため、5位の桜美林大、6位の東海大より上位の3位だった帝京大はシードとなり、俄然有利な状況となるのだ。
結果は、東海大の勝利。帝京大は、ギリギリのところで優勝に望みを繋ぐことができた。2勝4敗と負け越していたところから、怒涛の4連勝で掴んだチャンス。ここまでチームの中心となって戦ってきた4年生4人を取り上げる。
前主将が優勝の望みを託した選手たち
この試合に負ければ、優勝の可能性がゼロになる。そんな最終戦で、帝京大は筑波大の西舘洸希投手(3年・盛岡三)を打ちあぐね、4回まで無安打。2回には筑波大に先制を許してしまった。
5回裏に入っても安打は出ないものの、2四球で1死1,2塁のチャンスを作る。左のバッターボックスに立つのは1番打者・草野里葵外野手(4年・市船橋)だ。3ボール1ストライク。草野の打球は左中間へと飛び、値千金の逆転三塁打となった。
試合後の取材で、草野はこの場面を「来たボールは全部いこうと思っていました。(打った球は)ボール球でやばいとは思ったんですけど、これならヒットいけるなと思っていきました」と笑顔で振り返った。
1年春からリーグ戦に出場し、経験豊富な草野。今春は、チームを引っ張る1番という打順にこだわりを持って打席に立っていた。「オープン戦からずっと調子が良くない」と序盤は苦しみながらも、終わってみれば10試合すべてにスタメン出場、35打数11安打 打率.314の成績を残した。特筆すべきは、三振がたった2つということだ。どちらもフルカウントまで持っていっての空振り三振だった。その理由をこう話す。
「1番が簡単に終わっちゃいけないと思うので。オープン戦から、1ストライク、2ストライクとバッティングを変えていくようにしていました。ファーストストライクはゾーンにきたら全部いったろう、と。振っていくことでファウルも多くなって、自然とタイミングが合って、それで三振が少なくなったのだと思います」
終始ニコニコしながらゆっくり穏やかに話す草野だが、打席に立つと積極的なバッティングで相手に牙を剥く。優勝決定戦でも、試合を決める一打を放つだろうか。
もうひとり、序盤は調子が上がらなかったが、後半結果を残した選手がいる。大友宗捕手(4年・鳥羽)だ。昨秋は指名打者だったが、今季は正捕手として出場している。
1年先輩に後藤将太捕手(現JFE西日本)、2年先輩に塚畝諒捕手(現三菱重工West)と実力派の捕手がいたため、大友にはなかなかマスクを被る機会が巡ってこなかった。「自分の方が良かったら下の学年でも出られたと思うので、出られなかったのは完全に実力不足。後藤さんとか塚畝さんとか、いいキャッチャーの背中を追いながら負けないようにやってきました」と言う大友だが、ふたりにも引けを取らない武器を持っている。投げた球が直線を書くように2塁まで到達する強肩だ。そこにだけ重力がないのかと錯覚するほど、まっすぐグローブに吸い込まれていく。もちろん、それだけで正捕手を務めることはできない。
「ピッチャーが打たれるのは100%キャッチャーが悪いと思ってやっています。相手のバッターをしっかり研究して、ピッチャーをどう生かしてどうゼロに抑えていくかというのがキャッチャーの役目。勝てるキャッチャーというのを大事にしています」
捕手としての役目を全うする一方で、打撃では開幕から無安打が続いていた。4番を任された右のスラッガーは、3試合目には6番となった。それでも、唐澤良一監督が「打順を変えても、結局いいところで大友に回るんですよね」と苦笑いするほど、不思議とチャンスで大友に回って来る。今までの大友だったら本塁打の1本でも打っていたが、まったく快音は聞かれなかった。
オープン戦では初めて逆方向への本塁打も打ち、自信を持ってリーグ戦に臨んだのに、いざ始まると左腰が開いてしまい左足が踏み込めない状況に陥った。外の変化球が見えにくく、簡単に打ち取られていく。代打や指名打者として打撃のことだけを考えれば良かった今までとは違い、捕手と打撃を両立させる難しさを感じていた。
やっとチャンスを活かせたのは、開幕から4試合目の日体大第2戦だった。最後はサヨナラ負けだったが、一時逆転となった適時二塁打が大友の今季初安打となった。それからも日によって波はあったが、延長10回タイブレークの場面で決勝打を放ったりと、本来持っている勝負強さも発揮できるようになっていった。「メジャーリーガーの打ち方を真似して自分に落とし込んでいくというやり方をしていて、今はノーステップが一番自分にはまっていると感じています」と、いろいろ試して工夫を重ねた結果だった。
昨年の主将・後藤将太は、自分の代では成し得なかったリーグ優勝をするために「中心になって頑張るべき選手」として、現主将の宮川将平内野手(4年・成田)に加え、草野と大友の名を挙げていた。2017年春以来の優勝を勝ち取るために、ふたりのさらなる奮起が必要だ。
先発と救援、ふたりの柱
リーグ最終戦。4-2で筑波大に勝ち、優勝への望みを繋いだ。絶対勝たなければならないこの試合、信頼度の高い投手だけを登板させれば、もしかしたらもっと楽に勝てたのかもしれない。それでも、経験の少ない投手も含めた5人がマウンドに上がった。
「こういう緊張感の中で、次の投手を作っていくことがその投手にとってもいいのかなと思います。その辺は、齋藤貴志ピッチングコーチが事前にしっかりとみんなに話をしてくれました。同じ投手ばかり投げても、育ってこないじゃないですか。(先発した)鈴木翔也(3年・横浜隼人)もまだまだの投手ですが、3年生なのでこの経験が秋や来年に繋がると思っています。他の2年1年もそれを見て、刺激を受けてくれたら」
そう、継投の意図を話した唐澤良一監督は「よくやりましたよ選手は。昨日、今日と苦しい戦いでしたけど、こういう経験もいいじゃないですか。これから野球をやっていく中で、次に生きると思うので」と、リーグ戦を戦い抜いた選手たちを労った。
そんな唐澤監督も信頼を置くのが、エースの岡野佑大投手(4年・神戸国際大附)とリリーフエースの粂直輝投手(4年・明秀日立)だ。
岡野の大きな特徴と言えば、躍動感のある投球フォームだ。首都大学野球リーグでは試合のLIVE配信をしているが、そのアーカイブにも岡野の写真が使われているのは、やはり一際映えるからであろう。
そんな岡野も、1年生のときは「もやしみたいでしたよね」と自分でも言うほど、細い体で投げていた。ウエイトトレーニングの成果もあって、当時に比べると体重が10キロ以上増えた。見た目も大きく変化したが、投球にも大きな成長が見られる。1年時は投げてみなければどうなるかわからないという不安定さがあったが、今は調子のいい悪いに関わらず安定感のある投球を見せる。力のある直球で勝負できる投手にもなった。ランナーが溜まっても、ホームを踏ませない粘り強さも持っている。
「1年生、2年生のときは、やっぱり助けてもらった部分が多かった。今は、一番試合数投げてきたのは自分なので、先頭に立ってやろうという気持ちです」と、エースとしての自覚を持って、マウンドに立っている。
この春は、3勝2敗 防御率2.31という成績を残した。今までずっと勝てなかった東海大からも、8回無失点で1勝を挙げ、桜美林大戦では完封もした。昨年、JR東日本で活躍した左腕の齋藤貴志氏がピッチングコーチに就任してから、唐澤監督は試合中の継投なども齋藤コーチに任せている。岡野も齋藤コーチに言われたことを大切にしながら、試合に臨んでいた。
「いつも通り投げろ」。ピンチになっても「齋藤コーチが口酸っぱく言っているので」と、この言葉を思い出し平常心を保つ。
目指すはプロ野球。その前にチームを優勝させ、名実ともにエースとなりたいところだ。
後ろを守るのは、サイドハンドの粂だ。ピンチの場面で登板となっても「いつでも行く準備はできているので、動じずに投げられたと思います。とにかく1点も与えないという気持ちでマウンドに立ちました」と、落ち着いた投球を見せる。
高校2年の新チームとなったときに、アンダースローからサイドスローに転向したという珍しい投手だ。金沢成奉監督に言われ、オーバースロー、サイドスロー、アンダースローで1球ずつ投げてみたところ、サイドスローが一番良かったからだという。
インステップで投げるため、右打者は球が背中から入ってくるようで見えづらいと感じるだろう。ランナーを出すとけん制を多く投げるのも特徴のひとつで「けん制は得意です。刺したら大きいですし、流れも来ますので」と言う。何よりも、どんなに投げても疲れを見せないタフさが「何かあっても粂が控えているから大丈夫」という安心感を与える。
今季は桜美林大、東海大と戦う優勝決定トーナメント戦に進むことができたが、シード権を獲得できたのは昨秋の順位が3チームで1番良かったためだ。「全部、先輩たちが去年頑張ってくれたおかげ。先輩たちの分まで優勝するぞ、という気持ちで投げます」と気合いを入れる。
宮川主将、そして今回取り上げた4人を中心に、優勝決定戦に臨む帝京大。新チームになってから「日本一になろう」と、全員の気持ちをひとつにして練習に取り組んできた。日本一になるための通過点で立ち止まるわけにはいかない。
決戦は5月30日(日)だ。