春季キャンプは、野球のテーマパークだ!
プロ野球チームは、全国の大都市をフランチャイズにしている。
北から北海道札幌市=北海道日本ハムファイターズ、宮城県仙台市=東北楽天ゴールデンイーグルス、東京都=讀賣ジャイアンツ、東京ヤクルトスワローズ、千葉県千葉市=千葉ロッテマリーンズ、埼玉県所沢市=埼玉西武ライオンズ 神奈川県横浜市=横浜DeNAベイスターズ、愛知県名古屋市=中日ドラゴンズ、大阪府大阪市=オリックス・バファローズ、兵庫県西宮市=阪神タイガース、広島県広島市=広島東洋カープ、福岡県福岡市=福岡ソフトバンクホークス。
NPBの12球団は、大都市かその近郊都市をフランチャイズにしている。観客の大部分は、周辺からやってくる。
そういう意味では、NPBは「都会人の楽しみ」のように思えるが、そうではないのだ。
各球団は毎年、秋季、春季のキャンプを行う。キャンプ地と球団は深くつながっているのだ。
NPB各球団と国内キャンプ地とのつながりを見てみよう。
北海道日本ハムファイターズ 沖縄県名護市 沖縄県国頭村(二軍)
東北楽天ゴールデンイーグルス 沖縄県久米島町 沖縄県金武町(練習場)
讀賣ジャイアンツ 宮崎県宮崎市 沖縄県那覇市
東京ヤクルトスワローズ 沖縄県浦添市 宮崎県西都市
千葉ロッテマリーンズ 沖縄県石垣市
埼玉西武ライオンズ 宮崎県日南市 高知県春野町(二軍)
横浜DeNAベイスターズ 沖縄県宜野湾市 沖縄県嘉手納町(二軍)
中日ドラゴンズ 沖縄県北谷町 沖縄県読谷村(二軍)
オリックス・バファローズ 宮崎県宮崎市
阪神タイガース 沖縄県宜野座村 高知県安芸市
広島東洋カープ 宮崎県日南市
福岡ソフトバンクホークス 宮崎県宮崎市
各球団は、沖縄県、宮崎県、高知県で春季キャンプを張っている。温暖な気候、メインスタジアム、室内練習場、サブグラウンド、ブルペンが整備された環境を条件として、キャンプ地が選ばれているのだ。
石垣市 千葉ロッテキャンプ
そもそも春季キャンプとは何か?
日本のプロ野球の憲法ともいうべき「野球協約」には、プロ野球選手の契約は毎年2月1日に始まり11月30日に終わると書かれている。
12月1日から翌年の1月31日まで、球団は選手に試合や練習をさせることができない。選手はこの期間、ユニフォームに袖を通すことができない(国際試合などの例外はあるが)。1月中に選手はシーズンの準備を始めるが、そのときにはユニフォームは着ない。トレーニングウェアだ。1月中はあくまで「自主トレ」なのだ。
つまり野球選手にとって12月、1月はオフであり、2月1日に新しいシーズンが始まるのだ。
球団はこの間にドラフトやトレードなどで新しい選手を獲得する。支配下選手の定員は70人と決まっているから選手を新たに獲得すると、その分、既存の選手を戦力外にしたり、支配下外=育成枠にしたりして、選手の入れ替えをする。
年俸の契約更改もこの期間に行う。選手の評価もこのときに定まるのだ。
各球団は、1月末までに補強を行って、2月1日、新しいチームの陣容を整えてキャンプに臨む。
キャンプは新チームの顔合わせであり、ここから練習や練習試合などを通して、新年度のチームを練り上げていくのだ。
プロ野球では2月1日を「元旦」に例えることがあるが、それは文字通り「新たなシーズンのスタート」だからだ。
だから春季キャンプは、単なる合宿ではなく、チーム作りのための非常に重要な場になる。
それだけに、各球団は春季キャンプには力を入れる。受け入れ先の地元にも協力を要請する。
受け入れ先の自治体にとって、数十人もの選手が10日~3週間も宿泊するのは、大きな経済効果になる。キャンプには多くのマスコミが駆けつける。彼らもお金を落とす。さらに最近はキャンプツアーなども組まれて、全国からファンがやってくる。
連日、マスコミは「キャンプだより」を発信するから知名度はぐっとアップする。
キャンプ地となった自治体、そして住民は、プロ球団を「おらがチーム」として全力で応援するのだ。
NPBの各球団にとってもキャンプ地は「第2のフランチャイズ」になっている。
西武ライオンズキャンプ地 宮崎県南郷町のJR南郷駅 歓迎風景
街中には歓迎のフラッグやバナーが林立する。市役所の職員や交通機関の職員、商店街の人々は期間中、ユニフォームを着て応援する。
多くの自治体では、地元企業が集まって球団の協力会ができている。
キャンプ地では、地元有志によるボランティアがファンを誘導したり、清掃などの仕事を買って出る。
球団側もキャンプ地にはいろいろな還元をする。讀賣ジャイアンツは宮崎市に巨大な室内練習場を寄付したが、キャンプ地の整備を球団側が行うことも多いのだ。
経済効果で見ても、イメージアップでも、盛り上がりの大きさでも、春季キャンプは、レギュラーシーズンにならぶ大きな事業なのだ。
広島東洋カープ 一次キャンプ地 日南市油津 無数のこいのぼりが泳ぐ
野球ファンなら春季キャンプは必見
では、野球ファンにとって春季キャンプの魅力は何だろうか?いくつか挙げられる。
一つは、選手をごく近距離でみることができること。普段はスタンドからスタジアムの選手を眺めるだけだが、キャンプでは選手ははるかに近くにいる。サブグウランドでは、ほんの数メートル先で汗を流す選手を見ることができる。グラウンドからブルペンに移動する際などには、選手に声をかけることができる。
運が良ければサインをもらうこともできる(マナーを守る必要があるが)。
二つ目には、プロのアスリートのトレーニングを目の当たりにすることができること。ランニング、柔軟体操、打撃や守備の練習、ブルペンでの投球など、トップクラスの野球選手はどんな練習をしているのかをつぶさにみることができる。これらはレギュラーシーズンでは絶対に見られない。
三つ目に、有名人に会えること。プロ野球OBの解説者やタレントが多くやってくるのは当然だが、最近は「カープ大好き芸人」などのタレントも頻繁にやってくるようになった。テレビ局もスポーツ関係だけでなく、バラエティ系のクルーもやってくる。
キャンプも中盤になって主力選手が本格始動すると、キャンプ地は急に華やかになるのだ。
四つ目は、温暖なキャンプ地ならではの、開放感にひたることができること。南国宮崎、沖縄は、2月と言えども温暖だ。キャンプ地の多くはリゾート地でもあるのだ。
真剣に体を動かしている選手には申し訳ないが、キャンプ地にはゆったりした空気が流れている。そんな空気を楽しむのもキャンプの魅力だ。
キャンプ地には多くの出店が並んでいる。多くはB級グルメだが、そうした食べ物を味わうのもキャンプの味の内だ。
簡単に言えば、野球のテーマパークが出現するようなものだ。
ソフトバンクキャンプ地 宮崎名物肉巻きおにぎり
長くキャンプが開かれている土地では、住民もキャンプの楽しみをよく心得ている。
夫婦で球場に来て、ひなたぼっこがてら練習を見物していたり、出店でランチを食べたりしている人もいる。犬の散歩をしている人も見かける。
キャンプ地には、地元の幼稚園児も先生に引率されてやってくる。ボールの行方を気にしつつ、先生は子供たちに選手が躍動する姿を見せている。何か幸せな気分になる。
日本ハム 名護キャンプを訪れた幼稚園児たち
沖縄県宜野湾市のDeNAのキャンプでは、ランチタイムにアレックス・ラミレス監督がメイン球場のスタンドをまわって、園児たちと記念撮影に収まったりもする。
なんとも平和な光景だ。
申し遅れたが、プロ野球のキャンプは原則として「入場無料」だ。有料の紅白戦や練習試合が組まれることはあるが、通常の練習はすべて無料だ。
その分、選手の練習の邪魔にならないように気を配る必要はあるが、キャンプ見物にはお金がかからないのだ。
プロ野球が大好きなら、そしてあなたの子供を野球好きにしたいのなら、プロ野球キャンプに行くことをお勧めする。
阪神タイガース 宜野座キャンプ