ワクワクと笑顔を世界で戦うパワーに変えて 澤村玲奈・アルペンスキー

若いスポーツ選手にとって、海外に住むことも含めた様々な環境の変化への対応能力を持つことは、より高いレベルのライバルたちと戦うための必要条件であると言えるだろう。


アルペンスキーの澤村玲奈選手は、今年から全日本ナショナルチームの一員として、世界へ挑戦する。年間150日もの海外遠征が予定されており、世界のトップレベルで戦うための第1歩目を踏み出そうとしている。

17歳の澤村選手は、世界への挑戦を目前にして、何を考えているのだろうか。新しい一歩を踏み出す澤村選手に、「これまで」と「これから」を聞いた。

明るい笑顔が印象的な澤村選手

ウエイトリフティングと陸上、中学はバトミントン

澤村選手はアルペンスキー選手であると同時に、現役の高校生でもあります。今の時期の澤村選手の1日のスケジュールは、どのような感じなのですか。

澤村玲奈選手(以下、敬称略)「今はアルペンスキーのシーズンオフなので、6時に起きて、7時から陸上部の朝練に行って、5㎞くらい走ってから8時半までトレーニング。その後9時から15時40分くらいまで学校で授業を受けた後に、16時から19時までトレーニングをして、20時くらいに帰宅する、という毎日です。」

今、澤村選手が通っている高校にはスキー部がなく、夏のトレーニングのために陸上部とウェイトリフティング部に入っていると伺いました。また、今まで様々なスポーツをトレーニングの一環として取り入れていたこともあるそうですね。

澤村「はい。高校では陸上部とウエイトリフティング部に入って、スキーがオフの期間にトレーニングしています。また、中学の3年間はバトミントンのクラブチームに入っていました。」

素人目に見ると、ウエイトリフティングと陸上がアルペンスキーに役立つであろうと想像はできるのですが、バトミントンはどのような形で澤村さんのスキーに役立っていたのでしょうか。

澤村「アルペンスキーは全身の筋肉を使う競技なので、どこか特定の筋肉だけを鍛えることが正解というものではないと、私は考えています。だから、逆に言うと、全身どこでも鍛えなくてはならないのだと思います。

 例えば、バトミントンで必要な持久力や瞬発力は、アルペンスキーでもスタートからゴールまで素早く連続したターンを繰り返すために欠かせない要素です。また、当時私が所属していたバトミントンのクラブでは非常に厳しい体力トレーニングが行われており、そこで鍛えた基礎体力がスキーにも大いに役立ちました。

澤村さんが好きなアルペンスキーの選手は誰ですか。

澤村「アメリカのミカエラ・シフリン選手です。ワールドカップで100勝以上している選手で、滑りがかっこよくて速いんです。私もシフリン選手のように、速くて強くてかっこよく滑る選手になりたいので、私の理想なんです。いつかシフリン選手と一緒に表彰台に上がることができたら、とてもうれしいです。」

2022-23シーズンには、フランス バルディゼール国際大会U16 のスラローム(回転)で2位 になった実績のある澤村選手

課題はパワーアップと氷のバーンへの対応

来年はミラノで冬季オリンピックがありますね。来年、オリンピックに出ることは、現在の澤村さんの計画の中にありますか。

澤村「もし、来年のミラノオリンピックに出ることができれば、もちろんうれしいです。でも、自分の現状を見ると、その次の2030年以降のオリンピック出場を目指すのが現実的だと思います。 

 オリンピックで戦うためには、レースで勝ってFISポイントというものを更新していく必要があります。そのFISポイントをとるためには、アジア最高峰のファーイースト・カップからヨーロッパカップ、ワールドカップという順にレースのレベルを上げていかなくてはなりません。そして、オリンピックに出られるのは、ワールドカップレベルのレースに出ている選手だけなんです。

 私は、昨年FISのカテゴリーに入って、やっと世界レベルのレースのスタートラインに立ったばかりなので、ファーイースト・カップやヨーロッパのレースで経験と実績を積むことがまず必要です。このように考えると、やはり2030年以降のオリンピック出場が目標となります。」

では、2030年のオリンピックに出場するために、澤村さんが挑戦しなくてはならない課題とは、どのようなことですか。

澤村「課題は主に2つあります。一つは、自分は圧倒的にパワーが足りないので、筋力アップする必要があること、もう一つは氷のバーン(コース)に対応することです。

 アルペンスキーでは、スキーをたわませて加速しますが、そのためには足腰はもちろん全身の筋力や瞬発力が必要になります。スキーに圧を加えるパワーが大きくなり、よりスキーのたわみを引き出すことができれば、ターンスピードも上げることが可能になります。また、筋力アップすることで、ポールに当たり負けしないフィジカルの強さを得ることも必要です。

 アルペン競技は、回転・大回転・スーパー大回転・滑降の4つの競技があり、回転が最もゲート間が狭く、大回転・スーパー大回転・滑降の順にゲート間の距離が長くなります。そして、ゲート間の距離が長くなるほど、滑走スピードも上がります。ゲート間の最短コースを狙うことで、体にポールが当たることもよくあります。ハイスピードでポールに当たれば、体に衝撃を感じることもあり、レース後に腕や脚にあざができていることに気づくことも珍しくありません。そうした衝撃を受けてもバランスを保って滑走し続けることができるフィジカルを得るためにも、筋力をアップすることが、私の課題です。

 また、FISカテゴリーの国際大会では、多くの選手が同じコースを滑るため、コースに水を撒いて氷のように固くし、荒れにくくする工夫がされています。そのため、レースはスケートリンクような硬い氷のバーンで行われることが多くなります。私自身は、そういったバーンでの滑走経験が多い方ではないので、今シーズンからは、氷のように硬い条件下でも、いつも通りの自分の滑りができるように、より、そのような環境でのトレーニングを積んでいく必要があると感じています。」

FISカテゴリーに上がって、2年目のシーズンを迎えます。ナショナルチームのメンバーにもなった今、澤村さんは、どんな気持ちでシーズン前の時間を過ごしていますか。

澤村「待ち遠しくて、すごくワクワクしています。早くシーズンインして、レベルの高い場所で滑ってみたいです。」

外国人の選手とも仲良し、フランス国際大会にて

地元への思い〜長野から世界へ

澤村さんは、長野県松本市出身で、今も松本にお住まいと伺いました。もしインタビュー等で、海外の人が「あなたのふるさとは、どんなところですか」と質問したら、澤村さんはどのように応えますか。

澤村「松本城という日本の伝統的なお城がある町、昔ながらの文化財も山もたくさんある、おそばの美味しい町、と紹介すると思います。」

雪がたくさん降る町だよ、とは伝えますか?

澤村「実は松本市は長野の中では雪があまり降らないところなんです。だから、私もスキーの練習時には、白馬まで2時間近く両親に車を運転してもらって通っています。 

 長野県内の白馬や菅平、野沢温泉など山麓地域に住む選手たちは、近くにスキー場があり、毎日のようにスキーができます。でも、松本にはそのような環境は身近にありません。実際、小・中学校時代に、アルペンスキーをしている人は、私の周りには誰もいませんでした。

 それでも私は、小学生の頃から、冬の間スキーができる週末が待ち遠しくてたまりませんでした。スキーができること自体が特別で、毎日当たり前のように滑れる環境ではなかったからこそ、スキーをすることが何より楽しかったんです。同時に、限られた練習時間の中でどうすればレースで勝てるかを常に考えるようになりました。

 小学生の高学年頃から、雪上以外でできる体力強化や身体操作能力を上げるトレーニングに力を入れるようになりました。幸い、松本には大きな公園や里山が多く、陸上トレーニングを行うにはとても恵まれた環境です。その中で自分ができるトレーニング方法を考え実行してきたことで、その成果が中学時代から少しずづレースの結果として表れるようになりました。

 雪のあまり降らない地域からでも、アルペンスキーで世界と戦える選手になれることを、自分自身の姿を通して証明したい。そして、生まれ育った地元・長野県や松本市に、結果で恩返しができればと思っています。」

ヨーロッパ遠征中にやってみたいことは、何かありますか。

澤村「ヨーロッパには日本にはあまりないような長くて斜面変化に富んだ難しいコースが多くあります。まずは、そのような世界基準の色々なコースをたくさん滑ってみたいです。また、今までヨーロッパで行ったことがあるのが、フランスとオーストリアの2か国だけなので、チャンスがあればスイスやイタリアにも行ってみたいです。そして、以前北欧に遠征に行った選手が、オーロラを見て感動したと言っていたので、私も北欧でオーロラを見てみたいです。」

ナショナルチームのメンバーとしてヨーロッパ遠征に行く、ということは、近い将来日本代表として大会に出場する可能性も高いのではないかと思います。日本代表として日の丸を背負う可能性があるという今の状況で、どんなことを感じていますか。

澤村「私が日本代表として出場するチャンスがある一番近い大会は、来年開催される世界ジュニア選手権という21歳以下の選手が出場する大会になると思います。初めての挑戦になりますが、まずは、このレースの出場権を獲得し、大会では入賞目指して頑張りたいです。

 JAPANと書かれたワンピースやウエアを着ることにずっと憧れを持っていましたし、すごくワクワクしています。ナショナルチームの一員として、代表の名に恥じない結果と行動をしようと思っています。」

最後の質問です。将来スキー選手として、どのような選手になりたいですか。

澤村「最終目標は、ワールドカップとオリンピックで優勝することです。また、美しくて強くて速いアルペンスキーの選手になって、子供たちに『あんなスキー選手になりたい』と思ってもらえるようになることが、もう一つの目標です。」

美しく、強く、速いアルペンスキー選手を目指して

終始笑顔でインタビューに応えていた澤村選手は、「ワクワクする」という表現を何度か使っていた。新しい環境に足を踏み入れることに対し、恐れや不安よりも「ワクワク」を感じることができるというのは、今まで自分が積み重ねてきたことに対する絶対的な信頼、そしてアルペンスキーへの熱い情熱があるからだろう。それは、自らの成長を楽しむことができる、心の余裕のようにも感じられた。

ワクワクと笑顔を携えた澤村選手の世界への挑戦は、今始まったばかりである。

(写真提供 澤村玲奈 )
(インタビュー・文 對馬由佳理)

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