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元オリックス大西宏明が率いる堺シュライクスが一人勝ちする理由とは

堺シュライクス(以下堺)が「さわかみ関西独立リーグ(以下関西リーグ)」3連覇を成し遂げた。

2019年から同リーグへ加盟した最も若いチームが、飛び抜けて強い理由はどこにあるのか?

かつてオリックス等で活躍した大西宏明監督、同球団代表・畑康裕氏がチームの現状等を語ってくれた。

リーグ加入4年目の若いチームだが、実力者が集まる強豪チーム。

関西リーグは兵庫ブレイバーズ、和歌山ファイティングバーズ、06BULLS(ゼロロクブルズ)に堺シュライクス(以下堺)を加えた4球団で構成されている。堺はリーグ参加4年目の今季も安定した強さを発揮、8月23日に他球団の結果を受けて3連覇を決めた。

取材に訪れたのは9月初旬、リーグ優勝も決まり形的にはリーグの消化試合。翌日には福岡・筑後でソフトバンク三軍との交流戦が組まれており、移動等も考慮された平日13時開始のデーゲームだった。モチベーション維持が難しい状況にも見えたが9回サヨナラ勝ち、改めて強さを見せつけた。

シーズン終盤でも消化試合など存在せず、モチベーション高く試合に挑む。

~堺市の市章を背負いチームとして成熟を目指す

「今季からユニフォームに堺市の市章が入った。堺市から認められ始めたわけですから、球団にとって大きな前進」

畑代表は、真っ先にユニフォームの説明をしてくれた。

堺は2018年に「株式会社つくろう堺市民球団」として出来上がった。プロ球団として地域との結びつきを重視している。行政側もチームへの理解を深めた結果が市章の掲示であり、ここからが本当の始まりとも言えるかもしれない。

「リーグ3連覇はもちろん嬉しいです。選手たちが必死にやってくれたことが結果に出た。しかし一喜一憂するわけにはいきません。リーグの最大目標はNPB選手を輩出すること。そして球団としては成熟して知名度を高め、ファンを増やすこと。堺市と共に更なる前進をしていきたいです」

リーグ参入4年目のチームにとってNPB選手の輩出は、当面の大きな目標だ。そのためには選手のプレー環境を常に改善することも大切。魅力溢れる球団作りを進めファンを増やすことで、安定した収入源の確保が図れ、選手への還元もできる。

「現在、選手の固定給はゼロ、全てがインセンティブ契約です。結果を残せば収入が上がる形態。そのために様々な形でスポンサーを増やしています。また試合動画などの情報発信にも積極的に取り組んでいます。多くの人に興味を持っていただき、ファンを増やすことが重要です」

「四国アイランドリーグやルートインBCリーグからでないと NPBは難しい、という風潮があります。『関西リーグで最も強い堺ならNPB行きの可能性が高い』となりたい。選手から選んでもらえる球団になれば良い選手も集まる。観客動員にもつながり良い循環が生まれます」

球団代表・畑康裕氏はチームの未来に手応えを感じている。

~リーグ内に堺のライバルチームはいない

「勝ち続けるのはできます。なぜなら他チームの強化が進んでいない状況だからです。全体がレベルアップしないとリーグの意味がない、とは常に考えています」

大西監督の口からは衝撃的な発言が出た。聞き手が戸惑っているのを気にしたのか、発言の真意をわかりやすく語ってくれた。関西リーグ全体のことを考えたビジョンを持っている。

「リーグ内で実力差は開いていますが、優勝決定時のゲーム差は別問題。優勝だけにこだわったシーズンの進め方はしていません。レギュラー陣で望む試合もあれば、普段出ていない選手を出す試合もある。相手チームもわかるくらい、あからさまに分けています」

「リーグ内に堺のライバルチームはいない」と明言する。チーム内で試合ごとにテーマを設定して選手起用を変更するため、チーム力ほどにゲーム差が開かないのも当然だという。今季も優勝決定は8月末と早い段階だったが、2位との差は数ゲームほどだった(最終的には10ゲーム差以上ついた)。

「『勝利にこだわる日』『どんな試合をしても良いから若い選手を使う日』と分けました。ファンあってのプロ野球ですが選手が一番大事。頑張っている選手を試合に出した方が成長も早い。これは僕のやり方として貫いていきたい部分です」

「毎試合ベストな戦いをして勝利を目指すべきかもしれません。でも、今はそれをしなくても良いと思う。個々のレベルを上げることで、チーム力をさらに上げることにつなげることが大事。堺がダントツに強くなった上で、他のチームも引っ張られて強くなって欲しい」

豊富な実績を誇る大西宏明監督がチームの指揮を執る。

~松坂世代として野球界の厳しさを知り尽くす

大西監督は俗にいう「松坂(大輔)世代」。PL学園時代の1998年夏の甲子園では松坂の横浜高と延長17回の死闘を繰り広げた。近畿大では1学年下の糸井嘉男(阪神)と共に試合に出続けた。2002年ドラフト7位で大阪近鉄へ入団、オリックス、横浜、ソフトバンクでプロ生活を送った。

2011年限りで現役引退後は、06BULLSの理事として関西リーグ(現在とは別母体)とも関わった。そして2018年の堺球団創設時から監督を務める。NPBはもちろん、他の独立リーグとの違いを痛感、レベルアップに向けて注力している。同時に選手に対しては「プロを諦めさせるのも仕事の1つ」だと思っている。

「最初はひどい状態、プロになるための覚悟が全くない選手もいました。プロ野球選手になりたい、と口に出しておけばかっこイイと思っているような感じだった。自らの現状がわかっていない。NPB選手を出すのが目標ですが、現実を理解させ諦めさせるのも大事なテーマです」

「本気の選手には厳しく指導しますが、口だけの選手にはあまり言いません。そこの熱量は区別している。でも堺は4年が経ち、着実に成長して良くなっています。選手にも恵まれており、現場も少しずつやりやすくなっています。チームの空気感が本当に良いです。勝てる理由もわかります」

本気で上を目指す選手には厳しく指導することもある。

~身体の大きさは大事な才能

現場の意識改革を進めるとともに素材の確保にも積極的に動く。独立球団という決して大規模ではない組織のため、大西監督はチーム編成に関する責任も担う。昨オフにはルートインBCリーグ・茨城アストロプラネッツ、九州アジアリーグ・火の国サラマンダーズとの合同トライアウトも実施した。

「NPB選手を輩出するのは簡単ではない。ダイヤモンドの原石を発掘することが大事です。関西リーグのトライアウトだけでは限界があります。魅力を感じるのは足が速い、肩が強いなど、飛び抜けたものがある選手。また身体の大きさも才能の1つです」

「人間性も重視します。人間性によっては入団後1年程度でリリースする選手もいます。例えば、野球センスが素晴らしくても練習しない選手。『どこかで変わらないと、このままではクビやぞ』とタイミングを見極めて伝えるようにしています。それでも変わらない選手はいてもらわなくても良い」

育成と強化を両立させ、着実に前進を続ける。

~大学へ行くなら関西リーグで勝負しようと、なりたい

「既存球団を参考にできたのも大きかった。練習環境、生活面など含め、他の独立リーグにヒケを取らないようにしたい。言葉が適切かわからないですが、買い手市場を目指す。球団側が選手を選択できるようになりたい。そのために魅力あるチーム、リーグにしないといけません」(畑代表)

「高卒で大学行って4年間野球をやるなら、『独立で1-2年勝負せんか?』と言えるくらいにしたい。四国アイランド、ルートインBCはNPB選手を出しており、環境も良いのでそれが言える。関西リーグもそうなりたい。堺だけではダメで、リーグ全体のレベルアップを真剣に考えて行動に移していきたいです」(大西監督)

昨年まで四国アイランド、ルートインBCは、各リーグ50名超の選手をNPBへ送り出している。一方の関西リーグは、現在と別母体の前リーグから2人。NPBを目指すような好素材が集まりにくく、悪循環になりつつある。堺のみでなく、リーグ全体としてレベルアップすることが重要ということは共通認識だ。

「今の時代、選手は色々な情報を集めている。最近は他のリーグを辞めた選手が『関西リーグなら堺で続けたい』となり始めている。それがリーグ全体に広がって欲しい。NPBに指名されるのはもちろん、一軍で活躍する選手を出していきたいです」(大西監督)

堺で育った大西監督、チームへの愛情は強い。

「元々、野球が盛んな土地柄。NPB選手養成球団になれる可能性は十二分」と大西監督は笑顔を見せる。

堺で育ち、野球界を渡り歩いてきた男の夢。その原動力は、地元への強い思いではないだろうか。

堺シュライクスには明るい未来が感じられる。堺から広まった熱によって関西リーグ全体の底上げがされ、NPB一軍で普通に活躍する選手が続出する日を待ちたい。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・堺シュライクス)

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