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4シーズンぶりに1部復帰の帝京大、「一戦必勝」で臨むリーグ戦で4連勝

 4月6日(土)に開幕した首都大学野球1部春季リーグ戦は、ここまで2カードを消化した。現在トップにいるのは、ともに4連勝で勝ち点2を獲得した東海大と帝京大だ。

 昨秋までは2部、この春、4季ぶりに1部へ戻ってきた帝京大は、昨秋優勝の日体大に2連勝、2位の筑波大に2連勝と好スタートを切った。

 唐澤良一監督と4人の選手に話を伺い、その理由を探った。

トーナメント戦の気持ちで臨むリーグ戦

 昨秋、2部で全勝優勝を果たし、明治学院大との入替戦も制して1部に復帰した帝京大。そんな帝京大が、乗りに乗っている。

 開幕戦は、リーグ3連覇の日体大と戦い、3-2で勝利。唐澤良一監督は、試合後の取材で選手の労をねぎらっていたが、その表情が緩むことはなかった。

「開幕戦に向けてずっとやってきているので、ここが一番エネルギーを出せる。だから、優勝した日体大が開幕戦で良かったと思います。我々は1部の最下位。下から上がる方が、いい意味でプレッシャーがないと思いますし、選手にはのびのびやれと。ただ、守りに入るなとはずっと言っていました。僕は(相手に先制され)追いかける方が楽だと思っていますが、今日は先にうちが点を取れた。それを守ろうとすると流れが悪くなるので、勝っていてもとにかく攻めろと。キャンプやオープン戦でやってきたことを選手がしっかり出してくれた。本当に頑張ってくれたと思います」

 翌日も日体大に勝利し、2週目には筑波大にも2連勝。昨秋のトップ2に完全勝利で、勝ち点2を獲得した。それでも唐澤監督は相好を崩さなかった。

「エラーが出たりもしているので、少し状況が変われば結果はわからなかった。たまたまです。ただ、失敗しても野球は流れていくから切り替えて、とにかく守る、守れなければ打つ、打てなかったらバントを決める、そういうことを徹底するように話しています。一年半2部にいたので、勝ち点という意識がなくなっています。2部が9回戦うトーナメントならば、1部は10回戦うトーナメントだと思って、とにかく一戦一戦勝っていくだけです」

 2部が「10チーム1試合総当たり・勝率制」であるのに対し、1部は「6チーム総当たり・2勝先取勝ち点制」だ。2部で優勝を確実なものにしたければ、全勝を目指すしかない。厳しい2部での戦いを唐澤監督は「9回勝ったら優勝のトーナメント戦」と表現した。1部では、同じ相手に2勝すれば勝ち点1がもらえるため、仮に5チームそれぞれに2勝1敗だったとしても勝ち点5となり優勝することができる。

 そんな1部でも「負けたら終わり」の精神で試合に臨んでいるのは、唐澤監督だけではなく、他の取材した選手たちも同じだった。その意識が、強い集中力を生んでいるのだろう。

勝ってもなお気を抜かず、貪欲に

 指揮官は、主将の今﨑圭秦(けいしん)内野手(4年・智辯学園)を「一番練習する選手」と言い、信頼を置く。さらに今﨑は打線のキーパーソンでもあり、筑波大1回戦では1回裏に先制のグランドスラムを放った。

プレーで、言葉で、チームを引っ張る今﨑主将

「僕は、6番・7番という打順が、すごく重要だと思っているんですよね。2部でやっていたときもそうでしたけど、6番は一番ランナーが溜まりやすく点が入りやすい打順だと思っています。今﨑に関しては、仕留める力や集中力もあり、チームで一番勝負強い選手。ホームランを打つので4番でもいいのかもしれないですけど、本当にチームのためにと考えるのであれば、6番がいいと思ってそこに置いています」

 そんな唐澤監督の期待に応え、プレーでチームを引っ張る今﨑だが、もちろん主将として選手たちの精神的な支柱にもなっている。

「キャプテンが気持ちの浮き沈みを出してしまうと、チームにいい影響を与えないと思うので、たとえ自分の状態が悪くても沈まないようにというのを意識しています。連勝しているのでチームの雰囲気はすごくいいですが、浮かれてしまわないように、そこは自分がみんなに声掛けしていきたいと思っています」

 そう主将としての心得を語っていた今﨑の言葉と唐澤監督の言葉は共通している部分も多く、きちんと意識の共有ができていると感じられた。それも、チーム状況が良い理由のひとつだろう。

 今﨑の話によると、帝京大ナインは試合をやるうえで、全員が自分中心にならないように心がけ「全力疾走」「カバーリング」「指示の声」を徹底しているという。試合中は状況を見て指揮官から狙い球などの指示があるので、それも全員で徹底する。どのチームも心がけている基本的なことかもしれないが、全員が高い志を持って徹底しなければ、結果はついてこない。

 高い志と言えば、筑波大2回戦で5打数4安打1四球3打点と大暴れした彦坂藍斗(あおと)外野手(3年・享栄)が、その結果に満足していないことに驚いた。左打者である彦坂がこの日打ったのは、ライト線の二塁打1本とセンター方向への単打が3本。自分の目指している「逆方向への強い打球」を徹底できなかったことが、満足できなかった理由だと言う。

彦坂は連日のタイムリーヒットでチームを勝利に導く

「監督にもずっと言われてきているので、逆方向のイメージを強くできるように練習してきました。インコースはレフト前のポテンヒットでもいいので引っ張らない、逆にアウトコースはしっかりインパクトを強くできるように意識しています。今はちょっと引っ張り傾向にあるので、そこをどうにか修正しないといけないと思います」

 この試合では、盗塁も決めた彦坂だったが「盗塁はもともとそんなにできる方ではなかった」そうだ。そこで、走塁や守備に必要な瞬発力を高めるトレーニングを始めた。「ベルトの部分が湾曲しているランニングマシーンを使って、1週間に1回、本当に一瞬ですが全力で2本ダッシュします。フォームが良くなって、スピードが上がりました」。

 現時点でリーグトップの打率.500を記録している彦坂が、今後、走攻守でどんな活躍を見せるかにも注目だ。

レベルアップして1部に帰ってきた投手たち

 先発はエースの榮龍騰(りゅうと)投手(4年・津田学園)と榮に肩を並べる松尾英聖(ひでと)投手(4年・和歌山商)、リリーフは久野陽真(はるま)投手(3年・岡山学芸館)や菅原天斗(たかと)投手(4年・仙台育英)などを中心に、安定した成績を残している投手陣。

エース・榮は個人タイトル獲得よりもチームを勝たせる投球をしたい

 榮は、ここまで投げた2試合とも立ち上がりが見事だった。この春から1部で戦うために、冬の間「トレーニングで体重を3キロ増やし、全体的な球速アップを心がけてきた」と言う。その甲斐あって、球の力、変化球のキレが増した。変化球は、スライダー、カットボール、ツーシーム、フォーク、カーブが投げられ、すべてに自信があるそうだ。

 日体大との開幕戦では7回まで投げたが「前半はスライダーが良かったのと、日体大が早打ちしてくれていたというのもありますが、1巡目はほとんどまっすぐとスライダーだけで、2巡目からカットボールとツーシームも使って、3巡目の最後に何球かフォークを使って、それでいい感じにいけました」と、カーブを見せずに投げ切ることができた。

 1死二、三塁のピンチでは、「ここ抑えたら渋いやろ」と楽しみながら無失点で切り抜けるというハートの強さも見せた。

 実は、榮と松尾は2年春にも日体大と対戦している。そのとき先発した松尾は0/3回3失点、二番手で投げた榮は2回4失点だった。「あのときはボコボコにされたので、今回は初回から丁寧に入ろうと思って投げました」と話す松尾は、日体大2回戦で7回3安打無失点の好投を見せた。

長身を生かした投球が持ち味の松尾

 昨年の夏にカットボールを覚えたことで、投球の幅が広がったそうだ。「日体大は初球からどんどん振ってくるチーム。たぶんカットボールを狙われていたんですけど、ゴロアウトを取ることができました。カットボールは狙って投げているところから縦にも横にも適当に散らばるので、自分でもどう曲がるかわからないんです」。

 さらに、冬の間は肩周りのインナーマッスルを鍛えた。「肩周りが柔らかくて、投げるときに胸が遅れて腕がついてこないので、投げたいところに投げ切れていませんでした。リリースポイントまで持ってこられるように鍛えました」。その結果、ストレートが低めに決まるようになり、カットボールのスピードが少し上がった。

 ふたりとも、確実にレベルアップしてこの春を迎えていた。

大学野球の神髄とは、を考えさせる帝京野球

 唐澤監督は、今年のチームを「目立った選手はいないけど、とにかく全員でやろうというまとまりのあるチーム」だと話す。そういうチームだからこそ考えられた、ひとつの戦略がある。それが「捕手ふたり制」だ。

 帝京大には、ここ数年だけ見ても塚畝(つかうね) 捕手、後藤将太捕手(現JFE西日本)、大友宗捕手(現茨城アストロプラネッツ)など、毎年のように力のある正捕手がいた。今季、ここまでの4試合では、榮が先発のときは池田竜己捕手(3年・宇部鴻城)、松尾が先発のときは奥宣孝捕手(4年・富山国際大付)がマスクをかぶっている。

「本当は、シーズン通してマスクをかぶり続ける正捕手がいないといけないですよね。でも今年はキャッチャーも野手もそうですが、控えにも遜色ないように練習をさせています。それで、1戦、2戦と同じキャッチャーがマスクをかぶると傾向が出るじゃないですか。カウント別でどういう球種を投げるかは、キャッチャーによって偏りやすいので。齋藤ピッチングコーチにも相談したんですけど、池田のパターンと奥のパターンでリードが変わると、今の段階では相手が考えてくれるかなと。ふたりは性格がまったく違うので」

 「控えにも遜色ないように練習をさせる」ことは、もうひとつの戦略にもつながる。「ベストメンバーで戦えないときに、誰か次の選手が出てきて欲しいというのが監督としてあります。何年生であっても、誰が出てもおかしくないチームにしたいと思っています」。

 ただ、やはり期待しているのは4年生だ。4年生がこれまで積み重ねてきたことを試合で存分に発揮して試合展開に余裕を持たせてくれると、下級生の出場機会も増える。

「キャプテンの今﨑中心に、本当に4年生が頑張っています。競っているときには難しいので、4年生がいい場面を作ってくれたら1年生も出せる。失敗してもいいから一回経験するとその後に生きてくると思いますし、周りにもいい刺激になるのではないかなと思います」

 集大成と育成、チーム全体での凡事徹底と個人のレベルアップ、選手たちが指揮官の教えを理解し理想的な状態にあるのが、今の帝京大なのではないだろうか。

 自身は5打数4安打と活躍してチームが4連勝した直後にも関わらず、彦坂は落ち着いたトーンでこう言っていた。「今は、いい感じにいっているだけだと思います。絶対にどこかで苦しい場面がやってくると思うので、そこを乗り越えてこそ優勝が見えてくると思います。今の結果に満足せずに、もっと接戦を勝ち切れるようなチームを作ってきたいと思います」。

 勝って兜の緒を締めよ。次の相手は同じく開幕から4連勝の東海大だ。チームの足並みをそろえて、この山を越える。

(取材・文・写真 山本祐香)

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦する生活を経て、気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターに。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報を手に入れづらい大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信することを目標とする。

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