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「第6回ライオンズカップ」開催 埼玉西武ライオンズと車椅子ソフトボールの縁そして「埼玉A.S.ライオンズ」戦いの記録

2021年11月27日から2日間、埼玉県の大宮第二公園多目的広場で「第6回ライオンズカップ 車椅子ソフトボール大会」が開催された。

他の多くのスポーツ大会同様に、20年は新型コロナウイルス感染拡大に伴い中止したため2年ぶりの開催となった。

ここでは、埼玉西武ライオンズが支援する車椅子ソフトボールチーム「埼玉A.S.ライオンズ」の戦いと大会の様子を追った。

(取材 / 文:白石怜平)

ライオンズの社会貢献事業「L-FRIENDS」の野球振興で支援

球団は2013年、日本車椅子ソフトボール協会のスペシャルサポーターに就任し、それ以降車椅子ソフトボールの支援を行っている。

18年3月には球団の社会貢献事業「L-FRIENDS」が発足。

「地域、ファン、選手、スタッフがひとつの仲間としてつながり、未来に夢をつないでいく」ことを目的とし、「野球振興」「こども支援」「地域活性」、20年からは「環境支援」を加えたの4つの柱を中心に取り組んでいる。

車椅子ソフトボールの支援も、L-FRIENDS発足後は「野球振興」の一環として支援を継続している。

西武がサポートしている車椅子ソフトボール(筆者撮影)

L-FRIENDSグループ担当の川原里美さんは、球団が車椅子ソフトボールをサポートした経緯と本大会についてこのように語った。

「障がいの有無や性別関係なく、”誰でも野球を楽しめる”環境づくりについて考えてきました。その中で、同じベースボール型の車椅子ソフトボールの団体があるということで我々からお声がけさせていただきました。

15年からライオンズカップを開催して、昨年中止になりましたが今年2年ぶりに開催できましたので、今後もなんとか継続できるようにやっていきたいです」

15年に設立した球団公認チーム埼玉A.S.ライオンズ」

本編でクローズアップする「埼玉A.S.ライオンズ」は球団公認の車椅子ソフトボールチーム。15年に設立され、この年に初開催された第1回ライオンズカップで優勝、17年まで3連覇するなど、公式大会での実績も残している。

チームには障がいの有無や年齢・性別問わず19人のメンバーが在籍。埼玉県・東京都といった首都圏を中心に練習や試合、体験会を行なっている。

障がいの有無や性別関係なく「誰でも楽しめる」スポーツ(筆者撮影)

車椅子ソフトボールは、選手の障がいに応じてクラスⅠ(1人1点)からクラスⅢ(同3点)に加え、クラスQ(クアード)に分けられている。ⅠからⅢになるほど障がいの度合いは軽く、メンバー合計の点数が21点を超えてはいけないルールがある。※クアードは脊椎損傷者またはそれに準ずる上肢に障がいがある選手

クラスⅢは健常者も含まれるため、持ち点内であれば健常者も参加が可能である。そのため、車椅子ソフトボールは障がいや年齢・性別関係なく誰でもプレーすることができるのが特徴の一つである。

チームの代表を務め、選手としても日本代表の一員である一橋(ひとつばし)卓巳投手は地元埼玉県出身。元々東京のチームに所属していたが、設立のタイミングで加入した。

「埼玉西武ライオンズと同じユニフォームを着れるのは誇りに思いますし、地元出身としてはとても嬉しい限りです」とプレーできる喜びを語った。

埼玉A.S.ライオンズの一橋卓巳選手(筆者撮影)

21年度の日本代表には一橋投手の他に、チームの発起人である堀江航外野手と阿部武蔵(たけぞう)捕手の3人が選出されている。他にも、98年長野・06年トリノパラリンピックでアルペンスキー日本代表の野島弘内野手も所属するなど、豪華なメンバーが揃っている。

パラリンピックのアルペンスキーで日本代表経験がある野島弘選手(筆者撮影)

2年ぶり開催「第6回ライオンズカップ」

21年11月27日〜28日、埼玉県の大宮第二公園多目的広場で「第6回ライオンズカップ 車椅子ソフトボール大会」が開催された。

本大会は上述の通り15年から行われており、西武がプロ野球球団として初主催及び関東圏初の大会として始まった。

球団はさらなる野球競技の振興、車椅子ソフトボールの競技発展及び普及活動などを目的に、現在も運営のサポートを行っている。

19年以来、2年ぶりの開催となった本大会は全国から8チームが集結。2日間にかけて4チームずつ2グループに分かれてのリーグ戦・各グループ上位2チームずつの決勝トーナメント形式で開催された。

埼玉A.S.ライオンズの選手たち(筆者撮影)

【グループA】
北海道 Brave Fighters
埼玉A.S.ライオンズ
横浜ガルス
関西unbalance

【グループB】
Glitters(茨城・東京)
CRONY(大阪)
茨城アストロプラネッツ
北九州シルバーウイングス

車椅子ソフトボールにも独自のルールがあり、ここでは代表的な数例を紹介する。

守備面において野球や健常者でのソフトボールでは9人で行うが、車椅子ソフトボールでは10人で試合をする。1人、SF(ショートフィールダー)という選手が就き、投手・捕手の定位置以外のフェアゾーンならどこを守ってもいい。ただし、クラスQの選手が不在の場合は9人で行う。

守備は10人で行う(画像はイメージ:筆者撮影)

一方、攻撃面では全打席1ボール1ストライクから開始し、2ストライク後のファールはカウントそのままではなくアウトとなる。

また、試合は7イニング制で競技専用の車椅子を用いてプレーする。車椅子で動くため芝生ではなく、コンクリートの広場が主な試合会場となる。

埼玉A.S.ライオンズは3位入賞

地元開催となった埼玉A.S.ライオンズは初戦に関西unbalanceと対戦。3-1と勝利でスタートを切った。2戦目は横浜ガルス相手に5-13と敗れるも、3戦目の北海道 Brave Fighters戦は9-2で勝利。

初日は1日で3試合行うタイトなスケジュールながら、2勝1敗でAグループリーグ2位通過。準決勝へと進出した。

2日目の準決勝の相手はBグループ1位通過の茨城アストロプラネッツ。2試合連続2桁得点と、勢いのあるアストロプラネッツの打線がここでも爆発し、5−12で敗戦。3位決定戦へと回ることに。

3位決定戦では前日敗れた横浜ガルスと再度対戦した。前日8点差で敗れたがここでは悔しさをぶつけるかのような試合に。1点を争う互角な勝負を繰り広げながら8−7でリベンジを果たし、大会3位に入賞した。

野島選手(写真左)のプレーを一橋選手(同右)が称える(筆者撮影)

一橋投手はエースとして18番を背負い、全試合先発とフル回転。大会後は

「決勝に上がれなくて残念ですけども何とか3位に入賞できたので良かったです。みんなでプレーするのは久々だったので、声の連携については序盤課題がありました。それでも2日間通す中で、いいプレーが徐々にできてきたのが収穫でした。来年こそは王座奪還を目指します」

と2日間を振り返り、力強く宣言した。

野島選手も大会後、久々にプレーできた喜びをこう語った。

「みんな実力が上がってきていますし、ソフトボールとしての面白さが増してきたと思います。ずっと個人競技をやっていたので、団体競技はまた違った楽しみがありますね。

自分のチームだけでなく他のチームも大勢いますし、これだけ障害を持つ選手が一堂に集まることはないので刺激になる。これからも長く・楽しく続けたいのと、ぜひ多くの方に体験してもらいたいです」

高山樹里会長「選手がプレーできる環境を作ることが大切」

全日程終了後、表彰式と閉会式が行われた。準優勝以降で各チーム1人が選ばれる敢闘賞には青木大選手が選ばれた。

最後は高山樹里・日本車椅子ソフトボール協会会長と埼玉西武ライオンズの居郷肇球団社長(当時)が登壇。

高山会長は、「まず無事開催できたことを関係者の皆さまに感謝します。この場を借りてお礼を申し上げます。2年ぶりのライオンズカップを開催し、今後新しい車椅子ソフトボールになっていきますので、これからも協会一同頑張って参ります」

と強く意思を表すとともに、関係者全員へ深く感謝した。また、居郷球団社長も以下の通り挨拶した。

「みなさんのご協力のおかげで無事終えることができました。ありがとうございました。先程、決勝観させていただきました。コロナ禍で満足に練習できない中で、皆さんの積み重ねた努力に敬意を表します。今後ますますの発展とともに、来年この大宮で開催できることを楽しみにしております」

最後に挨拶をした西武・居郷肇球団社長(肩書きは当時:筆者撮影)

高山会長は会場設営や試合のスコアを記録するなど、自身が率先して動いた。大会時の取材では、

「感染者を出さないようにすることはもちろん、試合をしないと衰退してしまいます。なので、なんとか(ライオンズカップを)やり切ろうという方向で協会の理事一同考えていまして、その中でどうやるか知恵を出し合ってきました。

選手がプレーできる環境を作ることが大切なので、今後も(コロナ禍と)うまく向き合いながら、やって行きたいです」と語った。

高山樹里・日本車椅子ソフトボール協会会長(筆者撮影)

この翌週には大阪で「車椅子ソフトボール東大阪花園大会2021」が行われた。こちらも無事に終え、大会の開催実績を積み重ねている。今後もコロナ禍と向き合いながら、球団・協会・選手たちがひとつになって車椅子ソフトボールをさらに活気づけていく。

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