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オーストラリア出身右腕・ジャクソン海、憧れの先輩・宇田川優希が立った舞台でその名を全国に轟かせるか~仙台大、2度目の神宮へ(前編)

 11月18日に開幕する第53回明治神宮野球大会。2年連続2度目の出場となる仙台大は、大学の部での東北勢初優勝を目指し、最終調整を進めている。大会直前の今回は、チームの特徴や注目選手を紹介するコラムを3回にわたって連載する。  

 前編では、今秋急成長を遂げた右腕・ジャクソン海投手(3年=エピングボーイズ)を取材。日本の野球を愛し、母国・オーストラリアから海を渡ってきた男の決意に迫る。

少年時代の夢を追い、オーストラリアから再来日

 今秋のリーグ戦でチーム防御率0点台を記録するなど、成長著しい仙台大投手陣。中継ぎ陣の奮闘も目立ったが、ジャクソンもその一角を担った投手の一人だ。リーグ戦初登板を含む3試合で救援登板し、計5回を投げ7奪三振1与四球無失点。威力のあるストレートと切れ味抜群のスライダーを武器に、安定した投球を披露した。明治神宮大会出場を決めた東北地区代表決定戦でも2試合ともマウンドに上がっており、首脳陣からの信頼度は日に日に増している。

東北地区代表決定戦で力投するジャクソン

 オーストラリア人の父と日本人の母を持つハーフで、生まれはオーストラリア。小学2年からの約3年間は、日本語を学ぶため日本で過ごした。野球を始めたのは小学3年の頃で、偶然見かけた少年野球チームの練習を見て興味を持ったことがきっかけだった。野球をプレーする一方、近所だったという東京ドームには毎日のように通い、プロ野球の試合を何度も観戦。球場での日本人独特の応援や野球熱に惚れ、「日本でプロ野球選手になる」という確固たる夢を抱いた。  

 オーストラリアに帰国後はリトルリーグで活躍。U12、U15のオーストラリア代表には打者として選出され、高校から投手に転向した。その間も「高校卒業後は日本で野球を」との思いは揺るがず、練習環境に魅力を感じた仙台大に進学。入学当初は練習や試合のペースについていけず、新しい環境の中で疲れが抜けない時期もあったが、「優しくて楽しい」仲間に恵まれすぐに日本の生活を楽しめるようになった。持ち前のコミュニケーション能力と流暢な日本語を生かし、グラウンドでも寮でも、学年問わず様々な選手と会話を交わしている。

飛躍につながった3年目の意識改革

 大学では高校時代の課題だった制球力を強化したほか、チェンジアップやスプリットを新たに習得し、変化球でカウントを稼ぐ技術を身につけた。四球を出さないことの大切さや間の使い方、打者との駆け引きなど、日本に来て初めて学んだことも多く、投手としての総合力は急速に高まっていった。

ボールを手に笑顔のジャクソン

 しかし1、2年次はリーグ戦の登板機会をつかめず、「めちゃくちゃ悔しいし、苦しかった」と振り返る。同学年で仲の良い川和田悠太投手(3年=八千代松陰)や須崎雄大投手(3年=東海大市原望洋)がリーグ戦で投げる姿を見ると、「俺と何が違うんだろう。せっかくオーストラリアからやってきたのに、このままでいいのかな」との思いが湧いてきた。  

 それでも、飛躍を誓った3年次は「他の人と比べるのではなく、自分にできることをやろう。自分の強み、弱みを知って、強みはより強くし、弱みは少しずつ強くしよう」と考え方を変えた。川和田のコントロールや須崎のチェンジアップはないが、「球の強さ」は誰にも負けない自信があった。自慢のストレートを磨き、フォームを改善することで制球力も徐々に向上。社会人チームとの練習試合などで手応えをつかみ、秋のリーグ戦ではついに川和田や須崎と同じ舞台に立った。

国際大会で感じた手応えと明らかになった課題

 今秋のリーグ戦後には、オーストラリア代表としてU23W杯に出場。4試合、10回3分の2を投げ防御率0.00と、世界の舞台でも結果を残した。「凄い経験だった。仙台大で学んだことを試合でやって、それが世界の打者にも通用すると分かった」。日本で身につけた技術を生かせただけでなく、リーグ戦で抑えた実績が大きな舞台で投げる際の自信につながると実感した。

明治神宮大会直前の練習でキャッチボールをするジャクソン

 一方、世界の好投手を目にする中で感じた課題は「球速」ときっぱり。ブルペンで最速151キロを出したことはあるが、試合では現状、140キロ台前半~中盤にとどまっている。大会中、オーストラリアのコーチ陣らから体づくりに関する知識を教わり、その内容を携帯のメモやノートにびっしりと書き込んできた。「150キロは当たり前」を理想に掲げ、今オフはフィジカル面の強化に努めるつもりだ。

憧れの先輩・宇田川優希が踏んだ神宮のマウンドへ

 まもなく、充実の秋を締めくくるにふさわしい明治神宮大会に臨む。東北地区代表決定戦では、決勝で走者を残したまま降板する場面があった。代わった佐藤亜蓮投手(4年=由利工)が後続を抑え結果的には無失点で切り抜けたが、安堵の一方、任されたイニングを投げきれなかったことに悔しさが募った。「(監督やコーチに)ジャクソンがマウンドに上がったら絶対抑えてくれると思ってもらいたい」。神宮に向け、気が引き締まるマウンドとなった。

11月12日に行われた東北福祉大とのオープン戦に登板したジャクソン。好救援で順調な調整ぶりをアピールした

 憧れは大学の先輩である宇田川優希投手(オリックス・バファローズ)。入学したばかりの頃、当時4年だった宇田川のブルペンでの投球を目の当たりにし、大きな衝撃を受けた。当初日本人投手に対して抱いていた、「コントロールが良くて、球はそれほど速くない」との印象を一瞬にして覆す剛球だった。それ以降プライベートでも仲良くなり、今でも電話で近況報告をし合うなど、交流を続けている。

 日本シリーズの直後にも連絡を取った。宇田川の活躍シーンを二人で振り返り、最後には「神宮頑張れよ」とのエールを受け取った。「神宮のマウンドは宇田川さんもついこの前立った場所。自分らしさを出して、本気でアピールして、絶対に優勝したい」。日本一、そして小学生の頃から追い続けてきた夢の実現へ―。ジャクソンにとって、神宮のマウンドが野球人生の分岐点となるかもしれない。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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