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4年ぶりに出場する筑波大の戦力は? 関東地区大学野球選手権を観に横浜スタジアムへ!

 11月7日、横浜市長杯争奪第18回関東地区大学野球選手権大会(以下、関東大会)が開幕する。今年も横浜スタジアムで、関東五連盟の秋季リーグ戦上位2校、計10校が、明治神宮大会出場をかけて戦う。 

 首都大学野球連盟からは勝ち点4・9勝3敗(勝率0.75)で優勝した日本体育大学、勝ち点4・8勝4敗(勝率0.67)で2位となった筑波大学が出場する。今回は、4年ぶり6回目の出場となる筑波大について、リーグ戦を通して取材してきた内容をもとに、戦力、特徴を紐解く。 

苦しみながらもつかみ取った関東大会出場の切符 

 昨秋の首都大学野球リーグ戦では、21年ぶりの最下位となり入替戦を経験。今春は最終的に4位となったが開幕から6連敗と、新型コロナウイルス流行後はとにかく苦しい戦いをしてきた。他チームが少しずつ練習、オープン戦などを再開させる中、茨城県や大学による厳しい規制で思うように動けない日々が続いた。まったくオープン戦ができずにリーグ戦に臨むこともあった。 

 今でもいろいろな制約はあるものの、この夏はやっと十分な量の練習とオープン戦ができた。足りなかったのは練習や試合だけではない。「うちが一番大事にしてきたのが、学生同士のコミュニケーションでしたが、コロナで話し合いができなかった。意思疎通が全然できていない中でチームを作っていくというのは、コロナ禍で卒業していった学生たちは大変だったと思うんですよね。リモートでミーティングをすると言っても、相手の顔が見えないのでどんなことを考えているかもわからないですし、伝えるだけという感じになっていました」。そう、川村卓監督は振り返る。 

 どうにかしなければならない。「元に戻すというより、今の時代に合ったやり方を模索してきました。今もミーティングは室内でみんなで集まってというのができないので、青空の下でやるかリモートが多いですが、コミュニケーションになってこそだと思ったので、リモートでもちゃんと言葉が行き交うように話し合いをしようと。それができるようになったのは大きいですね」。 

みんなで勝ち取った関東大会の切符

 主将の濱内太陽外野手(4年・履正社)は今までコロナ禍で厳しい制限をかけられてきたことを言い訳にせず、この秋強くなれた理由をこう話した。 

「夏に厳しい練習をしてきたというのもありますが、グラウンドでプレーする部員はもちろん、グラウンド外、スタンドで応援してくれる選手も結束できたのが非常に大きいと思います。春のリーグ戦が終わってから僕も働きかけてはきましたが、メンバーがメンバー外に、メンバー外がメンバーにお互い働きかけて、春に比べてより部員の勝ちに対する気持ちが集まりました。夏から秋にかけて一体感を思い切り体現してくれて、見ていてすごく成長したなと思いました」 

 今季は、メンバー外の選手が自らの意思で、朝早くから試合前の練習につきあってくれた。チームの中心打者である清水大海外野手(4年・日立一)も、活躍できるのは「人柄が良く温かい同期や後輩のおかげ」と言う。 

 ひとりひとりを見れば能力のある選手はたくさんいるが、なかなかチームとして結果が出ていなかった。「今年の筑波は全員で繋いでいく野球なので、誰がというわけではなく、すべてが勝利に繋がっていると思います」。濱内は、そう力強く言った。 

投手はエース西舘を中心に繋いで勝つ 

 開幕カードで死闘を繰り広げた筑波大と日体大。最終的にこの2チームが関東大会へと駒を進めた。1回戦は「延長11回サヨナラ勝ち」、2回戦は「3時間40分戦った末、9回に押し出し四球でサヨナラ負け」3回戦は「延長10回押し出し四球で勝ち」という内容で、最終的に勝ち点をとれたことは、筑波大にとって大きかった。 

 濱内主将は「1勝、1節に一喜一憂するのではなくて、リーグを通して成長していかなければならないので、目の前の相手に対して全力で戦って勝ちを重ねていくというスタンス」と冷静に次の試合を見据えていたが、この開幕カードを勝ち切ったことで、粘り強く戦う土台が作れたと言ってもいいだろう。 

 リーグ戦終了後、ターニングポイントを川村監督に尋ねると「どの試合も紙一重なのがうちのチームの特徴なんですけど、最初の日体大さんや東海大さんとの延長12回などを経験してきたことで、最後の最後に落ち着いてできたと思います」と話した。 

 昨年、絶対的エースだった佐藤隼輔投手(現・西武)が卒業し、今年は右腕の西舘洸希投手(4年・盛岡三)が中心となるはずだったが、春は故障で出遅れた。「今まで怪我が多かったですが、今季は怪我なく積み上げてきてリーグ戦に入れた。調子は上がって来ています」と、秋は開幕から気合十分。日体大1回戦で6回2/3 1失点といいスタートを切った。 

今季は開幕からチームを引っ張った西舘

 初球、カーブから入ったのが効果的だった。「振るバッターと振らないバッターで分かれるので、相手の反応を見て投げていました。今までもカーブは投げていましたが、安定してストライクがとれなかった。初球でカーブを狙うというのは難しいと思うので、そこでストライクを取れたら1ストライクノーボールから始められます」。筑波大は完投を目的とせず積極的に継投していくチームであるため、1点を失ったところで交代となり勝ち投手にはならなかったが、チームは延長戦でサヨナラ勝ちした。 

 その後、9回2失点と好投した東海大1回戦でも延長12回サヨナラ負けと、なかなか西舘に勝ち星はつかなかったが、最後の登板となった武蔵大1回戦で今季初勝利を挙げた。この日のストレートは最速149キロ、8回1/3を投げ5安打無四球4失点(自責2)という内容。試合後には穏やかな口調で「やっと勝てました。球威は最後まで落ちないですし、球数も投げられるようになっているので最後までいきたかったですけど」と、笑顔を見せた。 

「いいボールを投げるだけがピッチャーじゃないと思うので、テンポとか野手が守りやすいようにとか、クイックもうまく使って打者が嫌なタイミングで投げるとか、考えながらやっています」 

 制球力が高く四死球が少ない投手だが、その分、四死球でランナーを出してしまったときは失点することが多い。不利なカウントになる前に、テンポ良く打ち取っていきたい。西舘の活躍は、筑波大の勝利に必要不可欠だ。 

 もうひとりの先発、左腕の村上洸典投手(3年・今治西)もフル稼働した。好不調の波はあったものの、桜美林大1回戦、明治学院大2回戦では6回無失点の好投。何よりローテーションを守り続けたことは、チームにとって大きな力となった。LIVE配信で解説していた山田拓朗投手(3年・川越東)によると、村上は「いい意味で空気を読まない変人」らしい。チームが劣勢のときも、空気を読まずに好投して欲しい。 

今季は先発の2枚目としてフル回転、リリーフ登板もした村上

 西舘が体調不良で登板を回避した週の桜美林大2回戦で、8回無失点の投球をしたのが寺澤神投手(3年・鳥栖)だ。北爪魁投手(3年・高崎)と共に、普段はリリーフとして腕を振る。筑波大は投手をどんどんつぎ込むが、中でもこの3年生コンビは首脳陣の信頼度が高いと見られる。 

 この先楽しみなのが、隼瀬一樹投手(2年・伊香)だ。明治学院大2回戦に二番手で登板すると、五者連続三振を奪った。明らかに以前よりストレートの質が良くなっており、今後登板するたびにどんな変化を見せるかと期待したくなる。そして、筑波大の左のリリーフといえば長曽我部健太郎投手(2年・北野)。1年生のときから経験を積み、だんだん頼もしくなってきた。これから登板機会が増えそうな一井日向汰投手(2年・武蔵野北)と共にブルペンを支える。 

野手は四番と下位打線がカギ 

 勝てなかった昨季までも、決して打線が機能していなかったわけではない。投打が噛み合わない、エラーが出てしまうなど、どこかチグハグだったのが、今季はいい戦い方ができた。 

 「春に首位打者をとったのでマークされるだろうと思っていたが、打たなくても出塁してくれるので一番に置いている」と、リードオフマンを任されたのは石毛大地外野手(3年・相模原)。桜美林大の鎌倉洸太外野手(1年・関東一)に「筑波大の石毛さんのような嫌なバッターになって出塁を増やしていきたい」と、目標にされる存在だ。 

 石毛の次に永戸涼世内野手(2年・八千代松陰)、そしてチームトップの打率を誇る清水大海外野手(4年・日立一)と得点を取りやすい並びとなっている中、問題は四番だった。筑波大はここ数年、他の打順に置くと打つのになぜか四番に置くと打たなくなる四番候補が多く、ここで打線が途切れてしまっていた。今季は1年生のときから「四番を打つ力がある」と、何度も四番に置いたり下位に下げたりを繰り返していた西浦謙太捕手(3年・大阪八尾)を開幕四番に据えた。 

西舘とバッテリーを組む西浦

 その西浦が打撃好調で、繋がる打線となった。西浦の調子が下がったときは仲井淳人内野手(4年・兵庫星陵)を四番に置くと、今度は仲井が大活躍。クリーンアップで点を取る理想的な運びができた。 

 川村監督は、西浦について「キャッチャーは負担の大きいポジションなので、四番を打つ力はあるけど打順を下げた方がいいのではないか」と考えながら今までやってきたが、西浦自身は「打順は特に気にしていないです。どこでも一緒で、四番は四番目というだけ」とどこ吹く風。確かに、四番にいながら一試合でセーフティーバントを二度決めたりと、自由に動いている。今季は、仲井と共に11打点を挙げる活躍となった。 

 生島光貴内野手(3年・福岡)も五番を打ったり、下位で得点を稼ぐ役割になったりと打線の繋がりには欠かせない存在だ。そして、開幕は故障で少し出遅れた小川柾内野手(4年・札幌第一)も、下位にいると心強い。今はセカンドを守っているが、1年生のときから守備を買われてショートで出場していた経験豊富な選手だ。「彼が入ってくれることによって内野もまとめてもらえますし、いいところで打ってくれます」と指揮官からの信頼も厚い。 

 下位打線のあと2枠、ポジションで言うとレフトとファーストが定まっておらず、相手チームや選手の調子によりスタメンが決まる。最終戦、勝てば関東大会出場決定という武蔵大2回戦では1年生の堀江晃生外野手(健大高崎)が八番・レフトに抜擢され、1回表2死二、三塁から右中間に適時三塁打を放った。関東大会では誰がスタメンを勝ち取るのか。 

ソロホームランを打った仲井

ベンチでチームを勝利に導く濱内太陽 

 今年チームを引っ張る濱内太陽主将は、1年春から外野手としてリーグ戦に出場していた。新人ながら活躍し、2位に貢献。その後、チームはつらい状況が続いたが、昨秋、履正社高校時代に続き主将となった濱内を中心に「一心」というスローガンを掲げて新チームが始動した。 

 そんな濱内を襲ったのが膝の故障だった。リーグ戦に出場するのは絶望的な状況だ。主将を続けるべきかという話にもなったが、チームメイトの答えは「続けて欲しい」だった。 

「正直、みんながしっかりしているので僕ができたことは少ないと思うんですけど、とにかく僕の熱を伝えるしかないと思いました。チームのみんなが思い切ってプレーできるように、この身を捧げるじゃないですけど、勝利のためになんでもやるぞという気持ちでいました」 

チームメイトに声をかける濱内

 故障がなければ、間違いなくプレーでチームを引っ張れた選手が、それ以外の方法でチームを引っ張ってきた。「いるのといないのとでは、ベンチの締まり方が大きく違う。彼がキャプテンとしてみんなを把握してくれるかどうかは、うちにとって非常に大きいですね」。そう、川村監督も信頼を置く。 

 関東大会出場を決めた武蔵大との最終戦、筑波大は1回表に5点を先制した。「武蔵大学さんも強くて必ず食い下がってくると思ったので、そのあとの守備のときに『気を抜くな。点差も縮められるし苦しくなってくるから、5点取っているけど0-0のつもりで1点ずつ取っていこう』と部員に言いました」。濱内の言う通り、武蔵大はあっという間に1点差まで追い上げてきた。そこからまた1点ずつ引き離し、最後は9-5で勝利。4年ぶりの関東大会出場を決めた。 

 4年ぶりということは、今の部員全員が関東大会を経験していない。ここからは厳しいトーナメント戦となる。「もちろん、神宮大会出場という目標はあるんですけど、トーナメントなので1戦必勝でいかないといけない。筑波の野球、粘り強い野球をするというのは変わらないので、そこをさらに磨いていきたいなと思います」。そう、10月16日の首都リーグ最終戦で言っていた濱内。約3週間でどれだけ磨けただろうか。 

 筑波大の初戦は11月7日(月)の第2試合(12時30分開始予定)、創価大(東京新大学野球連盟2位)と戦う。「筑波の野球」を見せられるか。 

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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