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「結果、育成、地域密着の全てを求める」香川オリーブガイナーズ・近藤智勝監督は欲張りのロマンティスト

昨年のリーグ王者・香川オリーブガイナーズ(以下ガイナーズ)を率いるのは、近藤智勝監督。

初代チームキャプテンで『ガイナーズの生き字引』的存在の監督就任は、決して恵まれた状況下ではなかった。コロナ禍でリーグ全体が打撃を受け、球団体制の変化も重なったが、前向きにチームを牽引している。

戦績、NPBドラフト指名実績など、香川オリーブガイナーズは四国リーグにおける優良球団だ。

~私が監督になって大丈夫ですか

四国アイランドリーグplus(現在名/以下四国リーグ)は独立リーグ(以下独立)の成功例とも言えた。2005年のリーグ発足以来、NPBへも多くの選手を供給、観客動員数も順調に増えていた時期があった。

ガイナーズは初年度からリーグ加盟、過去リーグ年間優勝7度、独立リーググランドチャンピオン3度など輝かしい結果を残している。

2019年限りで、13年間チームを率いた西田真二前監督(元広島、現セガサミー監督)が退任、元ソフトバンク・松中信彦氏をGM兼総監督に招聘。現場指揮官を近藤監督に任せ2020年シーズンに入った。しかし時期を同じくしてコロナ禍に見舞われ観客動員は激減。松中氏も同年の契約満了をもってチームを去ることとなった。

「監督要請には、『よっしゃ』という気持ちはなかった。『そろそろ監督のタイミングか』くらいで淡々としていました。私は全国区のネームバリューなどない選手でした。監督就任にあたり球団側と話し合いをした際も、『監督になって大丈夫ですか?』と質問したくらいです」

「このリーグに育ててもらいました。良い時代も見てきましたが、今は過渡期だと思います。独立でも新リーグができ選手も分散、人材確保も難しい。コロナ禍もあって厳しい状況下ですが、創意工夫をしてやるのが大事だと思います。24時間という限られた時間の中、環境に適応してやるだけです」

厳しい状況下だが、創意工夫をして前進することを考える。

~選手、スタッフの両方を知るため、球団と現場の繋ぎ役に適任

リーグ創設時から6年間プレー、チームの初代キャプテンも務めた。現役引退間際には他チームへの移籍も考えたが、香川で骨を埋める決断をした。2010年シーズン終了後に現役引退、アカデミー・コーチやチーム広報など務めた後、2012年から野手コーチとなった。

「例えば、球団経営者が変わることもありますが、大事にすべき球団体質、体制等があります。長年チームにいる私が、そういったことを伝える立場にあるとは思います。監督とはいえ、現場と球団を繋ぐ立場。新しい職員が入ってきたら、自分が知っている範囲内で仕事の動きを話したりもします。試合中の運営や広報担当などの立ち振る舞い部分などです」

~選手としての成長に露出が欠かせない

四国リーグ4球団でも球団方針は様々だ。元NPB選手や海外などから知名度ある選手を獲得する。地元出身選手を可能な限り増やす。監督、コーチなどに知名度ある人を招聘する。各球団、それぞれの方法でチーム強化と生き残りを図っている。

「『NPB選手を輩出する』というのがリーグ趣旨で、絶対にブレてはいけない部分。でも地域球団として応援される必要もあります。2つの柱、両方を大事にしたい。香川の現状を考えると、『お客さんを呼んで地域を盛り上げる』という方の考え方も多少、強くなっています」

「コロナ禍になってお客さんがどんどん減っている。イベントや野球教室などを開催して、知名度を高めることも大事な時期だと思います。もちろん選手はNPBを目指していますので、それを削れとは言えません。でもプロとして人から見られる部分が生まれれば、野球にもプラスになるはずです。人としても成長して社会性も出ます」

「リーグ創設当初は、世間からの注目も高くメディアにもたくさん取り上げてもらえた。露出の場があって見られることも多かった。そういう部分が減ることで、プロに相応しい立ち振る舞いができなくなっている。球団が戦略を練ってやるべき部分です。SNS等のツールもあるので発信することが重要です」

コミュニケーションを取って選手の『やる気スイッチ』を入れることを重視する。

~地元出身選手を獲得する重要性

『NPB選手を輩出する』、『お客さんを呼んで地域を盛り上げる』という2本柱を両立するのは難しい。

プロを目標とする選手は、良い環境があればチームを移るのは当然。近藤監督のように同一球団に長年、在籍することの方が稀だ。しかしチームに長くいる選手にはファンも愛着が湧く。独立ならではのチーム編成の難しさもある。

「チームには一軍から三軍、育成まで全レベルの選手が同居する感じです。学生時代を含め、試合経験が足りない選手が多いので、まずは出場させることを大事にします。シーズン70試合程度の中で多くの実戦経験を積ませ、失敗を恐れずチャレンジさせる。そこは監督として譲れない部分です」

「チームレベルを上げようと思えば、給料を上げて良い選手を獲得すれば良い。ある程度の選手が3-4年在籍すればレベルも上がります。見る側としてもエンタメとして面白い試合、レベルになり、贔屓選手にもなります。しかし若い選手の経験の場所は減ってしまい育成が進まなくなります」

「今後、重要なのは入団する選手の獲得方法だと思います。地元出身で良い人材が増えれば応援する人も増えます。大学で一度は県外へ出たけど香川へ戻ってくる。高卒でプロ入りできそうだった人材が入団する。そういった選手がチーム強化、集客の両方に好影響を与えるはずです」

地元出身選手が多い、魅力あるチームにすることで香川を盛り上げたい。

~勝利、育成、球団経営は全てが繋がっている

NPB一軍監督に求められるのは『勝利』が大多数。逆にNPB二軍、三軍監督は『育成』が主となる。しかし独立の監督には両方が求められ、地元球団として地域に根付かせることも考えなければならない。集客ができなければ球団存続すら危うくなるからだ。多くのタスク、ミッションが与えられた立場と言えるだろう。

「欲張りかもしれないですが全てを求めたい。監督としては選手に良い思いをさせてあげたい。今まで陽の目を浴びてきたような選手は少ない。泥臭くしがみついてきた選手に、勝つ喜びを味わって欲しい。そしてNPB入りする選手を出したい。やっていて良かった、と思ってもらえるのが一番です」

「試合に勝てば、選手は気分が良くなり練習してさらに上達する。チームとして個々の集団がまとまる。普段は仲良くなくても、やるべきことをしっかりやれば自然とチームワークはできる。強ければ良い選手が増えてプロに行ける人数も増える。お客さんも集まり球団経営も好転する。全ては繋がっていると思います」

近藤監督は、プロ野球人として育ててもらった香川へ感謝の念を抱きながらチームを指揮する。

~理想を高く持って欲張ります

「現実ばっかり見てもつまらないので、理想を高く持って欲張っていきたい。監督業は楽しいです。自分の采配で色々なものが変わります。そのためには選手の『やる気スイッチ』を入れてあげたい。選手がやる気になれば、こちらの意図も必ず伝わり大きく伸びます。しっかりコミュニケーションを取って、課題、目標などを明確にしてもらう。実力も上がりチームも勝てる。全てがうまく行くと信じています」

「監督は裏方です」と最後に付け加えるのを忘れなかった。

近藤監督は欲張りのロマンティストだが、自らの立ち位置はしっかり認識している。

地元・神奈川から遠く離れた香川の地でプロ野球生活を始め、今では監督になった。昨年はリーグ年間優勝という最高の結果を出したが、球団やリーグの現状を見れば満足することはできない。

勝利を挙げる。多くの選手をNPBに送り出す。香川県民にとってガイナーズを誇りにする。

口にこそ出さないが香川への恩返しを誓っているように見える。やるべきことはたくさんあるが、近藤監督は歩みを止めるつもりはない。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・香川オリーブガイナーズ)

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