「野球留学は悪いことですか?」関メディベースボール学院が薦める選手のための越境留学
「甲子園出場は重要なこと」
野球専門校・関メディベースボール学院(以下関メディ)が、中等部(中学生)育成時に掲げる理念。同学院総監督・井戸伸年氏は、選手たちを甲子園出場へ導くため全身全霊を注ぐ。
「甲子園出場で人生は変わります。選手たちの甲子園出場できる可能性を高めてあげたい」
関メディ中等部選手の多くは、中学卒業後に全国の野球強豪私学校へ進学する。現在の居住地である関西圏よりも、甲子園出場の可能性が高まる、俗に言う「野球留学」を選択する。
~野球留学は就職、進学活動の一環
関西圏では特に一部の野球強豪校以外、甲子園出場の可能性が低くなる。仮にそういった野球強豪校へ入学してもレギュラーとなるのは困難を極める。関メディでは甲子園出場の可能性を高めるため、地方強豪校へ「野球推薦枠」での入学を薦めている。
「『野球留学は問題だ』と言われます。これは根拠も示されていない中での議論です。まず第一に学校を選ぶのは選手自身。野球留学がダメと言うならば、極端に言えば進路を全て学区で定めた公立校にすべきです」
「私立校はビジネスでやっている現実的側面もあります。だから知名度を上げるため選手を集めるのは、決して悪いことではない。また選手が野球留学するのは、その後の就職活動や進学活動だと思います。選手が自分の意思で進むべき道ですから」
「私立校へ行くのには明確な理由がある。野球選手としての成長、次のステージを目指すことの確率や可能性が高くなるからです。それぞれの目標や夢に辿り着くため、自分自身で学校を選ぶ。進路として理想に近い姿ではないでしょうか」
~寮生活は自立と人間的成長に直結する
「他県へ進学した際の寮生活は、自立を促す最高の手段です。自宅から高校へ通う場合、多くのことを親や家族に頼ってしまう。周囲も可愛がってくれるので、自分でやる可能性が少なくなります。寮生活は自分でやることが増え、人間的成長に繋がります」
「親や家族のありがたみも実感します。実際に親元から離れないと分からないことも多い。例えば、休日に実家へ帰ってご飯が美味しく感じる。親御さんも食べれないほどの量のご飯を作ってあげたりする。これは素晴らしいことで、人間としての奥行きや価値が上がるはずです」
将来的なことを考えれば、野球留学によって目標や夢の実現性が高まる。また離れた場所での寮生活をすることで、子供が大人に向かって自立への一歩を歩み始めることにもなる。教育的見地から考えても、否定する要素は見つからない。
~親をチラチラ見る時はまだまだ
野球留学を全面的に薦めるからこそ、責任も重大だ。現在、中等部員を60名前後と区切っているのは、各選手の性格や本質をできる限り把握するため。その上で井戸氏自身が全国を回り、進学先を自ら見た上で進路のアドバイスを行う。
「試行錯誤した結果、現状では60名前後が最適な人数。平日は全国行脚、各学校を自分の目で見て確かめる。そして週末はグラウンドで選手と接します。あとは選手と親御さんを含めた三者面談に時間を取ります。タイミングを見て、全家庭1時間は絶対に話し合います」
進学先を薦めるにあたっては、選手の真の姿を知ることが重要。三者面談ではグラウンドで接する選手とは異なった姿が見え隠れする。時間をかけて話し合うことで家庭内での様子も手に取るようにわかる。
「選手、親御さんの両方の意見を聞きます。選手本人が自分の意見でないことを言う時は、親の方をチラチラ見ますね(笑)。やはり親御さんは遠くへ行かせたくない場合も多い。そういった親心は時代が変化しても変わりません」
~プレゼンをしっかりできるから親も投資してくれる
「親に投資してもらうつもりでプレゼンしろ」と選手には力説する。そのためにも自分の気持ちや思いを親にしっかり伝えることが重要。「僕はこうしたい」と普段からしっかり説明して、親が納得してサポート、応援しないと上手くいかないという。
「常に自分自身の意思を周囲に伝えられることです。一番近いファンは親や家族ですから、普段から自分の思いを理解してもらう。俗っぽい言い方になりますが、最終的にお金を出してくれるのは親です。投資をしてもらうためにプレゼンを行う感覚が必要です」
「選手本人の意思を親や家族に伝えて、応援してもらえる体制をしっかり整えることが大事。誰もが納得するからこそ、『よし、それで行こう』となります。本人が熱意を伝えないと、周囲の人は動きません」
~個々の適性にあった学校を見定める
選手の意思が大事とはいえ、中学生は影響を受けやすい年代。甲子園での勇姿を見て憧れが生まれ、進学先の高校として選ぶことも多い。選手の気持ちを尊重しつつ、慎重に選択肢を提案する必要がある。
「様々なことを総合的に判断します。まずは先方の高校、監督さんの考えがあります。その上で戦力面から判断して、出場機会がありそうかどうかを伝えます。また選手、人間として成長できる環境かどうか、は絶対的に重要です」
「選手個々の性格を重視します。新しい環境に入った時に1人で大丈夫か。知っている先輩や同級生がいれば環境に適応できるのか。それぞれのタイプを見極めることが重要。野球が上手くても、ここを見間違えば失敗します」
「中学3年間を通じて、我々が全力で見定めないといけない部分。個々の適性にあった学校に行かないと活躍する可能性は低くなる。でも最終的には本人の意思と判断です。子供たち自身の覚悟にも繋がるので、強い思いがあれば『頑張れ』と言います」
今春から東海大相模高(神奈川)へ進学する、侍ジャパンU-15代表・金本貫汰の例を出してくれた。
「性格面を重視しての選択です。優しくてガツガツしていないタイプ。頼れる先輩がいて落ち着いてプレーできる環境を提案しました。相模には、1つ上の代だった才田和空がいるのが大きい。才田は高校1年から試合に出ているので、同じように活躍して欲しいです」
~学力レベルを下げてまでの進学はあり得ない
甲子園出場を果たし、その先のカテゴリーでも野球を続けて欲しい気持ちは強い。しかし同時に、1人の人間としての人生設計を常に考えるように伝えている。
「『学力を落としてまで学校を選ぶな』と強く言います。強豪校にはスポーツクラス等がありますが、自分の持っている学力を下げて選ぶのは大反対。高校を卒業したその先の進路に関わるからです。可能ならば自分の学力レベルより、少しだけ高い学校へ行って欲しい」
「仮に高校野球がうまく行かなくても、学力が伴っていれば大学進学の可能性もある。大学に行ければ野球を続けることもできます。甲子園に行きたいから学力を下げて進学するのは、関メディではあり得ません」
~野球を続けてくれれば良い
甲子園出場できるのは、東京等を除いて基本的には各都道府県で1校のみ。試合出場できるのは9人とプラスアルファしかいない。野球留学しても、必ずしも甲子園でプレーできるとは限らない。それでも自分の意思で覚悟を持って旅立つことで、道は開けると信じている。
「無責任ですが、『何が成功か?失敗か?』はわかりません。結果が伴わない場合もあります。『しょうがない』と割り切ることはできませんが、失敗とも思いたくない。自分で選んだ道で、良い経験をしているのは間違いない。だから野球を続けてくれれば良いと思います」
「自分自身で考えて進路の答えを出すことが、人生設計にも繋がります。野球を人生の中でどう捉えるのか。短、中、長期で考えるのが大事です。我々は選択肢を与えますが、最終的に選ぶのは子供たち。自分が選んだ道であれば次に活かせるはずです」
「野球留学」という単語で一括りにされるが、様々なケースが存在する。関メディの場合、選手の将来を考えた上で最後は本人に進路を選ばせる。そこには第三者の思惑が入り込む隙はない。
選手の側に立った、素晴らしい試みの「野球留学」も存在する。しっかりとしたビジョンのあるものならば、それは「アリ」だと感じる。
「進学先で頑張ってレギュラーになり、甲子園に帰ってきます」
3月4日の引退試合で選手のメッセージが読み上げられた。彼らにとって関メディと道路を挟んだ目と鼻の先に立地する甲子園は地元だ。
甲子園に1人でも多く帰還して欲しい。関メディの今後、そして旅立った選手たちの未来にぜひ注目したい。
(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・関メディベースボール学院)