• HOME
  • コラム
  • 未分類
  • 「筑波スピリットは何があっても変わらない」筑波大学女子バレーボール部・中西康己監督

「筑波スピリットは何があっても変わらない」筑波大学女子バレーボール部・中西康己監督

名門・筑波大学女子バレーボール部(以下筑波大)が今秋の戦いに挑んでいる。環境や時代の変化が叫ばれる中、選手たちが頂点を目指す姿勢はいつの時代も変わらない。2002年から同部を率いる(1999年から3年間は男子バレーボール部コーチ)中西康己監督が現状について語ってくれた。

「最大目標は11月末からの全日本インカレ(第71回秩父宮妃賜杯全日本バレーボール大学女子選手権大会)です。関東大学女子1部の秋季リーグ戦をしっかり戦って、最高の調子で迎えたいです」

「7度目の優勝となる全日本インカレ連覇を目指す」と中西監督は明言するが、秋季リーグ戦では苦戦も続いている。

「克己奮闘」の精神を忘れず、頂点を目指す戦いへ挑む。

~今後に向けてチーム力の底上げは進んでいる

「中心選手のコンディション不良もあったりして、(秋季リーグ戦の)開幕に全選手が間に合わなかった。代わりに出場した選手を含めた全員でカバーしてくれているのは大きい。必死でプレーする中、歯車が少し狂った時にやられてしまった部分はあります」

「チーム全体の勝利への思いが強過ぎて、重圧がかかり過ぎているような時もありました。それによって疲労度も高まったのは確かですし、他校から徹底的に研究されていたのも感じました」

「秋季リーグ戦は苦労するはず」(中西監督)という開幕前の心配が当たってしまった。開幕から順調に4連勝した後は連敗を喫してしまうなど、調子に乗り切れない時期もあった。

「開幕4週目あたりには全選手が揃う予定でしたが、その前に連敗をしてしまった。『我慢しながら何とか持ちこたえて、全選手が揃った時に一気に勢いに乗りたい』と思っていましたが甘くはなかった」

「少人数チーム(選手登録15名)なので、各自の負担は大きかったはずです。その一方で、選手個々が新たに『掴んだ』ものもあったと思います。チーム力の底上げは進んだと感じますので、今後もさまざまな選手を使って行きたいです」

「多くの選択肢ができつつあるのはプラスの悩み」と捉えてタダでは起きないつもりだ。不在だった選手もチームに合流、筑波大らしいバレーボールが戻りつつある。

中西康己監督は試行錯誤を重ねながら、現状に即した最適の指導を行なう。

~気温上昇下での過密日程は練習の質でカバーするしかない

大学バレーボール界の日程を考えると、春季リーグ戦後の夏場から秋口にかけては非常に重要な時期だ。コンディションを整えつつ更なる強化を図る期間だが、「近年の気候変化が選手への大きな負担にもなっている」という。

「気温上昇は想像以上で体育館内の温度と湿気はすごい。少し前のように根性論だけで乗り越えるのは到底、不可能です。パフォーマンスが上がらないのはもちろん、ケガや故障、体調不良に直結する可能性が高くなります」

「春季リーグ戦後に年代別の日本代表に選ばれた選手もいます。春から休養を取る時間がないままプレーを続けることになるので、肉体と精神の両方で疲労度合いは想像以上になります」

過密日程に加え、筑波大の練習施設には空調設備が完備されていない。「練習量や質に関しては十二分なほど気を配る」と強調する。

「エビデンスはないですが、高温高湿度内での活動が故障者やコンディション不良者が出るのに関わっていると感じます。疲労が溜まっている選手などは、特に回復しにくい環境だと思います」

「指導者の責任が大きくなります。練習の量(=時間)と質の両方について慎重に考えなくてはいけない。上達するためには両方が重要ですが、現在の環境下では質を上げていくしかありません」

例えば、データ上で「勝ち切るために決定率60%以上が必要」という時、今までは「10本中6本」の成功を選手に求めていた。しかし、数を減らして「5本中3本」の成功にシフトする時もある。「今までと同じではリスクだけが高まりマイナスしかありませんから」と悩ましげな表情も見せる。

「『これだけの数をやったら負けるわけない』という考えも間違ってないと思います。でも、そういう方法でやるのは現実的でなくなりました。ベストではなくベター、その時々に適した選択をするしかない。そういった方法を試して結果が出ているので、信じてやって行きたいと思います」

練習の量は落としつつも質を高めるなど、さまざまな工夫を行なって進化を目指す。

~選手個々が感じたことを言語化して話し合って欲しい

練習の質を高める中で大事にするのが、選手たち自身が気付いてコミュニケーションを取り合うことだ。

「自分たちで考えて話し合いながらやることで、できることも増えてくると思います。指導者から言われたままやるのではないので、選手同士の組み合わせが変わっても柔軟にできるはずです」

「練習中に私から選手に対してかける言葉や要求も変化しています。以前は細かい部分まで『こうしたらどうだ』と指導していました。今は選手自身に話し合ってもらうような、疑問を投げかけるようにしています。だから選手同士の話し合いが少なくなると、私からの問いかけが増える時もあります」

「選手同士が話し合うことでチームを構築して欲しい」と願う中で障害になっているのが、練習中に選手自身が行なうワイピング(=拭き掃除)だ。

「体育館の床が梅雨時期から夏場は湿気でウエットな状況になります。状況に応じて床に石灰を撒いてプレーすることさえある。ひどい時はワンプレーごとに選手みんなで床を拭きます。床を拭いている時間を選手同士が話し合う時間に使えればと思います」

「うまく行かない時、逆にプレーがバッチリハマった時。それぞれが感じたことを言語化、選手同が共有することで形としても残りやすいはずです。1プレーごとに一言でも良いからコミュニケーションを取れれば、チームとして大きく成長できると思います」

選手同士が常に話し合うことがチームとしての大きな成長を促すはずだ。

~上を目指し続けるために無理をしてしまうことが心配

「筑波大でのプレーを選んだバレーボーラーたちのスピリットは、以前と何も変わらないですよ」

中西監督は2019年の第6回ジャパンコーチズアワードで優秀コーチ賞も獲得した名将。長きに渡る指導歴の中、環境や時代の変化とも向き合ってきた。「Z世代」と言われ何かと話題になる年代の学生たちとの向き合い方についても聞いてみた。

「筑波大でプレーする選手たちは才能に恵まれている。高校までの実績を備えている人も多く、何よりバレーボールへの情熱が強い。『バレーボーラーはこうあるべき』と言う確固たる信念を感じさせてくれる。時代や世代などを感じることはありません」

「気持ちが入り過ぎることで無理をしてしまうことが心配。気候条件や練習環境等がきつい中、無理してはいけないところでも頑張ってしまう。そこをしっかり見極めてストップをかけてあげるのも我々の大きな仕事です」

「選手は常に上を目指して、自分が納得できるまでのプレーを追求する。だから、『練習量を減らす』ということに対して恐怖すら感じることもあるのではないか。そこの兼ね合いをうまくやって、試合の日にピークを迎えさせてあげたいと思います」

世間で言われる「時代の変化」はコート上では感じない。筑波大の伝統を創り上げてきた先輩たち同様、今の選手たちもアスリートとしての考え、心構えを十二分に持っている。

「筑波大のスピリットは在学中だけでなく卒業後も続きます。4年間頑張った後も競技を辞めることなく、次のカテゴリーや日本代表で頑張っている選手も多い。他にもさまざまな形でバレーボールに携わっている。バレーボールをさらに好きになれて成長できる学校ではないでしょうか」

筑波大はバレーボールへの大いなる情熱と向上心を持ったアスリートたちが、人間としても成長できる最高の場所のようだ。

筑波大女子バレーボール部での日々は、選手たちを確実に成長させてくれる。

「チーム全体で苦しんでいますが、その分だけ後で得られるものがあるはず。さらに成長できるチャンスだと思います。全てをぶつけて結果を手に入れられるように全力を尽くします」

山あり谷ありの大学バレーボールは人生の縮図のようだ。「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする」と述べた人がいたが、競技は違えども同様のことが言える。

2024年シーズンもまもなく後半を迎えるが、今季終了後に筑波大女子バレーボール部がどの位置にいるかが楽しみ。とびきりの笑顔と共に、選手の誰もが大きな成長を得ているはずだ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・筑波大学女子バレーボール部)

関連記事