NPBと独立リーグ~野球を続けたいという想い~

近年、NPBを戦力外になった選手、引退した選手が独立リーグに行くことは少なくない。
まず、昨年戦力外、引退したNPB選手のうち、独立リーグ関係に転身が決まった選手を見てみよう。
 
パ・リーグ
〇北海道日本ハムファイターズ
武田勝→石川ミリオンスターズ コーチ兼フロント
〇福岡ソフトバンクホークス
金子将太→栃木ゴールデンブレーブス選手
〇埼玉西武ライオンズ
中崎雄太→栃木ゴールデンブレーブス選手兼コーチ
〇東北楽天ゴールデンイーグルス                                
金無英→栃木ゴールデンブレーブスコーチ
                         
セ・リーグ
〇読売ジャイアンツ
加藤健→新潟アルビレックス球団社長補佐
金伏ウーゴ→栃木ゴールデンブレーブス選手
長江翔太→富山GRNサンダーバーズ選手
〇阪神タイガース
一二三慎太→石川ミリオンスターズ選手
岩本輝→福井ミラクルエレファンツ選手
〇東京ヤクルトスワローズ
田中雅彦→福井ミラクルエレファンツ バッテリーコーチ

巨人時代の加藤健選手
  
上記のように、現役に限らず、コーチ、フロントとして第二の野球人生を独立リーグで歩んでいく選手も多い。
現役選手としてプレーを続ける選手、再度NPBから声がかかるのを待つ選手、現役は引退し、指導者や職員として野球に関わる第二の人生を歩む選手。
独立リーグでの立ち位置、想いは人それぞれだが、
独立リーグがNPBを戦力外、引退となった選手の第二の野球人生、セカンドキャリアとしての受け皿になっていることは明らかだ。
 
そんな中、先日こんな興味深いアンケート結果を目にした。

8割以上の若手NPB選手は独立リーグには行きたくない!?

先日、NPBより「セカンドキャリアに関する意識調査」が行われた。対象はみやざきフェニックス・リーグ2016に参加した12球団所属選手。(277名回収。)
※回答者の平均年齢は23,1歳
http://npb.jp/npb/careersupport2016enq.pdf
 
このアンケートの引退後の職業意識についてという項目に注目していただきたい。
現役続行以外にも、監督、指導者等、野球関係の仕事に就きたい、興味があるという選手が多い中で、
「独立リーグで現役続行」という項目については、やってみたい、興味がある選手が15%に留まり、85%の選手が乗り気ではないことがわかる。
“野球”というコンテンツを扱うという点では独立リーグとその他の仕事に変わりはなく、
海外球団や社会人クラブチームでは現役を続けたいという選手は半数近くはいる。
 
なぜ、独立リーグに行きたくないのか。
 
その大きな理由の一つとして、金銭面が挙げられる。
チームにもよるが、独立リーグは年収150万程と言われており、妻子ある身はおろか、単身でも生活は苦しいものになるということは目に見える。
サラリーマンの平均年収よりもはるかに少ない。
それに対し、平均年俸は約3500万と言われているNPB。
支配下登録されれば、若手でさえ500万程の年俸は確実だろう。
その中で過ごしてきて、150万という数字を目にすれば誰もがためらう世界であることは否定できない。
他にもチーム専用の移動バスなどがなく、マイカーなどで移動しなければならないなど、
NPB一軍選手として活躍してきた選手にとっては劣悪とも取れる環境にもその要因はあるだろう。
これについては、NPB三軍選手にも通じる点であるので、また別の機会に述べたいと思う。
 
低い年収、劣悪な環境など、悪い面ばかり目についてしまう独立リーグだが、金額以上の魅力があるのではないだろうか。
それは、NPBという世界から退かざるを得なかった人の「野球を続けたい」「野球に関わりたい」という想いをつなぎとめるということである。
元千葉ロッテマリーンズ中後悠平投手は2015年にロッテを戦力外となるも、
その後BCリーグ武蔵ヒートベアーズに入団し、その選手生命を伸ばした。
中後投手はダイヤモンドバックス傘下に所属し、今ではメジャーリーガーへ後一歩という場所まで来ている。
トライアウトを受け、自分の思うプレーができず、NPB他球団からの獲得打診がなかったことから一時は現役から身を引くことも考えた。
そんな中後投手に“現役”という選択肢を与えたのがBC武蔵であった。
MLB数球団から声がかかったのは、中後投手のテレビ出演(「プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男達」TBS、2015年12月30日放送)による注目が大きいと考えられるが、
BC武蔵から声がかからず、そのまま引退していたらオファーは来ていたのだろうか。
オファーが来たとしてもMLBが獲得を決めていただろうか。
中後投手に自分のプレーを続ける場を提供したのがBC武蔵であった。
数ヶ月でも自分のプレーができなくなることは野球選手にとって大打撃である。
短い期間ではあったが、現役生活を延長させる場としてBC武蔵は大きな役割を果たしたと言えるだろう。
また、BC武蔵でプレーできたことは、現在、マイナーリーグで活躍している中後投手の一端を担っていると言っても過言ではないと私は思う。

独立リーグをもっと盛り上げるには

スポーツチームのビジネスに欠かせないものとして、「勝利」「普及」「資金」がある。
チームを知ってもらい、ファンを増やす(普及)。
ファンが増えたことにより、観客動員数やグッズ売上などが増え、球団への収入が増える(資金)。
資金が増えたことにより、選手のプレー環境の改善、良い選手の獲得など、チーム強化費に活用できる(勝利)。
強くなることでさらにチームの知名度も上がり、ファンやスポンサーも増え…、といったように、
「勝利」「普及」「資金」の3つがうまく循環することで、チームが成長していくのである。
切り口はどれでも良い。
魅力的なプレーをする選手がいる、女性に人気の選手がいるからファンが増えた、
大手企業がスポンサーについた、育成に成功、またはプレーの上手な選手が入団してチームが強くなった…
どれか一つの要素に強みを作ることができれば、徐々にではあるが、チームは良い方向へ進んでいくだろう。
 
チーム成長のために私たちができることはないだろうか。
一番身近な方法は「チームを応援、支援すること」、つまり普及、資金に関わることだろう。
近い地域にチームがある、地元出身の選手が独立リーグで活躍している、
NPBで応援している選手が独立リーグ出身だった、引退後独立リーグにいった、かっこいい選手がいる…etc、
探せばどこかに独立リーグとの繋がりはあるはずだ。
知る、だけで終わらせるのではなく、ぜひ、現地に行ってチーム、選手の想いを直接見て欲しい。
NPBとプレーの迫力の差などはあるとは思うが、「野球がやりたい」という想いはNPB選手には負けない。
お金には変えられないその想いが、彼らのプレーを引き立てていると私は思う。
ファンが増えることで、さらに独立リーグ、チームは盛り上がり、発展の好循環にも乗ることができる。
まずは、独立リーグへの興味を持つこと。独立リーグを知ってもらい、現地へ足を運ぶこと。
そのきっかけがこのコラムであったら私は嬉しく思う。

現在中日ドラゴンズで活躍している又吉克樹投手も独立リーグ(香川オリーブガイナーズ)出身だ。

“もっと野球がしたい”

NPBを戦力外となった選手は誰でも思うことではないだろうか。
その想いを受け止め、野球に関わることができる場を提供してくれるのが独立リーグである。
独立リーグは年収の低さなど、良い視点から報道されることは少ない。
しかし、何にも変えられない「野球を続けたい」という想いを、
NPBを引退したあとでも受け止めてくれる場となっていることは、さらに注目されるべきである。

呉地梨紗
早稲田大学文学部卒。学部を飛び越えてスポーツビジネスを学び、スポチュニティコラム編集担当として活動中。

関連記事