東北学院大・古谷龍之介、いざドラフトイヤーへ 成長を後押しした“独学力”と元プロ監督との出会い
岸孝之投手(楽天)、本田圭佑投手(西武)らを輩出した東北学院大硬式野球部に、今秋ドラフトでの支配下指名を目指す右腕がいる。古谷龍之介投手(4年=北星学園大付)。身長は173センチと小柄ながら、150キロに迫るストレートとキレのある変化球が光る好投手だ。
東北学院大が所属する仙台六大学野球連盟では近年、仙台大と東北福祉大が多数プロ野球選手を輩出している。先月のWBCでは、仙台大出身の宇田川優希投手(オリックス)と東北福祉大出身の中野拓夢内野手(阪神)が日本代表の一員として活躍。今秋のドラフト戦線にも、仙台大・辻本倫太郎内野手(4年=北海)、東北福祉大・後藤凌寿投手(4年=四日市商)ら複数人が浮上している。
一方、東北学院大は2017年のドラフトで鈴木遼太郎投手が日本ハムから6位指名を受けて以降、ここ5年間はNPBに進む選手が出ていない。ただ、古谷は「プロに行けるかどうかは自分次第。大学の名前は関係ない」ときっぱり。リーグ戦初戦を直前に控えた4月10日、己を磨いてきた東北学院大での日々や、ドラフトを見据える現在の心境について話を聞いた。
新型コロナ、学生監督…“想定外”の連続だった大学野球生活
古谷は北海道北見市出身。小学3年の頃から野球を始め、高校は札幌市の北星学園大付に進んだ。高校では2年次から公式戦で活躍し、3年夏の地区予選では5回参考記録ながらノーヒットノーランを達成。南北海道大会初戦で札幌第一にサヨナラ負けを喫したものの、この試合でも9回まで1失点に抑えるエースらしい投球を披露した。
高校時代からストレートには光るものがあった。高いレベルの球速と回転数を誇り、3年夏の練習試合では自己最速となる151キロを計測した。その投球に惚れ込んだのが、当時の東北学院大監督で岸らの恩師でもある菅井徳雄氏。誘いを受け、プロを目指すことを前提に同大への進学を決めた。
古谷は東北学院大について入学前は「全く知らなかった」というが、見学で訪れた際、「ある程度自由で、一人の時間が多く取れる」環境に魅力を感じていた。しかし入学当初、予期せぬ出来事に見舞われる。新型コロナの影響で春のリーグ戦が中止となり、全体練習も行われない日々が続いたのだ。硬式野球部の寮はないため仙台市内で一人暮らしを始め、大学近辺の公園でキャッチボールをしたり、大学のトレーニング室を使える日にウエイトトレーニングをしたりして、部活動の再開を待った。
さらに大学2、3年次は学生監督がチームを率いるようになり、身近に大人の指導者がいない状況になった。想定以上に「一人の時間」が増えた上、大人がいないことでチーム内に「緩い」雰囲気が漂っていることも感じていた。「ふざけた練習をしているわけではないけど、個人的にはもっと締まりのある練習をした方がいいのではないかと思っていた」と直近の2年間を振り返る。
成長につながった「一人の時間」の使い方
そんな中、リーグ戦では2年春から結果を残す。このシーズンは3試合に先発し、22回を投げ防御率2.45、18奪三振。東北福祉大戦で7回3分の2を2失点、仙台大戦で7回3分の1を3失点と上位校相手にも好投し、優秀新人賞に輝いた。2年秋は右肘の故障で棒に振ったが、昨春復帰すると、昨秋は4試合、27回を投げ防御率2.33、20奪三振と完全復活を果たした。
リーグ戦デビュー以降、東北福祉大、仙台大との対戦時は全5試合でクオリティスタート(6回以上を自責3以内)を継続中。昨秋も東北福祉大戦で8回無失点、仙台大戦で8回3失点と「2強」の打線を牛耳った。間違いなくスカウトへのアピールとなっているはずだが、本人は昨秋の結果を「内容を見ると四球や抜け球が多く、まだまだ。運がよかっただけ」と冷静に振り返る。
一方、ストレート、変化球の進化は古谷自身も実感している。大学での最速は2年春に出した149キロで、球速が大きく伸びたわけではないが、体重が高校時代と比べて約15キロ増えたことで「キレや重みは増した」と自己分析する。また高校ではカーブ、スライダーの2種類だけだった変化球は現在、カーブ、スライダー2種、カットボール、ツーシームと多彩になり、特に大きく曲がるスライダーは決め球にも使える武器となった。
決して恵まれたタイミング、環境とは言えない大学野球生活。それでもプロ志望を抱き続け、進化を遂げることができたのは、「一人の時間」をうまく使う癖がついていたからだ。ユーチューブなどで動画を見ながら投球フォームの研究をするのは、高校生の頃からの日課。全体練習後は外で遊ぶより、自宅でトレーニングに励む方が充実感を得られる。何が起きようと、どんな環境に身を置こうと、やるべきことは一貫して変わらなかった。
元プロ新監督に学び、ワンランク上の投手へ
この春は、新たな出会いもあった。東北学院大ОBで巨人、西武で捕手としてプレーした星孝典氏が、新監督に就任したのだ。「意図のある練習や、個人個人に合った練習をさせてもらえるようになった。捕手をされていたので、配球やゲームのつくり方について教わることができるし、プロ野球の世界のことを聞けるのもありがたい」と話すように、元プロの指導者と対話することで、独学では身につかなかった知識や考え方に触れている。
「今までは自分の投げたいボールをアバウトに投げていたけど、それだけでは打たれてしまう。打者の反応を見て投げるボールを変えるなど、これまで考えていなかったことを考えられるようになってきた」
実戦の中でも、少しずつ手応えをつかんできている。あとは公式戦のマウンドで、磨いてきた実力と習得しつつある投球術を見せつけるだけだ。「ドラフトを迎える実感が湧かないし、自分の名前が呼ばれるのかなという不安もある。春の結果次第なので、しっかり結果を出してできれば支配下で指名されたい」。注目の大学ラストイヤーが幕を開ける。
(取材・文・写真 川浪康太郎)