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「第30回ゼット杯争奪 関東甲信越身体障害者野球大会」千葉ドリームスター 新主将が「感動を覚えた」10年のストーリー

8月24日、浦安市運動公園球場で「第30回ゼット杯争奪 関東甲信越身体障害者野球大会」が行われた。千葉ドリームスターが2年ぶり3度目の優勝に輝いた。

大会にはプロ野球史に名を刻む面々も登場し、熱の冷めやらない一日となった。

(写真 / 文:白石怜平)

球界の大打者と名審判による熱き開会式

「関東甲信越身体障害者野球大会」は毎年6チームで行われている身体障害者野球の地区大会。

この大会に優勝したチームが11月に兵庫県豊岡市で開催される「全国身体障害者野球選手権大会」への出場権を獲得できる。第30回の節目となる今年は、17年以来7年ぶりに千葉県で開催された。

千葉ロッテマリーンズもファームで試合を行う浦安市運動公園球場が会場となり、同県の市川市を中心に活動する千葉ドリームスターが大会を主管した。

地元開催で選手宣誓を務めたドリームスターの山田龍太選手

開会式では豪華メンバーによって彩られた。大会長として登場したのは千葉県出身でドリームスターのGMを務める小笠原道大氏。

今年は3月の交流大会に足を運び、さらに6月の「全国身体障害者野球大会」では現役時代にプレーしたほっともっとフィールド神戸に駆けつけ、特別ゲストとして激励の挨拶を務めた。

今回はプレゼンターと挨拶を務め、選手たちの背中を大きく押す言葉を送った。

ドリームスターのGMでもある小笠原氏

「本大会は30回目を迎えました。関係者の皆様にご尽力いただいたおかげだと思います。そして選手たちの熱意があるから、ここまで来れたと思います。

選手の皆さんには、野球を始めたときのような楽しい・上手くなりたい、その気持ちを今一度思い返して、みんなで協力し合って良い試合・良い大会になることを願っています。頑張ってください!」

そしてもう一人は山崎夏生氏。NPB審判として29年、審判技術指導員として8年と計37年間プロ野球の世界に身を置いてきた名審判。

この日は「皆さんの心を熱くする」ため、”燃える審判を象徴する”赤いユニフォームで特別に登場。審判代表としてマイクの前に立つと、会場のボルテージを一瞬にして上げた。

球場にさらなる熱気をもたらした山崎氏

「山崎夏生69歳、元気な大男です。私は根っからの審判好きですので、今も現役でアマチュア球界でやっています。

高校・大学・社会人・草野球そして女子野球、ありとあらゆるカテゴリーでグラウンドにいます。そんな中、3年前に出会ったのが身体障害者野球でした。その時の衝撃は今も忘れません。

見逃し三振時には代名詞の”パンチアウト”を披露した

近いところは全てグラブトスで投げる。遠くに投げる時はグラブを外したその手で投げる。そんな投げ方をします。

打つ方では一本足打法ならぬ一本腕打法もあります。また、打者の代わりにランナーとして走る。まさにチームプレイです。野球は”チームでやる”ことを改めて教えてくれました。

あと何よりもグラウンドで選手みんなが笑顔に溢れており、自分がエラーをしたら全力で悔しがる。この野球に出会えた事は、私にとって素晴らしい出会いでした。

今日は初戦の球審を務めますが、全チームを応援します。では、プレイボール!」

この後、小笠原氏は始球式に登板。マウンドの前に立ち記念すべき第一球を投げ込んだ。

最後に始球式で一球を投じた

グラウンドで躍動した赤き戦士たち

ドリームスターは初戦、信濃レッドスターズと対戦した。一回表から主将が打線に勢いをつける。3番・遊撃で出場した土屋来夢がランニング本塁打を放ち2点を先制。幸先よく試合の主導権を握った。

攻守で牽引した土屋来夢

2回表には2番に入った中䑓(なかだい)陵大も3ランとなるランニング本塁打を放つなど、この回で5安打を集中し7得点をマーク。投手陣も2人で3イニング投げ無失点リレーとなり、規定により12−0でコールド勝ちし決勝へと進出した。

昨年8月から約一年間の充電期間を設け、今月初旬に戦列へ復帰した元主将。

この期間については「トレーニングは多く積んでいてパワーが上がっている実感もあったので、その結果が出たと感じています」とプラスとなっていた。

打球は逆方向の左中間へと飛んでいき、打者代走のランナーも悠々とホームインした。

「打った瞬間、本塁打になる感触があって、ランナーもあまり体力を消耗しないで還って来れると思いました。

大会2週前くらいまでは満足な結果が出ていなかったので、復調を期待して大会まで機会を与え続けてくれたスタッフ・選手に感謝です」

鋭く振り抜いた打球は外野手の間を深々と破った

決勝の相手は昨年準優勝の東京ブルーサンダース。一昨年の同大会決勝以来の組み合わせとなった。

序盤は互角の展開に。2回表ブルーサンダースの攻撃を終え、5−4とドリームスターが1点リードし裏を迎える。

四球と安打でチャンスをつくると、2試合で4番に入った鈴木貴晶が左中間を破る三塁打などで得点を加えた。

さらに6番に入った梶本祐介も左翼の頭上を越える三塁打を放つなど打線がつながり、この回だけで8得点をマークした。

梶本はこの打席について「高めに浮いたストレートを狙い打ちしました。バットがボールの軌道に綺麗に入ってくれたので、いい結果となりました。次のバッターに繋げることに必死でした」と、気持ちで打った一打だと語った。

左翼の頭上を大きく越える三塁打を放った梶本

激走も見せ、三塁に到達すると右の拳が自然と上がった。

「打った時には長打になることは分かっていたので、少しでも次の塁にと全力で走りました。チームメイトとスタンドからの歓声に安心した気持ちと久しぶりに興奮しましたね」

次の回はブルーサンダースが追い上げを見せるも、規定の試合時間である90分を迎え3回表でゲームセット。ドリームスターが2年ぶりの大会制覇となり、秋の選手権大会への挑戦権を獲得した。

大会MVPには決勝戦で先発し勝利投手となり、打っては2試合に出場し初戦に2打点をマークするなど投打の両方で活躍を見せた山岸英樹が選出された。

MVPに輝いた山岸

現在は陸上の走幅跳・やり投でロサンゼルスパラリンピック出場を目指しており、小学生の時から慣れ親しんでいる野球でまずは堂々たる結果を残してみせた。

連日やり投に臨んだ影響もありながらも「なんとかリカバリーして投げきった」と競技を両立させた。

打撃も逆方向に長打を打つなど持ち味に磨きがかかり、「得点圏だったのでセンター方向イメージで合わせに打ったら逆方向に飛んでくれました」と打席を振り返った。

共に成長し、頂点を掴んだ10年の軌跡

優勝を果たし、特に喜びを表したのが主将の背番号「10」を背負った土屋である。関東甲信越の頂点に立ったことについて、「ホッとしましたし、感動を覚えた」と語った。

というのもドリームスターに入団して今年でちょうど10年、チームと共に自身も成長してきた過程があったからである。

チームの進化とともに歩んできた

14年暮れ、15歳の時に現監督である父・純一とともに門を叩いた。当時はまだ全国大会に進出するようなチームではなく、入団を機に野球を始めたメンバーで多く構成されていた。

そこから3年が経った17年、前回の地元開催となった本大会で初めて決勝戦へと進出。以降は全国身体障害者野球大会にほぼ毎年出場するなど、全国大会への常連チームへと進化していった。

自らも全国トップレベルの選手が集まる舞台で結果を残し続け、昨年には日本が世界一に輝いた「第5回世界身体障害者野球大会」の代表に東日本のチームで唯一選ばれた。

昨年は日本代表としてプレーした

そして今年からドリームスターの主将に就任。名実ともにチームを象徴する選手となった。

「7年前の地元開催時は、”自力で神戸(春の全国大会)”を目標としてたチームが、今や人も増えて地力も上がって”優勝する”という目標を立てて達成できたストーリーに感動を覚えたんです。真剣に野球と向き合ってきたからこそ味わえた特別な時間でした」と、感慨深く振り返った。

全員で喜びを分かち合った

共に感動を味わったのが今年7月にヘッドコーチから監督となった父・純一である。

練習メニューも入団から10年以上ずっと組んでおり、「打ち勝つ野球がしたかった。3年前から打撃練習に比重を移して練習してきたので成果を発揮してほしかった」と目指す野球を明確に示した。

打順についても「下位打線という考えではなく、どこからでも得点を狙えて相手投手は息の抜けないイメージでオーダーを組みました」と語り、いずれも2桁得点をマークする描いた通りの結果となった。

自ら走者にも指示を送った

2試合で打率5割以上をマークするなど、MVP級の活躍を見せた土屋。

「以前より打力が付いてきましたし、組織的な攻撃ができるようになってきました。練習の成果が出てきているなと感じています。

また、選手みんなが落ち着いてプレーしている印象もあり頼もしかったです。一つ階段を上がれたのかなと感じた大会でした」と確かな手応えを語った。

チーム全体を見て感じたことがあった

三塁コーチャーズボックスに立ちグラウンドから采配を振るった指揮官は、

「試合に出ていない選手もいました。監督としては全員出したい気持ちは大いにありましたが、勝つ事にこだわりました。ベンチの雰囲気はとても良く、スタッフを含めたベンチワークも上手くいった事も勝因です」と全員に感謝を述べた。

11月2日と3日に行われる選手権大会。2年前は初戦敗退となっており、今回初勝利を目指す。ドリームスターの24年シーズンの挑戦はまだまだ続いていく。

(おわり)

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