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東北工業大硬式野球部の密着ドキュメンタリーが完成!取材114回…制作者・横田美月さんが伝える“素の工大”

 東北工業大4年の横田美月さんが東北工業大硬式野球部に密着取材したドキュメンタリー作品が完成し、22日、長町キャンパスで試写会が行われた。下級生からすでに引退した4年生まで多くの部員が集まり、昨年の戦いぶりやその裏側を特集した映像を食い入るように見つめた。

 作品は3月8〜12日に東北工業大一番町ロビー(仙台市)で開催される展示会で一般公開する予定。展示会は横田さんが所属する東北工業大ライフデザイン学部経営コミュニケーション学科「猿渡研究室」の主催で、期間中は午前10時から午後5時半まで作品を展示する(最終日は午後4時まで)。また猿渡研究室と仙台六大学野球連盟のYouTubeチャンネルでの公開も検討している。

一般公開に先立ち、部員へ初お披露目

 作品のタイトルは「足跡」。昨年の仙台六大学野球リーグ戦で春4位、秋3位と躍進した硬式野球部の物語を、実際の試合、練習の映像や選手、指導者へのインタビューなどを交えながら描いている。

試写会で作品を鑑賞する選手たち

 約30分の上映が終わると、教室中から拍手が沸き起こった。横田さんは部員らに向け「大学4年生の期間、ただバイトをして、海外旅行とかを楽しむ過ごし方もできたけど、みんながいたから私の大学生活は特別なものになった。みんなには感謝しています」などと挨拶。目には涙を浮かべていた。硬式野球部からも感謝の気持ちを込め、花束と特製ユニホームがプレゼントされた。

充実の9か月と、苦心した制作期間

 横田さんの密着取材は昨年2月18日にスタートした。研究室の先輩の作品を見てドキュメンタリー制作に興味を持った折、硬式野球部の目黒裕二監督と出会ったことがきっかけだった。

 秋季リーグ戦を終えた後の11月19日まで約9か月、硬式野球部に密着。取材の回数は114回を数えた。練習中はカメラを回しながら積極的に選手たちと会話を交わし、日によっては1日9時間程グラウンドにいることもあった。横田さんは「朝のミーティングから参加することで私が本気で取材しようとしていると伝わったからこそ、受け入れてもらえた」と話す。

硬式野球部が練習するグラウンドでカメラを回す横田さん

 インタビュー映像など、膨大な量の素材が集まり、制作にはかなりの時間を要した。「作り終わるのかな…」。焦りを感じることもあった。12月、前後編2本に分けた作品が完成。しかし、根底にあった「みんなの頑張りを広めて、応援してくれる人を増やす」という目的のためには1本にまとめるべきだと考え、研究室のメンバーから字幕の入れ方や映像を切り替えるタイミングに関するアドバイスをもらいながら編集に編集を重ねた。

 1本にまとめるため、泣く泣く使うのをやめた映像は山ほどある。「本当はもっと使いたいエピソードがあったし、もっと丁寧に描けたと思う」。葛藤を繰り返し、後悔しながらも、伝えたいことを最大限、作品に詰め込んだ。

密着取材が選手の目の色を変えた

 横田さんの思いは選手たちにも伝わっている。

 作品を観た菅原仁平・前主将(4年=仙台商)は「引退した身として、野球をやってきてよかったと思えた」と笑顔を浮かべた。密着取材が始まると聞いた時は「素直に嬉しかった」。同学年で同学科に所属する横田さんから「野球部は学内で怖く見られがちだから、その印象を取っ払いたい」との思いを聞いたことが忘れられず、「自分たちも行動に責任を持って、一生懸命やらないと」と気を引き締めて練習に励んできた。

新チームで主将に就任した檜森。作品を観て、春に向け気持ちを新たにした

 新主将の檜森雄太内野手(3年=仙台育英)は「学校の部活動をドキュメンタリーにしてもらう機会はなかなかない。感動しましたし、『春に向けてまた頑張ろう』と思わせてくれるような作品でした」と感想を口にした。横田さんとは取材時だけでなく、プライベートでも相談に乗ってもらうほど密にコミュニケーションを取ったという。日頃の努力を間近で見続けてくれる横田さんの存在が、選手たちのモチベーション向上につながった。

「きっと、かっこよく映っている」

 横田さんは作品の見どころについて、「硬式野球部の子たちは学内であまりよく思われずに、レッテルを貼られて生きている子が多いんです。レッテルを貼られることに慣れてしまっている部分もあります。でも、先入観を持たずにこの作品を観てもらったら、『部活を頑張る普通の男の子たちなんだな』というのが分かると思います」と力を込める。作品には、何度も取材を重ねたからこそ引き出せた笑顔や真剣な表情が散りばめられている。

硬式野球部が横田さんへ贈ったユニホーム(本人提供)

 「この作品は、硬式野球部のみんなが作り上げた事実を私の視点から見た物語。物語にはなっているはずなんですけど、みんなにとっては普通の話なんです。例えばケガをするとか困難なことがあっても、それを普通に乗り越えてしまう姿を見たら、素直な気持ちになれると思います。みんなの素の部分を見てほしいです。きっと、かっこよく映っているので」。

 30分間に凝縮された、ありのままの物語。とくとご覧あれ。

(取材・文・写真 川浪康太郎/一部写真 本人提供)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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