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「第31回全国身体障害者野球大会」岡山桃太郎が日本代表選手らの猛打で初優勝 9月の世界大会連覇へ向けた確かな1歩

5/13〜14の二日間、神戸市で「第31回全国身体障害者野球大会」が開催された。全国38チームから選抜された7地区、16チームが神戸に集結し、雨も強まる中で2日間戦い抜いた。

(取材協力:NPO法人 日本身体障害者野球連盟、文:白石怜平)

9月に名古屋で開催される”もうひとつのWBC”

「全国身体障害者野球大会」は、NPO法人日本身体障害者野球連盟(以下、連盟)が主催している全国大会の一つ。

毎年5月に行われる大会で、”身体障害者野球の甲子園”とも称されている。連盟が発足した1993年に第1回が行われて以降、今回で第31回目となった。※1995年、2020年は開催中止

31回目を迎えた「全国身体障害者野球大会」

今年は身体障害者野球にとって特別な一年となる。9月9日〜10日にバンテリンドーム ナゴヤで「第5回世界身体障害者野球大会」が開催されるためである。

同大会は、2006年にWBCで初代世界一に輝いた日本からの提案で、同年11月に第1回がここ神戸で開催された。以降4年に一度行われ、”もうひとつのWBC”と呼ばれている。新型コロナウイルスの影響により昨年から1年延期され、今回第5回目が開催されることになった。

本大会は”WORLD DREAM BASEBALL(以下、WDB)”と称し、5カ国・地域による総当たり(日本・大韓民国・台湾・アメリカ合衆国・プエルトリコ※順不同)で行われる。

1月には松山で結団式が行われた(中央は名古屋ビクトリー 松元剛主将)

決勝は初進出の京都と強豪・岡山との対決に

大会の会場は例年通り、ほっともっとフィールド神戸とG7スタジアム神戸で行われた。神戸市は2日間雨予報となり天候が心配されたが、決勝戦まで全日程を消化した。

大会の組み合わせ表(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

決勝戦は京都ビアーフレンズと岡山桃太郎の組み合わせ。

京都ビアーフレンズ(以下、京都)は1986年に誕生。身体障害者の自立を目的とする施設「京都太陽の家」がルーツ。「太陽」のように輝き「麦」のように力強く生きてゆこうという精神から愛称が名付けられた。

決勝戦に臨む京都ビアーフレンズナイン

京都は初戦の東京ジャイアンツ、準々決勝の千葉ドリームスターに連勝。

準決勝では、本大会優勝18回の名門・神戸コスモスと昨年まで2連覇中の名古屋ビクトリーを破り勝ち上がってきた東京ブルーサンダースと対戦。ここでも序盤から効率的に得点を挙げ、7−0で勝利し決勝へ進出した。

対する岡山は秋の全国大会である「全日本身体障害者野球選手権大会」で3連覇中。9月のWDBでも名古屋と並び、チーム別では最多の代表選手5人を輩出している。

WDBでも活躍が期待される右から早嶋健太・井戸千晴・浅野僚也

昨年春の第30回大会では決勝に進むも、名古屋に2−4で敗れ準優勝。意外にもまだ春の大会では優勝がなく、今回初制覇を目標に神戸へと乗り込んだ。

京都とはかねてから練習試合を行ってきたなど交流が深いチーム同士。岡山を率いた谷藤隆行監督も、

「昔は順位決定戦で当たっていたと思うのですが、今回は決勝で対戦することができた。お互いにレベルアップできたということなので、うれしかったです」

と対戦できることに喜びを見せた。

日本代表選手ら打線が繋がり、春の大会初制覇

決勝戦は14時50分に開始。この日は予報通り朝から雨が降り続けており開催も危ぶまれたが、早朝からグラウンドキーパーの方々の尽力によりG7スタジアム神戸で開催することができた。

試合は初回から大きく動く。先頭の早嶋が四球で出塁すると、その後無死一・二塁に。続く3番・井戸の内野ゴロの間に早嶋が快速を飛ばし二塁から本塁へ還り先制した。

続く二・三塁から5番・萩原龍斗は左翼の頭を大きく越える走者一掃の三塁打、6番で日本代表の高月秀明がランニング本塁打を放つなど、初回から5点を挙げた。

走者一掃の三塁打を放った萩原

岡山の先発はエース・早嶋。WDBでは18年の前回大会で、日本の世界一に貢献し大会MVPを獲得。今大会でもサウスポーの藤川泰行(名古屋)とともに、日本代表右のエースとして活躍が期待されている。

序盤に大量援護をもらいマウンドへ上がった早嶋は、この回を3者凡退に抑えた。

先発マウンドに立った早嶋

2回表、岡山打線がさらに火を吹いた。早嶋の二塁打などで一死満塁のチャンスをつくると、打席は4番・浅野。中前への適時打で追加点を挙げここから猛攻を見せた。

適時打を放った4番の浅野

打者一巡となり井戸が左中間への二塁打、そして高月のこの日2本目のランニング本塁打を放つなど日本代表勢の活躍もあり、この回だけで14点を叩き出した。

2回に二塁打を放った井戸(写真上)と、2本塁打を放った高月(同下)

一方、京都もこのままでは終わらないと意地を見せる。3回裏、9番・住田昌也が早嶋からストレートを弾き返し三塁打とすると、1番の主将・稲翼が適時打を放ち一矢を報いた。

早嶋から適時打を放った稲

本大会では、天候を考慮して1試合の制限時間を100分から80分へと短縮した。3回を迎える時点で残り20分を切っていたためこの回が最終回。早嶋は1点を失うも完投し、岡山が19−1で春の大会初優勝を決めた。

「年間無敗にチャレンジ」秋の大会4連覇へ

試合後は天候とグラウンドコンディションを考慮しながらの表彰式が行われた。大会MVPは準決勝で本塁打を放つなど4番として打線を牽引した岡山の浅野、優秀選手賞には京都の稲が選ばれた。

大会MVPを獲得した浅野

谷藤監督は試合後のインタビューでは初めて春の大会を制したことについて、

「春ずっと優勝できていなかったので、今年こそはと言うつもりで臨みました。凄くうれしいです」と笑みを交えて答えた。

ここまで春の大会で頂点に届かなかったのは、冬を越えた時の打撃の調子が上がりきらない点と分析していた谷藤監督。今大会は4勝のうち3勝が2桁得点をマークしており、その課題を克服した。

また、秋とは違う収穫もあったと谷藤監督は明かしてくれた。

「決勝戦の試合で、ベンチ入り選手全員が出場できた。決勝の舞台をみんなが踏んで優勝できたのは、昨年の秋にできなかったことなので、喜びがより増しています」

11月の全国大会では、4連覇とともに年間無敗での完全優勝がかかる。谷藤監督も強く意識しており、

「初めて春を優勝できて、”年間無敗”にチャレンジできるのは初めてなので、秋も勝ち獲れるよう練習していきます」

と意気込んだ。そして、準優勝となった京都からは稲が大会を振り返った。

「決勝に行けたのは、久しぶりに思いっきり野球ができる喜びを噛み締めながらできたことが結果につながったと思います。決勝の相手岡山さんにも全力プレーで臨みましたが、力及ばずでした。でも最後に意地の1点を取れた。悔しかったですが、楽しくやれたので良かったです」

主将としてチームを牽引し優秀選手賞に輝いた稲(写真左)

取材時に発していたキーワードは”楽しむ”ことだった。プラス思考で楽しむ気持ちを持ち続けたことがチームに勢いをもたらしたという。また、自身も日本のエース早嶋から1点を奪う適時打を放つ活躍を見せた。

「このままで終わりたくないと思い食らいつきました。僕もこの2日間調子が良かったので、絶対打てるという気持ちで打席に立ちましたし、1点だけは絶対に奪おうと。日本のエースから打てたので今後につながると思います」

無事、全日程を消化し大会を終えることができた。連盟の山内啓一郎理事長は、

「雨天で大会の実施が危ぶまれましたが、試合時間や会場変更を行い、多くの方の協力で大会を終えられたことを嬉しく思います。また日本代表選手の活躍も見られ9月の世界大会が楽しみです」

9月に「JAPAN」の監督として世界一を目指す(1月撮影)

と安堵の表情を見せた。山内理事長はWDBでは日本代表監督を務め、指揮を執る。春の大会を弾みにし、連覇そして4度目の世界一へと挑戦する。

(おわり)

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