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明治大学野球部アナライザーの進化 〜彼を知り己を知れば百戦殆うからず〜

昨年秋に日本一を達成した明治大学野球部

リーグ優勝を決めた2022年5月23日東京六大学立教3回戦(明大スポーツ新聞部提供)

2022年東京六大学野球リーグでは春秋連覇を果たし、秋の明治神宮野球大会では7度目の優勝を成し遂げた明治大学硬式野球部は名実ともに大学野球界のトップを走る。2022年ドラフト会議では主将の村松開人内野手が中日ドラゴンズから2位で指名され、13年連続でドラフト指名を勝ち取るなどプロからも注目される。

2022年にアナライザーを新設

データ分析の重要性が説かれる現代野球においてアナライザーやデータ班を設置する野球部や社会人野球のチームは多い。明治大学野球部では2022年からアナライザーを設置した。明治大学硬式野球部の田中武宏監督は「それまで控えの選手がやっていたデータ分析を専門の役職を設けてやらせることにした」と明かし、当初はこれまでの活動の延長線上となる役職に過ぎなかった。

私がアナライザーになったわけ

試合の撮影を行う中薗遼太郎アナライザー(明治大学野球部提供)

中薗遼太郎アナライザー(2年=県立船橋)は高校時代、カットボールを得意とするオーバースローのピッチャーであった。中薗は当初は選手として大学野球を続けることを考えていたがアナライザーを選んだ。

中薗は「六大学の野球を神宮球場で見た時にこのまま選手として4年間やっても大丈夫なのかなという不安は正直あった」と出場機会が少ないことを不安視していた。

中薗は大学にアナライザーという役職があるのを知り、リーグレベルの高い六大学の野球のチームの野球を間近で見たいと思ったと入部の経緯を語る。

野球観戦が趣味と語る石田健太朗アナライザー(明治大学野球部提供)

石田健太朗アナライザー(2年=大阪三島)は選手やマネージャーから”イシケン”の愛称で親しまれる。

「自分は高3の時に勉強をサボって浪人してるんですけど、両親が野球好きで(受験の時に)迷惑をかけたんで喜んで欲しいと考えて、野球に関わろうと思った」

石田は憧れの人として映画「マネーボール」で主人公として描かれたビリー・ビーンを拳げる。「受験中にたまたま息抜きでみた映画が『マネーボール』だった」と語るが、その時からアナライザーは彼にとって縁のある役職であった。

様々なデータを用いて選手を支える

選手にアドバイスを送るアナライザー(明治大学野球部提供)

アナライザーの仕事は多岐にわたる。試合の撮影、選手のデータの計測、選手へのアドバイスなど数えきれない。リーグ戦期間中には対戦する相手大学の選手の特徴を分析し、データミーティングで選手や首脳陣とともに作戦を話し合う。

投手は主にラプソードを用いて分析する。ラプソードでは球速・回転軸・変化量・回転数など様々な指標を計測することができ、多くのチームが導入している。

中薗がアナライザーとして入部する以前にもラプソードは設置されていたが、選手の間ではデータに対する関心度が低く、十分に活用されていなかった。

最近は著名なプロ野球選手が測定器を練習に用いていることが野球部内で話題になったこともあり、データを計測したいと言う選手が多く、少しずつではあるが、明治大学野球部にもデータを活用するという考えが根付いてきたと中薗は振り返る。

野手は主にBLASTと呼ばれる測定器を用いている。BLASTではバットスピードやアッパースイング率、バット角度など様々な指標を計測することができる。スイングごとに緑色黄色赤色の三段階でスイングが評価される。

石田はスイングの中で悪いと評価されたもののどこが悪くどこを改善すべきかを自分なりに考えて選手に伝えている。タブレット上に表示されたバットの軌道を選手とともに見ながら相談することもある。

選手のデータに対する意識を高める

アナライザーにとって相手チームの分析は欠かせない(明治大学野球部提供)

新設の役職ならではの苦労もあった。石田は「初めは何をして良いのかが分からなかったのがスタートだったので、最初の4月は時間を持て余しているだけで何もできていない状況が辛かった」と振り返る。

最初はデータを分析するという概念がチームにあまりなかった。中薗は「そもそもこのチームにデータ班はあったのですが、それは今まで選手をやっていた人が、途中で交代とかで途切れ途切れで(やっていたもので)あまりこのチームにデータが浸透していなかった」と話す。

それでも1年の月日を経て、データを意識する選手は増えていった。アナライザーは様々な工夫をこらす。

中薗は選手の感覚を大事にしている。数字を良くしようとするのではなく、選手に自分の感覚を先に確かめてもらい、その上で、どの感覚の時に良い数字が出ているか確認する。

石田はデータの伝え方を工夫する。「データミーティングでは元の数字のまま伝えないようにしていて、可視化するなど、別に見やすい伝え方があるのではないかということを常に考えている」と選手にとって分かりやすいデータの提供に努める。

分析を活かして復活した蒔田稔

ドラフト候補としても注目される蒔田稔投手(明大スポーツ新聞部提供)

2022年六大学野球春季リーグで4勝を挙げベストナインを獲得した蒔田稔投手(4年=九州学院高)は日頃からデータを意識するという。

ストレートのMLB平均の回転数は2200台であるが、蒔田のストレートの平均回転数は2400と語る。ストレートのホップ量もメジャー平均が40cmであるのに対して、蒔田のストレートは調子の良い時は5-60cmを計測する。

データを意識する効用について「数値化してもらえると、自分の中で悪い時にどうなっているのかというのを具体的に数字として見ることができるので重宝している」と語る。

春のリーグ戦では防御率1.90とエースとして活躍した蒔田であったが、秋のリーグ戦では防御率4.61と苦しんだ。それでも、秋のリーグ戦後に行われた明治神宮野球大会では準決勝の名城大戦で5回1失点の好投を見せた。

アナライザーの分析を活かしてフォームをもう一度見直した。「秋のリーグ戦から2週間くらいあったので修正できた。あの時も万全という状態ではなかったのですがある程度形にはなる状態に持ってこられた」

アナライザーの力を借りながら、最終学年となる2023年はさらなる飛躍を誓う。

アナライザーを深く信頼する上田希由翔

愛読書は東野圭吾と語る上田希由翔内野手(明大スポーツ新聞部提供)

1年次から4番を務め、大学日本代表にも選出された上田希由翔(4年=愛産大三河高)もアナライザーを深く信頼する一人だ。

「結構お願いしてることも多いので、また変なこと言ってるわと思ってると思います。『自分だけデータの送り方変えて』と言ったりしているのでそういう面で手間かけてるかなと思う」

上田は、チームでのデータミーティングより前に自分のデータを見たい、と要望するほど、誰よりもデータに真摯に向き合い、研究熱心だ。

自身の強みをデータを用いて説明する。

「自分はオンプレーンが平均80%くらいですけどそこを保てるようにバッティングをしている」

オンプレーンとはボールを線で捉える割合のことだ。ボールを線で捉えることができると、点で捉えるよりもミートゾーンが広がり、よりバットにコンタクトすることができる。一般的には70%を超えることが理想とされている。

アナライザーからアドバイスを受けることも多い。「バットと体の回転が弱いと伝えてもらっているのでそこの数値をどう上げようか試行錯誤している」

三冠王、そしてプロ入りを目指す上田にとってアナライザーは必要不可欠な存在となっている。

レベルの高い野球を支える喜び

プライベートでも仲の良いアナライザーの二人(明治大学野球部提供)

アナライザーのやりがいについて中薗は「プロ野球選手が毎年出るようなチームのレベルの高い野球を間近で、しかもデータとして詳しく見ることができることはすごく面白い」と話す。

石田にとってもそれは同じだ。「アナライザーになっていなかったらこんなレベルの高く、意識の高い人と出会えていない」

アナライザーにとって選手やチームの活躍は何よりも励みになる。中薗は「選手や指導者に有益なデータを与えることができ、感謝されたり、チームが勝ったりすることは自分の中でもモチベーションになる」と喜びを口にした。

アナライザーは進化を続ける

グラウンドでデータの計測を行うアナライザー(明治大学野球部提供)

中薗は新しい技術の導入にも関心を持つ。

「バッティング用にもラプソードが欲しい。BLASTではその選手の(バッティングの)軌道を測っているが、(バッティング用の)ラプソードではその選手の打球角度や打球スピードを測れるので、(両方を組み合わせることで、打者の)スイングによってどういう打球が飛んでいるのか分析したい」

中薗は「アナライザーという役目をチームに根付かせたい」と力強く宣言する。

石田は「ラプソードやBLASTなど前よりはデータの面で設備は整ってきたと思っているんですけど、まだまだできることはあると思う」と向上心を見せる。さらに、「(アナライザーのシステムの)礎作りをやっていきたい」と語る。

大学日本一の野球部を支えるアナライザーは進化を続ける。

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