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東北大の2年生右腕が復活の1失点完投、惜敗の仙台大は明るい材料も~仙台六大学野球春季新人戦総括(後編)

 6月17、18日、仙台市の東北福祉大野球場で、仙台六大学野球春季新人戦が開催された。仙台大と東北大は準決勝、東北学院大と宮城教育大は1回戦で敗退したものの、多くの1、2年生が秋に向けてアピールした。後編では、活躍が目立った4大学の選手たちを紹介する。

前編はこちら

“怪我の功名”で手にした投球術

 東北大は1回戦の東北学院大戦に3-1で勝利した。準決勝は東北福祉大に0-24で敗れる屈辱を味わったが、下級生の実力を示す価値ある1勝だった。

 東北学院大戦では、先発した佐藤昴投手(2年=仙台一)が9回4安打2四球1失点で高校以来という完投勝利を挙げた。2回にソロ本塁打を浴びるもその後は危なげない投球を続け、最後は2死二塁から得意のスライダーで空振り三振を奪い、安堵の表情を浮かべた。

 昨秋のリーグ戦期間中から右肩痛に悩まされ、今春は開幕に間に合わず。終盤復帰し2試合に登板したものの、2イニング限定の投球を余儀なくされていた。今春の東北大は投手陣が手薄で、野手登録の選手がマウンドに上がることもあった。佐藤は「何もできなくて迷惑をかけたし、焦りもあった」と今春を振り返る。そんな中、「これまで真横から投げることを意識していて、それが原因で肩に負担が来ていた」と自己分析し、フォームの改善に取り組んできた。試行錯誤を繰り返し、現在は本来のサイドスローとスリークォーター気味のフォームを状況に応じて使い分けている。

128球の力投で役割を果たした佐藤

 結果的に肩への負担が減っただけでなく、投球の幅も広がった。「投げ方一つで変化球の曲がり方は変わる。同じ球種でも、角度が違うだけで別の球種になる」。そのことに気づき、実戦の中で三振を奪いたい場面や打たせて取りたい場面を見極めながら、投げ方を変えることで自身の思い描く球を投げられるようになった。「秋は先発ローテーションに入って、イニングを稼いでチームを勝たせられるピッチングをしたい」。春は多くの課題を露呈した東北大投手陣。秋は復活を遂げた2年生右腕がその中心を担う。

 野手では、遊撃を守った藤田勇希内野手(2年=横浜サイエンスフロンティア)がチームで唯一2試合続けて安打を放ったほか、準決勝では4回から救援登板し、万能ぶりを発揮した。2年生は今大会で1番を任された佐々木颯太外野手(2年=八戸)や4番に座った森数晃優内野手(2年=県立船橋)ら、リーグ戦でも主力級の活躍を求められる選手が複数いる。上級生とのレギュラー争いを勝ち抜くため、鍛錬の夏に臨む。

“二刀流”をこなした藤田

白星ならずも光った若き力

 仙台大は準決勝で11回タイブレークの末敗退を喫した中、先発した右腕・山名健心投手(2年=霞ヶ浦)は圧巻の5回完全投球を披露した。この日の最速は143キロで、最遅は94キロ。緩急自在の投球でゴロアウト中心ながら三振も6つ奪い、相手につけ入る隙を与えなかった。今春のリーグ戦は4試合に登板するなど首脳陣からの期待値も高く、秋はさらなる飛躍に期待がかかる。また9回から登板した右腕・菊地脩斗投手(1年=作新学院)はタイブレークの苦しい場面を含む3回を投げ切り、最速145キロを計測。将来性を感じさせる投球で存在感を示した。

完璧な投球で試合をつくった山名

 野手では、「1番・遊撃」でフル出場した平川蓮内野手(2年=札幌国際情報)が攻守で持ち味を発揮。打っては2安打2打点をマークし、守っては遊撃で華麗なプレーを連発した。入学から間もなかった1年前の春季新人戦は投手として出場し、昨秋から内野手に転向。今春はリーグ戦、全日本大学野球選手権でベンチに入り続け、着実に経験を積み重ねている。「野手としてプロへ行く」目標に向け、まだまだ進化を止めない。

2回に2点適時打を放ち、塁上で笑顔を見せる平川(左)

 1回戦で4安打1得点と打線が沈黙した東北学院大は、5番を打った中田裕生内野手(2年=大館鳳鳴)が特大のソロ本塁打でスタンドを沸かせた。2回、初球をフルスイングした打球は左翼席へ一直線。昨秋の新人戦でも本塁打を放っており、2季連続の一発となった。「球に合わせることなく、全力で振って全力で飛ばす」ことを意識しているという長距離砲はリーグ戦でもアーチを描くことができるか、注目だ。

先制ソロを放ちダイヤモンドを一周する中田

 投げては、先発した千葉達弥投手(1年=仙台東)が3回までは走者を一人も出さない好投を披露。2番手の三浦宗大投手(2年=盛岡大付)も緩急を生かした投球で2回3分の1を無失点で切り抜けた。ともに右腕で直球の最速は130キロ台中盤ながら、巧みな投球術でテンポよく抑えられる強みを見せつけた。

 宮城教育大はスタメン出場した全員がすでにリーグ戦を経験しているメンバーだったが、見せ場をつくることはできず1回戦で5回コールド負けを喫した。そんな中、先発した遠藤直投手(1年=仙台南)は4回まで粘投を続け、野手では古川慎旺内野手(1年=泉館山)が1安打2出塁2盗塁、大川口颯月外野手(1年=東北学院)が1安打2出塁1盗塁を記録するなど、1年生の奮闘も見られた。春は全敗で最下位に沈んだ宮城教育大は、フレッシュな戦力を軸に建て直しを図る。

第1打席で大学での公式戦初安打をマークした大川口

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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