“ラクロスへの恩返し”神奈川大学ラクロス部の危機を側面支援

2020年春から流行している新型コロナウイルスは、大学スポーツに励む日本中の学生にとって、大きな障害となっている。練習場所の制限やコミュニケーション機会の減少、資金不足。活動の足枷となっている要因は数えきれない。

i-NNO(いのう)株式会社の創業者である曽根圭輔(そねけいすけ)氏は、苦しい状況下で少しでも活動をしてもらうために、母校の神奈川大学男子ラクロス部を側面から支援している。曽根氏は、大学時代に4年間、社会人のトップリーグで10年間、ラクロスをプレーした。
※トップリーグ:社会人ラクロスの最高峰リーグ

支援の背景にあるのは、ラクロスへの“恩返し”だ。ラクロスを通した“成長”と“つながり”が、今の人生においても大きな支えになっているという。

母校の危機的状況に力を添えている背景と想いを聞いた。

「自分を成長させてくれた」ラクロスへの恩

2021年の初め、神奈川大学男子ラクロス部は、コロナ禍での新入部員減少により部としての存続が危ぶまれていた。しかも、新型コロナウイルスの流行から現在まで、学校のグラウンドは使えていない。外部施設で練習を行う必要があるため、移動費や施設利用料の負担も大きくなる。

ラクロスは自分を成長させてくれた存在。そんな自身の原点ともいえる母校が、苦しい状況にあったのだ。

「僕が入部した当時の神奈川大学男子ラクロス部は、キャプテンが仕切りながら学生だけでチームを作り上げていました。目標を達成するためにどうすべきかを考える力は、ラクロスを通じて身に付けましたね」

大学ラクロスは、多くが学生主体で運営されている。母校の神奈川大学男子ラクロス部も例外ではない。曽根氏は、ラクロスを通じて“目標達成のために何が必要かを考え、行動する力”が身に付いたと感じている。

曽根氏は現在、Story Design house株式会社のゼネラルマネージャーとして、幅広いマーケティングやPR案件の責任者を務めている。自身でも、MBA(経営学修士)取得のタイミングで2019年にi-NNO株式会社を設立。地方創生のサポートやスタートアップの育成などを行っている。

多岐にわたる活躍の根源にあるのが“ラクロス”なのだ。

「ラクロスとの出会いは、自分にとって圧倒的なLife Changer(人生を変えた出来事)だと常に思っている」とラクロスへの感謝を口にする。

ビジネスシーンでの曽根氏

垣根を越えたつながりが生まれるラクロスコミュニティ

ラクロスへの恩は、自身を成長させてくれたことだけではない。ラクロスを通して生まれた“つながり”が、現役時代はもちろん、引退後の人生にも大きな影響を及ぼしているというのだ。

「ラクロスのコミュニティって、良い意味で距離が近いんですよ。試合や練習会などを通して、色々な大学の選手と仲良くなるんです。『ラクロスをしていたと聞くだけで心理的ハードルが2段階くらい下がって、初対面でも一気に仲良くなることがよく起きるんです』と言う人もいるくらいなんですよ」

ラクロスを通じて出会った仲間との“つながり”について話す。

ラクロスのコミュニティは大きくない分、競技者同士の距離が近くなる。学生主体で活動が行われることも相まって、年齢や大学、チームの垣根を越えてすぐに仲良くなれるという。ラクロスは、縦にも横にも、深いつながりが生まれやすいのだ。

仲間とコミュニケーションをとる曽根氏

「自分にとって、ラクロスで生まれた“つながり”は、どれも尊いと思っています。仲間と会話をしたり(今は制限があるけれど)お酒を飲んだり、社会人(東京ラクロスクラブ/TLC)時代に10年以上ラクロスをしていた時間は、プレー中もプライベートも本当に濃厚で一生忘れることができない時間でした」

ラクロスを始めたことで次々と生まれた“つながり”は、自分にとってかけがえのないもの。ラクロス時代のつながりから生まれる仕事もあるそうだ。

そして、今回の神奈川大学男子ラクロス部に対する支援も、かつての“つながり”がきっかけとなって始まった。

 “つながりから生まれた母校への支援

「自分自身が成長できたのも、今の仲間とつながれたのも、“神奈川大学男子ラクロス部”という存在があったから。自分自身が恩をもらったラクロス、そのきっかけとなった神奈川大学男子ラクロス部が困っていると分かったとき、何もしない訳にはいきませんでした」

自分を成長させ、さまざまなつながりを作ってくれた神奈川大学男子ラクロス部は原点であり、切っても切れない存在。

大学、クラブチームの後輩である隅野英樹氏が、今年から神奈川大学男子ラクロス部のヘッドコーチになった。新ヘッドコーチから聞かされたのは、母校の苦しい状況だ。

「今まで当たり前だったことが当たり前にできない。新型コロナウイルスの影響はどうしようもないと分かってはいるけれど、少しでも良い体験ができるようにサポートできたらという気持ちは大きいですね……」

神奈川大学男子ラクロス部は、2020年度の新入生が2人しかいなかった。大学ラクロスは、多くのプレーヤーが高校まで未経験であるため、新入生の数が部の強さに直結する。しかも、2年続けて新入生が少ないと、部としての存続が危ぶまれる。2021年度に新入生を確保できなければ、部自体がなくなってしまう危機的状況だったのだ。

そこで今年の2月から、自身のスキルや経験を活かして新入生勧誘のサポートを行った。「リクルーティングアドバイザー」として共に勧誘のサポートを行ったのは、千葉大学でラクロスをプレーしていた、同じ会社の村上大和氏だ。村上氏は、ラクロスへの想いだけでサポートに協力してくれたという。

ここでもまた、ラクロスを通した“つながり”が発揮された。

勧誘にあたっては、PR資料の作成やSNS活用など、体系的なアプローチを提案。また勧誘試合を実施して、ラクロスのカッコよさを肌で感じてもらう機会も作った。観戦者をその場で直接勧誘できるため、一石二鳥の仕組みである。

結果として、2020年度に2名だった新入生は、2021年度に17名まで増加。目標としていた20名には届かなかったものの、ラクロス部廃部の危機は乗り越えた。

「自分は側面から支援しただけで、勧誘を頑張ったのは学生たち。でも、成果が出て良かったと思います。勧誘試合を実施する過程でも、大学時代の同期やクラブチームの仲間から色々とサポートしてもらいました」

曽根氏は、勧誘サポートのほかにも、資金支援や支援のきっかけ作り、不定期での指導なども行っている。

「ラクロスを続けられない学生の中には、金銭面が障害となっている人も多いんです。『コロナ禍で親が苦しい状況なのに、自分だけラクロスをしていて良いのかなあ』って。多くの学生が、僕の学生時代と比べられないほどのハンデを背負っている。その中でも頑張っている学生のために、何とかしてあげたいと思っています」

自分の現役時代を思い出しながら、母校の現状と支援への想いを語った。

人間的成長つながりを大切にしてほしい

新型コロナウイルスで苦しい状況の中、このような側面支援は神奈川大学男子ラクロス部員にとって、大きな力になっている。では、母校の学生にどのような未来を期待しているのだろうか。

「本気でラクロスに取り組む以上、結果を出すことはもちろん大事。自分たちの自信にもなるし、その自信が糧になって多方面に好循環を生むと思います」

社会人チームでラクロスをプレーする曽根氏

神奈川大学男子ラクロス部は、現在、関東学生リーグ3部。2021年中の2部昇格と2022年中の1部昇格、そしてリーグ優勝、日本一を目指して日々の練習に励んでいる。

ただ、曽根氏が何より大切にしてほしいと願っているのは、ラクロスを通じた“人間的成長”と“つながり”だ。ラクロス時代にチームメイトだったメンバーはもちろん、かつてのライバルも今は大事な仲間になっている。

「何より、ラクロスを通じた“成長”や“つながり”を大切にしてほしいですね。ラクロス時代に『絶対倒してやる』って戦った相手も、今はすごく、すごく良い仲間になっています。そんなラクロスカルチャーを存分に味わってほしいと思います。苦しい状況でもラクロスを続けてくれたら、OBとしてはそれだけで嬉しいです」

曽根氏が抱く母校への温かい想いは、コロナ禍でひたむきに頑張る学生たちの背中を押し続ける。

(取材 / 文:紺野天地)

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